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新国立劇場 ヴィンチェンツォ・ベッリーニ:《夢遊病の女》|藤堂清

新国立劇場 ヴィンチェンツォ・ベッリーニ:《夢遊病の女》
Vincenzo Bellini : La Sonnambula
全2幕〈イタリア語上演/日本語及び英語字幕付〉
共同制作:テアトロ・レアル、リセウ大劇場、パレルモ・マッシモ劇場
Co-production with Teatro Real of Madrid, Gran Teatre del Liceu, Teatro Massimo di Palermo

2024年10月14日 新国立劇場オペラパレス
2024/10/14 New National Theatre Tokyo, Opera Palace
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀田力丸/写真提供:新国立劇場

<スタッフ>        →foreign language
【指 揮】マウリツィオ・ベニーニ
【演 出】バルバラ・リュック
【美 術】クリストフ・ヘッツァー
【衣 裳】クララ・ペルッフォ
【照 明】ウルス・シェーネバウム
【振 付】イラッツェ・アンサ、イガール・バコヴィッチ
【演出補】アンナ・ポンセ
【舞台監督】髙橋尚史

<キャスト>
【ロドルフォ伯爵】妻屋秀和
【テレーザ】谷口睦美
【アミーナ】クラウディア・ムスキオ
【エルヴィーノ】アントニーノ・シラグーザ
【リーザ】伊藤 晴
【アレッシオ】近藤 圭
【公証人】渡辺正親
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

新国立劇場がオープンしたのが1997年10月、それから27年経っているが、ベッリーニのオペラが演目となることはなかった。今回の《夢遊病の女》が初めての上演となる。それにふさわしい充実した公演であった。

まず、主役アミーナを歌ったクラウディア・ムスキオが素晴らしい。澄んだ響きの美しさ、アジリタの正確さ、弱声でもやせない声、そしてなんといっても的確なフレージング。最後の場面では屋根裏部屋の外の張り出しでアリアを歌ったが、見ている者でも不安になるようなところに立ちながら、まったく危なげなく見事なもの。演技面でもダンサーたちと絡んでの踊りでは一緒にしっかり動いていた。
もう一人の主役エルヴィーノのアントニーノ・シラグーザも還暦とは思えない充実した声とベテランの味を聴かせた。少し弱声のコントロールがむずかしくはなっていたが、全体としては立派なもの。
音楽面でもう一つ大きな役割を果たしたのは、指揮のマウリツィオ・ベニーニ。東京フィルハーモニー交響楽団から透明感がありながら温かみのある音をひきだし、また歌手の歌いやすいように配慮の行き届いた音楽づくりで、劇場を知り尽くした指揮を披露した。これがベッリーニだと言わんばかり。
脇を固めた日本人歌手もおおむね健闘。ロドルフォ伯爵の妻屋秀和は気張りがなくよい感じ。テレーザの谷口睦美は役不足の感もあるが余裕の歌。リーザの伊藤晴は冒頭のアリアでは少し力んでしまったが、まずまずの出来ばえ。

衝撃的な幕切れで終わる《夢遊病の女》。通常のハッピーエンドとはまったく違う投げかけをする。演出のバルバラ・リュックは、「僅かな疑惑で自分に対する評価を瞬時に変えてしまう村人たちの前で、自分を全く信用していない人と結婚するというのは、むしろ罰なのではないでしょうか。」と述べ、「今回の演出では、結末を決めつけることはせず、深く傷つくような体験を経て、運命を切り拓くヒロイン自らの手に、結末を委ねることにしました。」としている。
幕開けは、夢遊病で意識なくさまようアミーナとそれを囲むダンサーたちとのダイナミックな踊りから始まる。背景にはたくさんの木の切り株と残された1本の大木。豊かな森が開発によってなくなっていくことを表しているよう。同じ場面でアミーナとエルヴィーノの結婚式が行われる。が、それらしい華やかさはなく、地面に拡げられた白い布の上に村人たちが花をただ置いていく。続く場面は製材所のよう、嫉妬心からアミーナに言いつのるエルヴィーノ、つまらないことで彼女を傷つける。リーザの宿のロドルフォの部屋、ロドルフォのもとを訪れるリーザ、そこへアミーナが眠ったまま入ってきてベッドに横になる。ロドルフォが新領主と知った村人が入ってくるが彼はいない。リーザはエルヴィーノを呼びに行きアミーナの状況を見せる。怒るエルヴィーノは結婚の中止をいう。訳が分からず嘆くアミーナ。翌日、教会の前、エルヴィーノはリーザと結婚すると村人に宣言し教会に向かおうとする、しかしリーザもロドルフォの部屋にいたことが明らかとなり、エルヴィーノは絶望する。ロドルフォが登場し、アミーナは夢遊病という病気であると教えるが、エルヴィーノは信じられない。そのとき教会の庇の上にアミーナが現れ、眠ったまま失われた恋を歌う。後半のカバレッタはエルヴィーノから結婚の指輪を受け取って歌うことになっているが、この演出ではその部分はなく、同じ場所で歌われた。喜びの歌が、喜びを夢想しているといったものとされてしまった。議論はあると思うが、リュックの考えも一理あると感じた。

この劇場初のベッリーニ、筋の通った舞台としっかりとまとまった演奏、すばらしいシーズン・オープニング公演であった。

(2024/11/15)

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<CREATIVE TEAM>
Conductor: Maurizio BENINI
Production: Bárbara LLUCH
Set Design: Christof HETZER
Costume Design: Clara PELUFFO
Lighting Design: Urs SCHÖNEBAUM
Choreographer: Iratxe ANSA, Igor BACOVICH
Associate Director: Anna PONCES

<CAST>
Il conte Rodolfo: TSUMAYA Hidekazu
Teresa: TANIGUCHI Mutsumi
Amina: Claudia MUSCHIO
Elvino: Antonino SIRAGUSA
Lisa: ITO Hare
Alessio: KONDO Kei
Un notaro: WATANABE Masachika

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra