Pick Up (2023/5/15)|ルソン・ド・テネブル第1回演奏会|大河内文恵
ルソン・ド・テネブル第1回演奏会
Leçons de ténèbres
2023年4月7日 すみだトリフォニーホール 小ホール
2023/4/7 SUMIDA Triphony hall, small hall
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
<出演> →foreign language
午後の部
村上淳(公演監督)
阿部早希子(ソプラノ)
桒形亜樹子(オルガン)
森川郁子(ソプラノ)
高橋弘治(バロック・チェロ)
山下瞬(バロック・チェロ)
上羽剛史(オルガン/クラヴサン)
夜の部
小林恵(ソプラノ)
松原典子(ソプラノ)
平尾雅子(ヴィオール)
山下実季奈(オルガン/クラヴサン)
鈴木美紀子(ソプラノ)
染谷熱子(ソプラノ)
井上玲(リコーダー)
宇治川朝政(リコーダー)
福間彩(クラヴサン/オルガン)
<曲目>
午後の部
G.P. コロンナ:木曜日のためのエレミア哀歌より 第1レクツィオ
F. ドゥランテ:アダージョ ハ短調
:水曜日のための第3レクツィオ
L. レーオ:トッカータ第3番 ト調
:聖木曜日のためのレクツィオより エレミア哀歌I
:フーガ第1旋法 正格
:聖木曜日のためのレクツィオより エレミア哀歌II
G.F. サンチェス:聖母の涙(スターバト・マーテル)
~休憩~
J,-H. フィオッコ:聖木曜日のための第1哀歌
B. マルチェッロ:2本のチェロと通奏低音のためのソナタ第2番
J.-H. フィオッコ:クラヴサン曲集より 「イタリア人」「フランス人」
W. de フェッシュ:2本のチェロのためのソナタ第2番
J.-H. フィオッコ:聖木曜日のための第2ルソン
夜の部:
F. クープラン:聖水曜日のための第1ルソン
M. マレ:プレリュード
E. ジャケ・ド・ラ・ゲール:シャコンヌ(抜粋)
F. クープラン:聖水曜日のための第2ルソン
J.-H. ダングルベール:プレリュード
F. クープラン:聖水曜日のための第3ルソン
~休憩~
P. D. フィリドール:第3組曲より第1楽章
J. B. リュリ:ロンドーによるサラバンド
M.-A. シャルパンティエ:聖水曜日の9つのレスポンソリウムより 第1夜課第2ルソン後の第2応唱 私の魂は悲しい H. 112
M. -A. シャルパンティエ:サンフォニー H. 529
:マグダラのマリアのためのモテ H. 373
M. マレ:組曲ホ短調より
M.-A. シャルパンティエ:聖金曜日の第2夜課第2ルソン後の第2応唱 道行くすべての者よ H. 134
:聖金曜日の第3ルソン H. 95
復活祭前日までの1週間である聖週間(受難週)のなかでもとくに最後の3日間は、キリスト教の多くの宗派にとって大切な期間である。聖金曜日に受難曲を歌う習慣は、近年日本でも根付きつつあるものの、聖木曜日・聖金曜日・聖土曜日の3日間に一日9回おこなわれる聖書朗読に対する応唱27曲が主にイタリアでまとめて作曲された「聖週間のためのレスポンソリウム」は、日本ではほとんど演奏されておらず(1) 、フランスで広まったルソン・ド・テネブルも近年演奏会で部分的には取り上げられるものの、まとめて演奏される機会はほとんどなかった。
そのようななか、聖金曜日にあたる4月9日、ルソン・ド・テネブルをタイトルにした演奏会がおこなわれた。午後の部と夜の部がそれぞれ休憩で2つに区切られ、実質的には4つの演奏会がおこなわれた形である。14時開演の部を「昼の部」とせず「午後の部」としたところに主催者のこだわりが感じられた。
午後の部は前半がイタリア、後半がベルギーと、フランス以外の国での音楽が取り上げられた。午後の部前半はコロンナ、ドゥランテ、レーオ、サンチェスとおもに17世紀の作曲家で、初期バロックの作曲家としてお馴染みだが、こういった作品を書いていることは初めて知った。
桒形がおそらくほとんどが日本初演と言っていたが、パリ国立図書館や大英図書館などから取り寄せた楽譜を解読する作業(すなわち演奏するための準備段階)に手間と時間がかなりかかったとのこと。桒形の演奏するオルガンの音色が教会の雰囲気を醸し出していた。
阿部の歌は歌詞がはっきりと聞こえ、祈りの歌というのは旋律の美しさよりも歌詞が重要だということを感じさせた。最後のサンチェスのスターバト・マーテルはいかにも初期バロック的で下行バスが印象的。スターバト・マーテルというとペルゴレージが思い浮かぶが、サンチェスの曲は音の動きが少なめで抑制的ながら、歌唱旋律も下行の動きが多く沁みる。
午後の部後半はブリュッセル生まれのイタリア人フィオッコを中心としたプログラム。上羽によれば、チェロ2本を使った珍しい編成のラメンタがあるということで、その編成をいかした構成になったとのこと。フィオッコの曲が始まって、時代が進んだなと感じた。聖木曜日のための第1哀歌では2段落目の2本のチェロが美しい。この曲ではないが鍵盤楽器なしでチェロ2本だけになった時に両者の音程の取り方がずれる箇所があったのが気にかかった。午後の部後半の森川の歌は阿部と対照的にメロディー優先のように聴こえた。おそらくそれは森川の歌い方というより、この時代の作品の特徴によるものなのだろう。
夜の部は前半がF.クープラン、後半はシャルパンティエを中心とした、ルソン・ド・テネブルといって真っ先にイメージする作曲家たちの作品で構成された。1曲目のクープランの聖水曜日のための第1ルソンは事情により予定された歌手ではなく主催者の村上による歌唱であった。本日の歌手が全員ソプラノであったなか、声楽の訓練を受けた経験があるとはいえ、歌手を本業としない演奏家がいきなり代役をつとめるというのは、かなり無謀なことではあり、それが見えてしまう部分もあったが、いわゆる演奏会ではなく実際の典礼の場にはむしろこちらの方が近いのかもしれないと思った。だからこそ、4曲目での小林の澄んだ声がなお一層心を打った。
