NHK交響楽団/『サロメ』|藤堂清
NHK交響楽団 第1823回 定期公演 Aプログラム
リヒャルト・シュトラウス/楽劇『サロメ』(演奏会形式)
2015年12月4日 NHKホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)
<演奏>
指揮:シャルル・デュトワ
管弦楽:NHK交響楽団
ヘロデ:キム・ベグリー
ヘロディアス:ジェーン・ヘンシェル
サロメ:グン・ブリット・バークミン
ヨカナーン:エギルス・シリンス
ナラボート:望月哲也
ヘロディアスの小姓/どれい:中島郁子
5人のユダヤ人 1:大野光彦
5人のユダヤ人 2:村上公太
5人のユダヤ人 3:与儀 巧
5人のユダヤ人 4:加茂下 稔
5人のユダヤ人 5:畠山 茂
2人のナザレ人 1:駒田敏章
2人のナザレ人 2:秋谷直之
2人の兵士 1:井上雅人
2人の兵士 2:斉木健詞
カッパドキア人:岡 昭宏
字幕:岩下久美子
音がうねり、強烈なエネルギーで、聴くものを締め付ける。管楽器が咆哮し、弦楽器全体が大きくまとまって揺れる、オーケストラが主役のオペラ。
演奏会形式の公演というだけでなく、指揮者シャルル・デュトワの音楽作りが、土台となるオーケストラから始まっているからだろう。サロメのバークミン、ヨカナーンのシリンスの二人は、そういったオーケストラと対抗するのではなく、その上に言葉を置くようにのせていく。そのため、彼らの歌唱には無駄な力みがなく、オーケストラとともに響いてくるし、歌詞も聞きとりやすい。デュトワの指揮にピッタリ、はまり込んでいる。ヘロデ、ヘロディアスの二人はともに60代のベテランで、自分の役作りを持っているということもあってか、オーケストラと対峙したり、いなしたりと、若い(といっても40代だろうか)二人とは異なるアプローチをとっていた。この二つの方向の違いが、役の位置づけとも合っていて、効果的であった。
シャルル・デュトワがNHK交響楽団の音楽監督を退く2003年6月に、その総決算として取り上げたのがR.シュトラウスの楽劇『エレクトラ』。オーケストラも歌手も充実していて、記念碑的な演奏となった。
デュトワは名誉音楽監督としてその後も毎年指揮台に立ち、年一回は声楽を含むオペラやオラトリオといった大作を取り上げてきた。今回の『サロメ』もその一つ。
オペラを上演する際、オーケストラはピットに入り、歌手は舞台で演技しながら歌うというのが通常のありかた。演出によって今まで気づかなかった見方や人物像を発見することもあり、舞台を見る楽しみではある。その一方で音楽面だけを考えると演奏会形式のメリットも大きい。指揮者が歌手の動きを気にする必要がない、歌手は譜面を持つことができるといった点が挙げられるだろう。
この演目では、ヨカナーンが地下牢にいる場面では、姿を見せずに舞台のそでで歌い、サロメは踊りが終わると同時にストールを落として立ちあがる、といった動きはあり、それが舞台をイメージする助けになっていた。
私自身、『サロメ』のように上演機会の多い演目を古びた演出で見ることに興味が持てなくなってきている。バークミンのような旬の歌手をそろえたオーケストラの定期公演でのオペラ、NHK交響楽団以外でも増えてきている。そして、そういった演奏の方が評価が高かったりもする。
舞台上演する側はこういった状況をどのように考えているのだろうか?
だいぶ本題からずれてしまったが、今回の『サロメ』も大変充実した演奏であった。2016年12月の定期公演でもデュトワの指揮で「何か」が予定されている。それを楽しみにしたい。