Back Stage|トッパンホール15周年 室内楽フェスティバル

トッパンホール15周年 室内楽フェスティバル

記念シーズンを彩る、
室内楽、一期一会の祭典
text by 藤瀬綾(Aya Fujise)

トッパン1トッパンホールは、408席の室内楽ホールとして2000年10月1日に産声を上げました。当時はバブル崩壊後の苦境に喘ぐ世情にあり、東京では専門ホールの数も充分と言われていたなか、トッパンホールが(いまさら)新参者として何をするのか、したいのか…そういう懐疑的な声や冷めた注目が少なくなかったことは事実です。
ですがトッパンホールは、世界的にも稀な、まさに“室内楽に最適な”残響を持つ優れた音響と、一歩足を踏み入れただけでその質感の高さが体感される、素材感豊かな木材で惜しみなく組み上げた親密な空間を礎に、開館以来、際立った企画力を武器として、既存の価値観、常識にさまざまな挑戦を続けてきました。15年が経ち、今では小さいながらも東京の音楽シーンの、ひとつの極にはなれたのではないかと自負しています。そんな歩みを踏まえ、節目における新たな試みとして、15周年終盤のこの5月に、室内楽と歌曲によるフェスティバルを開催します。

(c)Giorgia Bertazzi

          (c)Giorgia Bertazzi

中心アーティストは“弦のトッパン”を象徴するひとり、ヴァイオリニストのクリスティアン・テツラフ。彼は、ホール最初期の2001年4月に初登場してくれて以来継続的に招き続けている、トッパンホールにとっては盟友とも呼ぶべき存在。そしてちょうど5年前のあの3月――ホール10周年のさなかに起こった東日本大震災の影響で、ヨーロッパ、とりわけドイツ系のアーティストが来日を控えたなか、わずか2ヵ月後の2011年5月、ひとり颯爽とトッパンホールのステージに立ってくれたアーティストでもあります。共演者は来日を控えたため、当初予定されていたベートーヴェンのソナタ全曲に代わって、急遽J.S.バッハの無伴奏6曲とバルトークの無伴奏ソナタを演奏。息を呑むほどの渾身の熱演で、非常時の混乱と不安にあった私たちを励まし、忘れ難い記憶を刻んでくれました。そしてその日のうちに、企画制作部長・西巻正史がテツラフに提案したのが、この特別企画。以来、ふたりは5年にわたって協議を重ね、お互いの想いを応酬するなかでプログラム、出演者を吟味して、内容を仕上げていきました。

テツラフを筆頭に集まってくれるのは、彼のファミリーともいえるラルス・フォークト(pf)、ターニャ・テツラフ(vc)、レイチェル・ロバーツ(va)。そして、トッパンホールの5つのシリーズから、それぞれを代表するアーティスト達――。〈エスポワール〉からは、いまや自身の名を冠したシリーズ〈日下紗矢子 ヴァイオリンの地平〉を展開するにまで成長した日下紗矢子(vn)、〈おとなの直球勝負〉からは、かつてミュンヘン国際音楽コンクールでテツラフと覇を競った久保田巧(vn)、〈トッパンホール アンサンブル〉を代表するのは、ホールのアンサンブルやチェンバー・オーケストラに欠くことのできない鈴木学(va)、〈ランチタイム コンサート〉からは、その後の主催公演での活躍もめざましい原麻理子(va)が出演します。そして海外若手の都心初リサイタルシリーズである〈エスポワール スペシャル〉を代表するのは、2008年に初登場し、いまではホールの中核アーティストにまで成長したマーティン・ヘルムヘン(pf)。彼のパートナーでもあるドイツ期待のチェリスト、マリー=エリザベート・ヘッカーと一緒に参加してくれます。
一方歌手は、新星が初登場。シリーズ〈歌曲(リート)の森〉を代表するドイツの名歌手クリストフ・プレガルディエンの息子で、海外での評価がうなぎ上りのユリアン・プレガルディエン(Ten)です。これらのメンバーが入れ替わり立ち替わりアンサンブルを組み、さまざまな室内楽曲と歌曲をお届けします。

トッパン2トッパンホールの主催公演というと、最近は特に、余念なく準備し彫琢の限りを尽くすような公演が目立ち、またそこにご期待くださるお客さまも多いところですが、今回は少し趣を変え、即興性と遊び心と、トッパンホールならではの精緻さとを入り交じりあわせた、弦と歌曲によるフェスティバルに仕立てました。
それぞれのアーティストのさまざまな側面や可能性、長年のパートナーとの息の合った演奏や、初共演が生むスリリングな瞬間、その面白さ。ときに人間そのものに触れるような…そんな室内楽の醍醐味を、多面的、多角的に楽しんでいただき、音楽が呼吸する瞬間、生の音楽に触れる悦びを心から味わっていただけたらと思います。
6つのコンサートを通して展開される、繊細さ大胆さ、静寂と躍動感とが広いレンジで交錯するダイナミックなステージを、どうぞ存分にお楽しみください。

これまでも、これからも。
お客さまとアーティストとホールでつくる、三位一体、一期一会の時空間を、トッパンホールは丁寧に積み重ねてまいります。

藤瀬 綾(トッパンホール)
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公演情報
トッパンホール15周年 室内楽フェスティバル
Ⅰ 5月15日(日) 15:00
Ⅱ 5月16日(月) 19:00
Ⅲ 5月18日(水) 19:00
Ⅳ 5月19日(木) 19:00
Ⅴ 5月21日(土) 15:00
Ⅵ 5月22日(日) 15:00
http://www.toppanhall.com/archives/lineup/series1516D.html