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9月の1公演短評|齋藤俊夫

9月の1公演短評
Reviewed by 齋藤俊夫 (Toshio Saito)

♪音の始源(はじまり)を求めて Vol.5 佐藤聰明 耳を啓く→曲目
2024年9月26日 Artware hub KAKEHASHI MEMORIAL

結局のところ作曲家というものは、いや、創作に携わる全ての人間は、1人につき1つのことしかできないのであり、そのマンネリズムの中で如何に自己を練磨することができるかが問題なのだ、と今回の佐藤聰明電子音楽個展を聴いてつくづく思った。
今回上演された4作とも、長い長いドローンの群れがじわりじわりと動き、それらとその倍音もまたじわりじわりと動き、始まりも終わりもないような、永遠を思わせる音楽であった。作曲家の作品群の中の多様性など些細なことで、自分の中の確固たる一つの音楽を極限まで突き詰めた上で初めて聴かせうる堂々たる佐藤聰明ワールドに揺るぎなし。
いや、佐藤聰明ワールドと書いたが、ワールドでは収まらず、コズミックとも呼べるスケールの大きさ――それは先に「永遠」と書いたのと相似だ――はまさに仏教の曼荼羅の宇宙であった。一即多、多即一をこれほどまでに音楽的に実現した作品が他にあろうか。一つのドローンがそのまま宇宙全体となり、宇宙全体がまた一つのドローンと等しくなる。聴いていて梵我一如の悟りを得るような、脳のシナプスが自分の外に出て繁茂していくような得も言われぬ音楽体験であった。

(2024/10/15)

♪音の始源(はじまり)を求めて Vol.5 佐藤聰明 耳を啓く
<曲目>
(全て佐藤聰明作品)
『エメラルド・タブレット』(1978)
『マンダラ』(1982)
『鑼鑾幻聲(ららんげんじょう)』(1983)
『マントラ』(1986)