注目の1枚|SAINT-SAËNS~MOUSSA~SAARIAHO|藤原聡
Saint-Saëns Symphony No.3, Moussa, Saariaho : Nagano / Montreal Symphony Orchestra, Latry, J-W.Kunz(Organ)
text by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op.78「オルガン付」
サミー・ムサ(B.1984):「ア・グローブ・イットセルフ・インフォールディング」(世界初録音)
カイヤ・サーリアホ:「地球の影」(世界初録音)
ケント・ナガノ(指揮)モントリオール交響楽団
オリヴィエ・ラトリー(オルガン/サン=サーンス)
ジャン=ウィリィ・クンツ(オルガン/ムサ、サーリアホ)
録音:2014年5月28日~29日、6月1日
メゾン・サンフォニーク・ド・モンレアルでのライヴ
レーベル:ANALEKTA
商品番号:AN28779
カナダのレーベルANALEKTAより、待望のケント・ナガノ&モントリオール交響楽団によるサン=サーンス『オルガン付』の登場。ライヴ録音であるが聴き始めると会場の暗騒音やノイズがリアルで、音響がまるで教会のように感じたのだが(恐らくデュトワの録音で毎回使われていた聖ユスタシュ教会のイメージが重なっていたこともあるだろう)、実際にはモントリオール響の新しい本拠地であるホール、メゾン・サンフォニーク・ド・モンレアル。演奏は極上である。デュトワのもとで培われたこのオケの特質―練り絹のような肌触りでややクールな弦楽器、輝かしくも上品さを保つ金管のシャンパンのような響き、カラフルな木管楽器、これらの類稀なる一体感―は、録音で聴いてもはっきりと感じられる。ナガノとモントリオールのコンビの録音は、ソニーからベートーヴェンの交響曲全集、ティル・フェルナーをサポートしたベートーヴェンのピアノ協奏曲もECMから出ていたが、やはりフランスものにおいてその持ち味が最良の形で発揮されるように思う。弦楽器のフレージングが見事に整えられ、浮き沈みする管楽器群とのバランスの取り方も精妙。音の質感は軽やかでかつ迫力にもこと欠かない。ナガノの解釈自体は取り立てて個性的であるとか、目立つスタンドプレイは全くなくむしろ地味とさえ言えるものだが、それが、演奏によっては「リスト風のいささか誇大妄想的に派手な交響曲」になってしまうこの曲に品格を与えているのは間違いない。曲の姿を誇張せず、さりとて矮小化もせず、見事なレアリザシオンである。中でも第1楽章の第2部の美しさはラトリーのオルガン共々陶然とするし、曲のクライマックスでのリタルダンドとティンパニの最強奏には胸のすく思いだ。決め所は外さない(これで録音に今ひとつの明晰さがあれば…)。カップリングは2曲、最初のサミー・ムサ『ア・グローブ・イットセルフ・インフォールディング』、筆者は初めて耳にする名前だが、地元モントリオール出身で1984年生まれの作曲家。2曲目は今や大家のカイヤ・サーリアホ『地球の影』(もしやと思いライナーを読んでみると、サーリアホはシェリーがキーツの死に際して書いた詩『アドネイス』の一節<Earth’shadows>からこの語句を引いたようだ。となれば、邦題は《地の影》が適切だろう。輸入元の訳による邦題『地球の影』ではニュアンスが変わってしまう。ちなみにフィンランド語の原題は『Maan varjot』。直訳では「地球の影」のようだが)。この2曲はいずれもオルガンの広大な表現力をフルに生かしきり、かつオーケストラも色彩感が極めて豊かな音楽となっており、非常に楽しめる曲となっている。