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小菅 優プロデュース《月に憑かれたピエロ》|藤堂清

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
CMGプレミアム 小菅 優プロデュース《月に憑かれたピエロ》
CMG Premium – Pierrot Lunaire produced by Yu Kosuge

2024年6月5日 サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
2024/6/5 Suntory Hall Blue Rose
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 池上直哉/写真提供:サントリーホール

<出演>        →foreign language
ピアノ:小菅優
ヴァイオリン&ヴィオラ:金川真弓
チェロ:クラウディオ・ボルケス
フルート&ピッコロ:ジョスラン・オブラン
クラリネット&バス・クラリネット:吉田誠
メゾ・ソプラノ:ミヒャエラ・ゼリンガー

<曲目>
ストラヴィンスキー:クラリネット独奏のための3つの小品 より 第1番
ストラヴィンスキー:《シェイクスピアの3つの歌》(フルート、クラリネット、ヴィオラ、声楽)
ラヴェル:《マダガスカル島民の歌》(フルート、チェロ、ピアノ、声楽)
ベルク:室内協奏曲 より 第2楽章「アダージョ」(ヴァイオリン、クラリネット、ピアノ用編曲)
シェーンベルク:《月に憑かれたピエロ》作品21

 

ストラヴィンスキー、ラヴェル、ベルク、シェーンベルク、4人の作曲家の編成の異なる作品を集めたコンサート。特にシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》では、出演者全員が曲により編成を変えて登場する。

最初のストラヴィンスキーの〈クラリネット独奏のための3つの小品〉の第1番は、照明がほとんど落とされている中、クラリネットの吉田が客席の間を歩きながら演奏し、舞台に向かった。そのまま、次の曲、ストラヴィンスキーの《シェイクスピアの3つの歌》へと入っていく。フルートとクラリネットが絡み合いながら奏でる旋律に乗って〈耳に響くは楽の音〉が歌われる。ゼリンガーの幅広い音域で安定した声は気持ちよく聴けた。2曲目の〈父は五つ尋海の底〉の最後に響く弔いの鐘の音、3曲目の〈まだらなヒナギクと青いスミレと〉でのカッコウの鳴き声が印象的。
ラヴェルの《マダガスカル島民の歌》は、フルート、チェロ、ピアノと歌手という編成。〈ナアンドーヴ〉、若者が歌う彼女との官能的な悦びのひと時。「ナアンドーヴ ああ美しいナアンドーヴ!」という繰り返しが耳に残る。〈アウア!〉は侵略者である白人に気をつけろという警告の歌。ゼリンガーはダイナミクスを大きくとり「アウア!」という叫びを印象づけた。3曲目の〈気持ちのよいことだ〉、暑さの残る夕暮れ、女たちに声をかけ、歌や踊りを求める男、最後の「さあお行き、食事の準備をするのです」は抑揚なく語られる。
前半の最後は、ベルクが自身のピアノ、ヴァイオリン、13管楽器のための室内協奏曲を、ヴァイオリン、クラリネット、ピアノのために編曲した第2楽章「アダージョ」。小菅のピアノが主導的な役割を果たす。

後半はこのコンサートのタイトルでもあるシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》。1912年に作曲されたこの作品は、シュプレヒシュティンメを担う女声、フルートとピッコロ、クラリネットとバス・クラリネット、ヴァイオリンとヴィオラ、チェロ、ピアノの6名で演奏される。曲は全3部構成、各部7曲ずつの全21曲、”Pierrot Lunaire”という同名のタイトルのフランス語の詩集のうち、ドイツ語に訳された詩より選ばれている。月とピエロをテーマの中心とする第1部、絞首台、斬首といった死をめぐる第2部、ピエロの郷愁、帰郷などを歌う第3部からなる。
ゼリンガーのシュプレヒシュティンメは、全体としてしっかりと響きを作り、歌う要素が強い表現であった。ほとんど歌いっぱなしのこの曲で、最初から最後まで緩むことなく見事な演奏。器楽パートは、曲ごとに構成が変わり、それによりバックの色合いが多様となる。特にどの楽器が中心となるということはないが、5人がそれぞれに技術も表現も優れていた。

シェーンベルクを中心としたプログラム、6名がそれぞれの楽器(声楽も含め)の魅力を発揮した。また、さまざまな組み合わせで聴かせたことで多様な表情を生み出した。室内楽の楽しみを感じさせる優れた構成のプログラムであり、小菅のプロデュースは称賛に値する。

(2024/7/15)

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<Performers>
Piano: Yu Kosuge
Violin and Viola: Mayumi Kanagawa
Cello: Claudio Bohorquez
Flute and Piccolo: Jocelyn Aubrun
Clarinet and Bass-Clarinet: Makoto Yoshida
Mezzo-Soprano: Michaela Selinger

<Program>
Stravinsky: No. 1 from 3 Pieces for Clarinet Solo
Stravinsky: 3 Songs from William Shakespeare
Ravel: Chansons madécasses
Berg: The 2nd Movement “Adagio” from Chamber Concerto (arr. for Violin, Clarinet and Piano)
Schoenberg: Pierrot Lunaire, Op. 21