ヘンデル:オラトリオ《イェフタ》|藤堂清

Print第13回ヘンデル・フェスティバル・ジャパン(HFJ)
オラトリオ《イェフタ》HMV70
全3幕全曲上演、演奏会形式

2016年1月11日 浜離宮朝日ホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)

<曲目>
ヘンデル:オラトリオ『イェフタ』

<演奏>
指揮:三澤寿喜
イェフタ:辻裕久
イフィス:広瀬奈緒
ストルジェ:波多野睦美
ヘイマー:山下牧子
ゼブル:春日保人
天使:冨山みずえ
コンサートマスター:川久保洋子
首席チェロ奏者:懸田貴嗣
合唱&管弦楽:キャノンズ室内合唱団&管弦楽団(古楽)

2003年より継続しているヘンデル・フェスティバル・ジャパン(以下HFJと表記)、今年が第13回となる。HFJは、ヘンデルの多様な作品をオリジナル編成、全曲ノーカットで演奏し、彼の作曲活動の全体像を紹介することを目的に活動を続けている。日本ではあまり演奏されてこなかったオペラやオラトリオをとりあげることも多く、中には日本初演の演目や、最新の研究をとりこんだ校訂譜による上演など、日本におけるヘンデル受容の先端的役割を果たしてきた。
今年取り上げられたのは、ヘンデルが最後に書き上げたオラトリオ『イェフタ』。この作品は1751年に作曲、1752年に初演されたが、その翌年彼は失明し、以後大作は作れなくなってしまった。

物語は旧約聖書に基づくもの。イスラエルの戦士イェフタは、敵アンモン軍との戦いにのぞみ神の加護を乞い、勝利を得たならば帰還したときに最初に見たものを神に捧げると誓約する。神の助けを得て勝利したイェフタを出迎えたのは、彼の一人娘イフィスを先頭とする乙女たちの行列であった。苦悩するイェフタ、運命を受け入れようとするイフィス、祭司たちの神の導きを乞う声に応えるように天使が使わされ、イフィスが終生、処女として神に仕えることを求める。イスラエルの民の神に感謝する合唱で幕となる。

イェフタ役の辻は、HFJの初めのころから中心的な役割を果たしてきた。今回も彼の歌唱は、言葉の明瞭さとヘンデルのスタイルをしっかりおさえたもので、とくに第2幕で、神への誓約を守ることと、それが娘を失うことを意味することに苦悩する場面での歌唱は聴きごたえがあった。娘のイフィスを歌った広瀬は、みずみずしい声と全音域にわたり安定した響きでこの難役(アリアが8曲ある)を歌い切った。細かな音型の変化もきっちりと決まっていた。彼女の名前はバロック系のオペラやコンサートで見る機会がふえていたが、それにふさわしい実力をみせてくれた。冨山は体調不良とのことで予定されていたイフィスではなく天使を歌ったが、第3幕の一曲のアリアを美しく歌い、今後の活躍を期待させるものであった。ゼブルの春日はこの団体では新顔といってよいだろうが、ていねいな歌い方に好感を持った。
音楽面での中心は、HFJの実行委員長でもある三澤寿喜であり、彼のヘンデルへの情熱なしには続けてくることはできなかったであろう。オーケストラと合唱も、年ごとにずいぶんと精度があがってきているように感じる。この日の演奏も一回きりではもったいないと思うほど充実したものであった。

この『イェフタ』という作品からは、随所で若いモーツァルトが聴こえてくる。彼が生まれたのが1756年であるから、そういった響きが感じられるのも当然なのかもしれない。もちろん、影響を受けたのはモーツァルトの側なのだが。

ある作曲家に特化した取り組み、短期的には目立たないかもしれないが、長く続けていくことで知られていき、認められていくようになっていく。こういった音楽活動にも聴衆としての立場で積極的に参加していきたい。

(追記)
プログラムによれば、今回の上演にはハレ・ヘンデル新全集が用いられた(『イェフタ』  は2009年刊)とのこと。新しい版による日本初演であった。

ヘンデル・フェスティバル・ジャパン
国際ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル協会(ドイツ、ハレ)