Menu

ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024|藤堂清

ヤニック・ネゼ=セガン指揮 METオーケストラ来日公演2024
Yannick Nézet-Séguin conducts MET Orchestra, Japan tour 2024

2024年6月27日 サントリーホール
2024/6/27 Suntory Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 長澤直子 (Naoko Nagasawa)

<演奏>        →foreign language
MET オーケストラ(管弦楽)
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
エリーナ・ガランチャ(メゾソプラノ)
クリスチャン・ヴァン・ホーン(バスバリトン)

<プログラム>
ワーグナー:歌劇《さまよえるオランダ人》序曲
ドビュッシー:歌劇《ペレアスとメリザンド》組曲(ラインスドルフ編)
バルトーク:歌劇《青ひげ公の城》(演奏会形式・日本語字幕付)

 

クリスチャン・ヴァン・ホーンとエリーナ・ガランチャが舞台両袖から登場。「着いたぞ。ご覧、これが青ひげの城」とヴァン・ホーンが歌い出すと、オーケストラの集中が高まり、一気にオペラが動き出す。冒頭の吟遊詩人の口上はスピーカーから流され、これがいささか大きすぎて、途中から入るオーケストラとのバランスが悪かったが、この青ひげの一言で、ガラリと変わった。オーケストラは歌に寄り添い、緻密な演奏を繰り広げる。ガランチャとヴァン・ホーン、二人の独唱者の声、オーケストラの響きに乗ってビンビンと伝わってくる。「ユディット、それでもついてくるのか」と尋ねる青ひげに「行きます。行きます。青ひげ」と応えるユディット。その繰り返しが緊迫感をもたらす。この短い言葉だがガランチャの声のなめらかで魅力的なこと。一方のヴァン・ホーンの深々とした声、そして淡々とした表情が威圧感を生み出している。
ユディットは7つの閉まった扉を開けるよう求め、「すべての扉を開けなくては」という。青ひげは「なぜそうするのか」と聞く。彼女の答えは「あなたを愛しているから」というもの。第1の扉を開けると、そこは拷問部屋。彼女は「ひどい」とはいうものの、青ひげの「怖いか?」という問いには「恐れてはいない」と返す。第2の扉は武器庫、膨大な数の兵器がある。青ひげは、第3から第5の扉の鍵をユディットに渡し、「何を見ようと尋ねてはならぬ」と言い、開けるように促す。第3の扉の中は宝石庫。美しい宝石の数々、だがそれには血がついている。第4の扉を開けるとそこは花園。美しい花々が咲いている。が、白バラの根元は血だらけ。ユディットの「誰が水をやっているの?」という問いに、青ひげは「尋ねてはならぬ」と返し、第5の扉を開くようにという。扉を開けると、その先には青ひげの領地が拡がる。広大な美しい土地。ユディットは感嘆の声をあげる。青ひげは、残りの二つの扉をそのままにして、自分のところに来るようにと求めるが、ユディットはあくまでもすべての扉を開くことを求める。第6の扉の向こうには、静かな白い湖が。何の水という彼女の問いに、「涙だ」と答える青ひげ。そして最後の扉を開けず、何も聞かずに、口づけすることを求める。しかし、ユディットは彼女の前の妻たちのことを問い詰め、第7の扉の中に死体があるのだろうと迫る。開けられた扉の中には、三人の彼の妻たちが生きていた。彼女等の美しさを賛美する青ひげ。その仲間にユディットは第四の妻として加えられていく。
厚いオーケストラを突き抜けて聴こえてくるガランチャのつややかな声、ヴァン・ホーンの威厳のある強い声、オペラを聴く喜びを強く感じさせてくれる。第5の扉でのバンダも加わった壮麗な響きは、このオーケストラの実力を最もよく示していた。第7の扉の前でのユディットと青ひげの緊迫したやり取り、ガランチャとヴァン・ホーンの充実した声の対決、そしてそれを支えるオーケストラの緩みのない演奏。やはりMETのオーケストラ、演奏会形式であってもオペラで輝くと感じさせられた。

演奏会前半の2曲、後半に較べると、満足できるものではなかった。
《さまよえるオランダ人》序曲は、音量面では十分なのだが、金管楽器にミスが多く、また全体のテンポも間延びした印象を受けた。
二曲目の《ペレアスとメリザンド》組曲は、オーケストラの音色に惹きつけられたが、声楽パートのない部分を集めた楽曲構成は、このオペラを味わうのとは少し違うという印象。

優れた歌手と共演することで、その実力を最大限発揮したMETオーケストラ、そのポテンシャルを聴かせてくれた。

(2024/7/15)

—————————————
<Performers>
MET Orchestra
Yannick Nézet-Séguin, conductor
Elīna Garanča, mezzo-soprano
Christian Van Horn, bass-baritone

<Program>
Wagner: “Der fliegende Holländer” Overture
Debussy: “Pelléas et Mélisande” Suite (arr. Leinsdorf)
Bartók: “Bluebeard’s Castle” (Concert Performance, with Japanese subtitles)