中村恵理 ソプラノ・リサイタル|藤堂清
土曜ソワレシリーズ 第257回
中村恵理 ソプラノ・リサイタル
2016年6月4日 フィリアホール
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
<演奏>
中村恵理(ソプラノ)
木下志寿子(ピアノ)
<曲目>
シューベルト:ガニュメート D544
ます D550
糸を紡ぐグレートヒェン D118
C.シューマン:私はあなたの眼の中に Op.13-5
彼は雨と嵐の中をやってきた Op.12-1
美しさゆえに愛するのなら Op.12-2
R.シューマン:《子どもの情景》Op.15より <トロイメライ>(ピアノ・ソロ)
R.シュトラウス:献呈 Op.10-1
薔薇のリボン Op.36-1
ツェツィーリエ Op.27-2
———————-(休憩)————————
小山 作之助:夏は来ぬ
中田 喜直:すずしきうなじ
霧とはなした
プッチーニ:歌劇《ジャンニ・スキッキ》より <私の大好きなお父さん>
マスネ:歌劇《マノン》より <さようなら、私たちの小さなテーブルよ>
歌劇《エロディアード》より <彼は優しい人>
ヴェルディ:歌劇《椿姫》より <ああ、そはかの人か、花から花へ>
——————–(アンコール)————————
プッチーニ:歌劇《つばめ》より<ドレッタの美しい夢>
岡野貞一:朧月夜
リサイタルの最初から<ガニュメート>という重い曲、大丈夫だろうかと心配したが、歌い出しの声の厚み、音域によらず安定した響きにひとまず安心。曲の後半、ガニュメートがオリンポスへ登っていく高揚感を表現できれば、もっと聴き映えしただろう。
新国立劇場の研修生であった彼女が、バルバリーナとして《フィガロの結婚》本公演の舞台に立ったのは2003年10月のこと。研修所修了後イギリスで研鑽をつみ、カーディフ国際声楽コンクールのファイナリスト、ロイヤル・オペラハウスの《カプレーティ家とモンテッキ家》へ出演と、着実にステップアップ。2010年からはバイエルン州立歌劇場の専属ソリストとして活動している。2017年4月には、新国立劇場の《フィガロの結婚》に、スザンナとして戻ってくる。
この日は、5月から6月にかけて日本各地で行ってきたリサイタルの最終日。
プログラム前半はドイツ歌曲、後半は日本歌曲3曲とオペラ・アリアという構成。シューベルト、R.シュトラウスのよく歌われる曲の間に、クララ・シューマンをはさみ、独自性を出している。
ドイツ語の響きが美しく、詩の流れがスーッと入ってくる。高音域の安定感と細かな音の動きがR.シュトラウスの歌曲を美しく聴かせた。
日本歌曲に関しては少し違和感をおぼえた。日本語の歌では単語一つが複数の音にまたがることがほとんどであるが、それを言葉として聞きとれるようにしなければならない。ドイツ語を歌うのと同じ発声法では、単語としてのまとまりを欠いてしまう場合がある。まるで、「ローマ字で歌っている」ように聞こえてしまうところがあった。
オペラ・アリアは、レパートリーとしているもの、これから歌おうとしているもの、どちらも完成度が高かった。私は《エロディアード》のサロメのアリアが気に入った。
アンコールの1曲目<ドレッタの美しい夢>も、彼女の高音の美しさが活きていた。
これからも、声に無理な負担をかけることなくレパートリーを拡げ、多くの劇場での経験を積んでいくことを期待したい。