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注目の1枚|近藤譲『時の形』|齋藤俊夫

近藤譲『時の形』
Jo Kondo: A Shape of Time
コジマ録音 ALCD-27
2024年9月発売

Text by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

<曲目・演奏>        →foreign language
(全て近藤譲作曲)
『時の形』ピアノとオーケストラのための
  Pf: 高橋アキ、Cond: 黒岩英臣、NHK交響楽団
『撚りIII』ヴァイオリンとピアノのための
  Vn: 小林健次、Pf: 高橋アキ
『二重奏曲』ハープとギターのための
  Hp: 篠﨑史子、Gt: 佐藤紀雄
『静物』8つのヴァイオリンのための
  Vn(多重録音): 小林健次

聴く人によればこれほどつまらない音楽を書く作曲家もいないだろう、と思えるのは近藤譲である。ブーレーズ、シュトックハウゼン、クセナキスらヨーロッパ前衛音楽の過激さ、ケージやフルクサス、あとヨーロッパを拠点としたがカーゲルら(あと現代日本の川島素晴か?)の(アメリカ)実験音楽のある種ネタ的な珍奇さの両方からも程遠い近藤の音楽の魅力、いや、聴き方を説明することは実に難しい。例えばケージの『4分33秒』ならば「4分33秒間ピアニストが何もせずにピアノの前に座ってるだけ」と言えば、ズブの素人でも「何だそりゃ?」と興味を持ってくれるだろうが、近藤の場合は「音が鳴って、その音と何らかの関係を持った音が次に続いて、さらにその前とその前の音と何らかの関係を持った音が続いて……」と言っても「それのどこが面白いんだ?」と一笑に付すことすらされずに終わってしまうだろう。
(以前本誌のどこかで書いたかもしれないが)かつての筆者も近藤譲の音楽が皆目わからない人間の1人であった。「単調に音が出ては消えてはしていくだけのあの音楽のどこを聴いたら面白いんだ?」と半ば軽蔑的に見つつ、高名だから一応、とCDを持っていた。そして洗濯物を畳むか何かの家事をしながらそのCDをかけていたら、洗濯物などどうでもいいほどの「おぞけ」をスピーカーから出てくる音に感じてしまったのである。それが近藤譲と筆者との本当のファーストコンタクトであった。
「音が鳴って、その音と何らかの関係を持った音が次に続いて、さらにその前とその前の音と何らかの関係を持った音が続いて……」というのは少なくとも今回紹介する全ての楽曲に当てはまる近藤の一貫した作曲コンセプトであり、「単調に音が出ては消えてはしていくだけのあの音楽」というのはアルバムタイトルになっている『時の形』の構造そのものである。
なにが凄いのか、ということは実は今でも筆者にはよくわからない。だが、通常我々が聴いていて「音楽」と捉えられる楽曲と根本的に成り立ちが異なる音楽であることは間違いない。こちらの「聴き方」を根本から変えねば捉えられない神秘の力を持った音楽なのである。
しかし、である。これ以上ないほどの個人技としての前衛性を持ちつつも、その個人技が個人のままでほぼ完結せざるを得ない、という点でクラシック音楽、現代音楽、前衛・実験音楽の終末を告げるものかもしれない、というのも事実である……と書いていて気付いたが、山根明季子の「水玉コレクション」は近藤の音楽の一つの後継者的可能性を持ち得る作品群かもしれない。となると、まだまだ歴史の終わりなどは来ない……のだろうか?なるべくならそうであって欲しいが。いずれにせよ、一聴してガッカリしても聴き続けて開眼するに値するCDアルバムが現れたことをお伝えして拙稿を終わりとする。

(2024/10/15)

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<Pieces and Players>
(All pieces are composed by Jo Kondo)
“A Shape of Time” for Piano and Orchestra
  Pf: Aki Takahashi, Cond: Hideomi Kuroiwa, NHK Symphony Orchestra
“Strands III” for Violin and Piano
  Vn: Kenji Kobayashi, Pf: Aki Takahashi
“Duo” for Harp and Guitar
  Hp: Ayako Shinozaki, Gt: Norio Sato
“Still Life” for eight Violins
  Vn (multiple recording): Kenji Kobayashi