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10月の2公演短評|齋藤俊夫

10月の2公演短評

Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

♪アンサンブルニュークラシカ音楽祭2024 星谷丈生個展、アンサンブルニュークラシカ第5回リサイタル「ダンス―舞踏から音楽へ」
♪オーケストラ・トリプティークコンサート 日本の交響曲作曲家(シンフォニスト)とZEN&SHIN

♪アンサンブルニュークラシカ音楽祭2024 星谷丈生個展、アンサンブルニュークラシカ第5回リサイタル「ダンス―舞踏から音楽へ」→曲目・演奏
2024年10月14日 永福町ソノリウム(昼、夜公演)

今回のアンサンブルニュークラシカ音楽祭2024、第1日目の南聡個展はスケジュールの都合により伺うことができなかったが、2日目の星谷丈生個展とアンサンブルニュークラシカ第5回リサイタル「ダンス―舞踏から音楽へ」は2つとも足を運ぶことができた。
何よりの収穫は星谷のソロCDタイトルにもなっているピアノ独奏曲『四季』の生演奏であった。音量の強弱をものすごく綿密に指定できる特殊な記譜法による、柔らかいとも、鋭いとも、穏やかとも、激しいともいい得るたまらない陰影。記譜できる音量の精密さによって失われたというリズムも、そのリズムのなさが蜃気楼のような魅力として届く。極上の抽象画、しかしモンドリアンやカンディンスキーではなく、色覚に異常をきたしたモネ最晩年の作品のような音響世界に心射抜かれた。
「ダンス―舞踏から音楽へ」で初めて見た「バロック・ダンス」は筆者もよく知らない日舞のよう、いや、もっとよく知らない舞楽や琉球舞踊のような、つまり現代日本人たる筆者とはあまりにも遠い、だがそれゆえにファンタスティックな典雅極まりないものであった。花びらが風に乗ってふうわりふうわりと浮かぶように回り、飛ぶ。洋の東西、時代の新旧を問わず人間の美意識をくすぐる美の香りに心ゆだねた。

♪オーケストラ・トリプティークコンサート 日本の交響曲作曲家(シンフォニスト)とZEN&SHIN→曲目・演奏
2024年10月19日 練馬文化センター大ホール

今回のオーケストラ・トリプティークコンサート、團伊玖磨と伊福部昭の両巨匠の解釈を巡って一悶着も二悶着もあるであろう、いや、なければならないという刺激に満ちたものであった。
團伊玖磨の交響曲については数ヶ月前にも筆者が従来抱いていた田舎臭く野暮ったい印象を覆すソリッドでビビッドで都会的な解釈・真実を突きつけられたのだが、今回もまたさらに都会的な解釈・真実を叩きつけられた。こんなに雄渾にして流麗、重厚にして快活、物寂しく明朗、團の交響曲がそんな両義的な感覚を合わせ持つことができるとは知らなかった! 恐るべしオーケストラ・トリプティーク、恐るべし野村英利。
プログラム後半の半分を占めた伊福部昭『シンフォニア・タプカーラ』もソリッドでビビッドで都会的だが⋯⋯筆者の耳にはあまりにもモダン過ぎるというか、恐ろし過ぎた。以前聴いた井上道義の解釈も都会的だったが、都会的なジェントルな気風があった。それに対して今回の野村・トリプティークの解釈はコンクリートジャングルの闇夜を彷徨うギャング団のような都会的な怖さ、物凄さを感じさせた。楽器も割れよ、鼓膜も破けよと喚き立てる伊福部音楽に、そのポテンシャルの深さと同時に違和感を禁じ得なかったことは記録しておきたい。しかし、オーケストラ・トリプティークと野村英利の実力は存分に味わえた演奏会であった。

(2024/11/15)

♪アンサンブルニュークラシカ音楽祭2024 
星谷丈生個展
<出演>
クラリネット:菊池秀夫、サックス:坂口大介、チェロ:山本徹、ピアノ:星谷丈生、ソプラノ:一鐵久美子、ピアノ:石橋克史
<演目>
(全て星谷丈生作曲)
ピアノのための二重線II
クラリネットとチェロのための二重線I
カイロスとクロノス~バリトンサックスのための
石見相聞歌による三重奏~ソプラノ、クラリネット、ピアノのための~
四季~ピアノのための

アンサンブルニュークラシカ第5回リサイタル「ダンス―舞踏から音楽へ」
<出演>
クラリネット:菊池秀夫、サックス:坂口大介、チェロ:山本徹、ヴァイオリン:池田梨枝子
チェンバロ:平井み帆、バロックダンス:松本更紗(*)
<演目>
L.クープラン:プレリュード(arr.坂口大介)
F.クープラン:ロイヤルコンセール第4番 プレリュード―アルマンド(アンサンブルニュークラシカ編曲)
吉松隆:プレイヤデス舞曲集2より鳥のいる間奏曲
F.クープラン:ロイヤルコンセール第4番 フランス風クーラント(*)―イタリア風クーラント
B.バルトーク:ミクロコスモス『ブルガリアンリズムによる6つの舞曲』よりIV
F.クープラン:ロイヤルコンセール第4番 サラバンド(*)
A.ファルコニエーリ:フォリア(*)
F.クープラン:ロイヤルコンセール第4番  リゴードン―フォルラーヌ(*)
B.コヴァーチ:バッハへのオマージュ
J.S.バッハ:フランス組曲第5番より(arr.星谷丈生)アルマンド―クーラント(*)―サラバンド―ガヴォット(*)―ギーグ
星谷丈生:『枯蓮』より第3楽章サラバンド風(*)
星谷丈生:『カルナータカの花』
M.ラヴェル:クープランの墓(菊池秀夫、坂口大介編曲)プレリュード―フーガ―フォルラーヌ―メヌエット(*)―リゴードン
(アンコール)L.クープラン:リゴードン(*)

♪オーケストラ・トリプティークコンサート 日本の交響曲作曲家(シンフォニスト)とZEN&SHIN
<演奏>
指揮:野村英利
オーケストラ・トリプティーク
ソプラノ:西田真以(*)
<演目>
鹿野草平:交響曲第2番『霊囁の音響包囲』
團伊玖磨:『祝典行進曲』(管弦楽版)
團伊玖磨:交響曲第1番
伊福部昭:『シンフォニア・タプカーラ』
和田薫:『MATSURI!』(アニメ「パズドラ」より)
ZEN&SHIN:機関車天国
ZEN&SHIN:BLACK PANTHER(*)
(アンコール)
和田薫:『MATSURI!』(聴衆の手拍子入り)
ZEN&SHIN:『夏の終わりに』