2019年 第5回年間企画賞
Mercure des Artsは執筆陣による選考の結果、2019年(2018年11月1日〜2019年10月31日までの公演)の年間企画賞1〜3位を選出、ここに発表いたします。今回は1位が満票を集め、文句なしの決定となりました。2位、3位はそれぞれ企画の斬新さへの評価が高く、聴衆参加型なども含めバラエティに富んだ選出となったことを喜びたいと考えます。
【1位】
ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1
2019年8月14〜17日 川口総合文化センター・リリア音楽ホール
【2位】
TPAM2019(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)
TPAMディレクション
★ホセ・マセダ『カセット100』
2019年2月10日 KAAT神奈川芸術劇場アトリウム
★『5台のピアノのための音楽』『2台のピアノと4本の管楽器』
2019年2月11日 KAAT神奈川芸術劇場ホール
【3位】
フランチェスカ・レロイ作曲・演出『鍵』(原作・谷崎潤一郎)
2019年5月19日 旧平櫛田中邸アトリエ
◆選定にあたって
【1位】
今年度のアニバーサリー企画の中でピカイチとの評価。古楽はもちろん現代音楽、ポピュラー音楽など多彩なコンサートとともに無料のシンポジウムを行うなど、企画そのものと連関させる仕掛けも効く。
『オルフェオ物語』はレオナルドの時代の台本のみの情報から、残されている当時の音楽に歌詞をあてはめ上演可能なものとするなどの工夫が凝らされ、500年以上前の音楽のみずみずしさ、それを現代に活かす演奏者たちの熱意が伝わるものであった。
音楽祭としての企画力と実行力に敬意を表しつつ、次回以降に期待するものである。
★参考レビュー
ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1 オルフェオ物語|藤堂清
ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1 オルフェオ物語|大河内文恵
ダ・ヴィンチ音楽祭 ラクリメ~涙の系譜|藤原聡
ダ・ヴィンチ音楽祭 ラクリメ LACHRIMAE~涙の系譜~|齋藤俊夫
ダ・ヴィンチ音楽祭 in 川口 vol.1 レオナルド・ダ・ヴィンチ時代の音楽|藤堂清
【2位】
フィリピン現代作曲家ホセ・マセダ(1917-2004)にスポットライトを当てた稀有なイベントと演奏会。
『カセット100』では経験経歴年齢性別など全て不問の有志100名のパフォーマーがMP3プレーヤーとカセットデッキを持ち、マセダ作品を流しながら創作舞踏を披露。観客とパフォーマーが混じり回遊し合い、会場の全員が自由な創造体験を味わった。フィリピン民俗音楽と現代音楽・現代芸術が融合した「現代の祝祭」の実現と言えよう。なお、この公演は入場料無料にもかかわらず、フィリピンからホセ・マセダ・アーカイヴズの責任者を監修者として招聘など、その志の高さも特筆に値する。
また、特異な編成による『5台のピアノのための音楽』『2台のピアノと4本の管楽器』も5台ピアノの微妙なアンサンブルの揺れ、2台ピアノと管楽器のある種のゆるい美など、西洋の楽器を用いながらも、西洋音楽の定型的・類型的あるいは分節化された感情表現とは一線を画すマセダ独特の音楽ワールドが出現。彼のユニークな音楽を実演で体感できる貴重な機会となった。
2公演のいずれも、その企画力・実現力に高い評価が寄せられた。
★参考レビュー、ピックアップ
Pick Up (19/3/15) |ホセ・マセダ『カセット100』|齋藤俊夫
ホセ・マセダ:5台のピアノのための音楽、2台のピアノと4本の管楽器|藤原聡
【3位】
フランチェスカ・レロイ作曲・演出『鍵』(原作・谷崎潤一郎)
2019年5月19日 旧平櫛田中邸アトリエ
旧家屋・旧平櫛田中邸アトリエを立体的な観客回遊式の舞台とし、部屋ごとに分かれて物語を同時進行させることにより、全体像が誰にも掴めず、観客各々が断片を集め自分の中で構築する、という斬新極まりない音楽舞台劇。日記を使った心理戦という谷崎の原作を読み込み、人間にとって事実とは、知ることとは、本心とは、そして愛と欲とは何かという思索が深められてゆく。洋楽器と邦楽器、舞踏の高度なコラボレーションを外国の創作者と日本人スタッフ・演奏家・パフォーマーたちが実現したということにも大きな意義を見出せよう。
★参考レビュー
フランチェスカ・レロイ作曲・演出『鍵』(原作・谷崎潤一郎)|齋藤俊夫
(2019/12/15)