東京混声合唱団・演奏会|藤堂清
Concert Review
♪東混・八月のまつり 36
林光メモリアル 戦後70年によせて
2015年8月7日 第一生命ホール
Reviewed by 藤堂 清 (Kiyoshi Tohdoh)
<演奏>
東京混声合唱団
指揮/ピアノ:寺嶋陸也
<曲目>
林光:原爆小景(詩:原民喜)
寺嶋陸也:予兆(詩:木島始、委嘱作品初演)
寺嶋陸也:花筐(詩:良寛)
山田耕筰:かやの木山の/曼珠沙華/からたちの花/この道(詩:北原白秋、編曲:林光)
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♪「東京混声合唱団」特別演奏会
祈り、希望、そして未来へ
2015年9月11日 神奈川県立音楽堂
<演奏>
東京混声合唱団
指揮:大谷研二
<曲目>
《アメリカの歌》
バーバー:アニュス・デイ(弦楽のためのアダージョの合唱用編曲)
フォスター・メドレー(ジョン・ワシュバン編曲)
金髪のジョニー/草競馬/ケンタッキーの我が家/夢見る人/おおスザンナ
《武満徹 -生誕85年-》
武満徹:混声合唱のための「風の馬」―全曲―
第1ヴォカリーズ/指の呪文(詩:秋山邦晴)/第2ヴォカリーズ/
第3ヴォカリーズ/食卓の伝説(詩:秋山邦晴)
武満徹:混声合唱のための「歌」
さくら(日本古謡)/翼(詩:武満徹)/島へ(詩:井沢満)/◯と△の歌(詩:武満徹)
さようなら(詩:秋山邦晴)/死んだ男の残したものは(詩:谷川俊太郎)
小さな空(詩:武満徹)/うたうだけ(詩:谷川俊太郎)/小さな部屋で(詩:川路明)
恋のかくれんぼ(詩:谷川俊太郎)/見えないこども(詩:谷川俊太郎)
明日ハ晴レカナ、曇リカナ(詩:武満徹)
東京混声合唱団の二つのコンサート、毎年8月に行われてきた<八月のまつり>と題し林光の『原爆小景』を中心としたプログラムと、今年生誕85年となる武満徹の作品をメインにすえたプログラムを聴いた。1956年東京芸術大学声楽科の卒業生によりプロ合唱団として創設され、以来、定期演奏会のほか、オペラへの出演、オーケストラとの共演など積極的に活動してきている。現在、山田和樹が音楽監督をつとめている。また作曲委嘱活動を積極的に行い、200曲以上の作品を世に送り出している。
<八月のまつり>は、原爆被爆者や戦争犠牲者を「祀る」ことを軸としながらも、「反戦を声高に訴えるというのでもなく」続けられてきた定期演奏会である。とはいうものの、『原爆小景』の第1曲「水ヲ下サイ」で始まる瀕死の被爆者の言葉は聴く者の胸を打ち、戦争や紛争のない世界にしていかなければという思いを強くする。戦後70年の節目の今年、指揮者の寺嶋が作曲した『予兆』は、原水爆の脅威やファシズムによる破壊を歌い、本人の言葉を借りれば「経済的繁栄を背景とした国家主義的な道への警鐘を鳴らす」もの。忘れてはいけないことはさまざまな形で伝えつづけていかなければならない、それを音楽を通じて地道に続けてきていることに意義がある。
9月のコンサートでは、冒頭におかれたバーバーの『アニュス・デイ』が、ささやくような弱声で聴衆を引き付け、祈りの場を作りだす。原曲である『弦楽のためのアダージョ』は、追悼のために演奏される機会も多いが、このア・カペラの編曲は原曲以上に直接的に心に響くものがある。この日の後半の武満の合唱曲、『風の馬』はヴォカリーズの曲が多く、彼の器楽曲の和声と類似した繊細な音の重なりが聴き取れた。この日の最後の部分で歌われた『歌』は、東京混声合唱団のコンサートのアンコール・ピースとして武満が編曲してきたものをまとめて曲集にしたもの。いわばアンコールの大盤振舞いという印象、合唱団もリラックスした様子であった。ポップスのような楽しい曲もあるが、『死んだ男の残したものは』の一節の「平和一つも残せなかった」というような苦い歌詞もあり、武満が今生きていたら、世の動きをどう捉え、どのような行動をとるだろうかと思わずにはいられなかった。
戦後71年目となる来年の<八月のまつり>を我々はどのような思いで迎えることになるのだろうか。