最後の部は鈴木と染谷の歌にリコーダー2本、ヴィオール、オルガンが入った豪華版。前の部の小林と松原は声質がかなり違っていたが、鈴木と染谷は声質が似ており、二重唱になったときの印象が強く残った。
続くサンフォニーH.529はリュリのアルミードのパッサカリアと同じ低音バスとメロディーで、その次のモテH.373も同じ低音バスで始まる。マラン・マレの組曲はまさに至福の時間。そして最後の聖金曜日の第3ルソンは、誰かが間違えたのではないかと思ってしまうほどの不協和音が時々あらわれる。それも、ここまでずっと聴いてきた音楽の積み重ねの上だと、人生そうそうクリアにはいかないよねと受け入れられてしまうのが不思議である。
このコンサートのタイトルには「第1回」と明記されていた。2回3回と続いて、もうすぐ復活祭だからルソン・ド・テネブル聞きたいなと自然に思える身近な存在になったら素敵だなと期待している。
(2023/5/15)
(1)2019年5月にエクス・ノーヴォが、アレッサンドロ・スカルラッティのレスポンソリウムの演奏会をおこなっている。
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<performers>
Atsushi MURAKAMI Director
Sakiko ABE soprano
Akiko KUWAGATA organ
Yuko MORIKAWA soprano
Koji TAKAHASHI violoncello
Shun YAMASHITA violoncello
Tsuyoshi UWAHA organ/clavecin
Megumi KOBAYASHI soprano
Noriko MATSUBARA soprano
Masako HIRANO viole
Mikina YAMASHITA organ/clavecin
Mikiko SUZUKI soprano
Netsuko SOMEYA soprano
Rei INOUE recorder
Tomokazu UJIGAWA recorder
Aya FUKUMA clavecin/organ
<program>
Giovanni Paolo Colonna: Prima lamentazione del Giovedi sera
Francesco Durante: Adagio do-minore
: Lezione Terza per il Mercoledi
Leonardo Leo: Toccata in sol
: Lezione del Giovedi santo, Lamentazione prima
: Fuga del P.mo Tono autentico
: Lezione del Giovedi santo, Lamentazione seconda
Giovanni Felice Sances: Pianto della Madonna(Stabat Mater)
–intermission–
Joseph-Hector Fiocco: Première lamentation du jeudi saint
Benedetto Marcello: Sonata II
J.-H. Fiocco: L’Italiene, La Françoise
Willem De Fesch: Sonata II
J.-H. Fiocco: Seconde leçon du jeudi saint
François Couperin: Première leçon du mercredi saint
Marin Marais: Prélude
Élisabeth Jacquet de La Guerre: Chaconne [extrait]
F. Couperin: Seconde leçon du mercredi saint
Jean-Henri d ‘Anglebert: Prélude
Louis Couperin: Fantasie pour les violes [extrait]
F. Couperin: Troisième leçon du mercredi saint
–intermission–
Pierre Danican Philidor: Lentement(Troisieme suite)
Jean-Baptiste Lully: Sarabande en rondeau
Marc-Antoine Charpentier: Second repons apres la seconde leçon du premier nocturne Tristis est anima mea H. 112
M.-A. Charpentier: Simphonie H. 529
: Sola vivebat in antris H. 373
Marin Marais: Suite en Mi mineur [extrait]
M.-A. Charpentier: Second Repons apres la Seconde leçon du Second nocturne du Vendredi saint H. 134
: Troisième leçon de ténèbres du Vendredi saint H. 95