Menu

Back Stage|円熟のタクト、外山雄三との濃密な時間(とき)|二宮光由

円熟のタクト、外山雄三との濃密な時間(とき)

text by 二宮光由(Mitsuyoshi Ninomiya)

外山雄三 (c)三浦興一

大阪交響楽団は1980年に永久名誉楽団代表 敷島博子が『聴くものも、演奏するものも満足できる音楽を!』の提唱のもと、初代音楽監督・常任指揮者に小泉ひろしを迎え、「大阪シンフォニカー」として創立いたしました。新しいオーケストラ、それも公共的な支援もない私設のオーケストラを一介の主婦である敷島博子の強い情熱で創設したことは特筆に値するとともに、その継続には困難を極め、いったいいつまで続けられることかという懸念を持たれた方も多かったと思われます。ところがオーケストラ運営の難しさを乗り越えて演奏活動が続けられ、大きく変化を遂げたのは、1992年1月にトーマス・ザンデルリンクを音楽監督・常任指揮者に迎えてからのことでした。この時代にオーケストラとしての基礎を築くとともに、2001年1月には「大阪シンフォニカー交響楽団」に改称し、曽我大介を音楽監督・常任指揮者に、さらに2004年9月からは大山平一郎がミュージックアドバイザー・首席指揮者に就任、そして2008年4月からは児玉宏が音楽監督・首席指揮者に就任、その活動ぶりと演奏は各方面から高い評価を得、大阪交響楽団が関西の優秀なオーケストラのひとつとしての地位を確立したと言えるのではないでしょうか。さらに2016年4月からは、日本楽壇最長老の外山雄三がミュ-ジック・アドバイザ-に就任、2004年1月から正指揮者として、また2011年4月からは常任指揮者に就任した寺岡清高氏の両指揮者陣のもと、さらなる飛躍を遂げていると確信しています。

外山雄三 (c)飯島隆

今年で3シ-ズン目を迎えた当団ミュ-ジック・アドバイザ-の外山氏による音楽づくりは常に濃密であり、楽団員はもとより、聴衆の皆さまの奥底までに染み入るものだと言えるでしょう。シ-ズンも後半に入り、外山氏と大阪響のコンビによる『至福の時間(とき)』を体験してみてはいかがでしょうか?

まず11月の定期演奏会は名実ともに日本を代表するチェリスト堤剛が登場します。外山氏と堤氏とは、1960年のN響世界一周演奏旅行以来の付き合いですから、すでに半世紀を超える間柄です。ドヴォルザークのチェロ協奏曲を、日本を代表する巨匠ふたりの響演で聴けるとは、なんとも贅沢なものとなるでしょう。後半は外山氏お得意のチャイコフスキーの交響曲第5番です。「チャイコフスキーの運命交響曲」とも言われ、彼の6つの交響曲のなかでもとりわけ色彩的な旋律に満ちているこの曲を、外山氏がいかに我々に魅せてくれるのかが注目です!(11月2日 ザ・シンフォニ-ホ-ル)

堤剛 (c)鍋島徳恭

次に、半年間のホ-ル改装を終えリニュ-アル・オ-プンした、いずみホ-ルでの今シ-ズン2回目のいずみホ-ル定期演奏会に登場します。巨匠・外山氏が、大阪響といずみホ-ル定期演奏会で魅せる『王道』のプログラム、ベートーヴェンの交響曲第4番と交響曲第5番「運命」。外山氏と大阪響のコンビによるベートーヴェンの交響曲は第3番「英雄」(第202回定期)、「第九」(感動の第九2016)、そして交響曲第6番「田園」&第7番(第29回いずみホール定期)を取り上げて来ましたが、いずれも楽譜に忠実で、全く作為なしに淡々と、しかし堂々たる風格漂うベートーヴェンにオーケストラの迫力とあいまって、聴かれた聴衆の皆さんは感動を憶えられたに違いありません。巨匠・外山雄三の魂のタクトによる壮大なベートーヴェンの宇宙に、期待が高まります!(11月21日 いずみホ-ル)

そして外山氏が指揮する3シ-ズン目最後の定期演奏会は何と言っても作曲家でもある外山氏の新作交響曲の世界初演でしょう。2012年に外山氏の80歳を記念してヤマハ音楽振興会が委嘱し、作曲された『前奏曲』を第1楽章に、ゆっくりとした歌うような第2楽章、それに推進力と重量感を兼ね備えた第3楽章とする『交響曲第5番』という構想を初めから持っていたようで、いよいよわれわれの前にその新作交響曲が明らかになる時が来ました。前半は、モーツァルトの歌劇『後宮からの逃走』序曲とベートーヴェンの交響曲第1番。『後宮』は、当時の「トルコ趣味」的嗜好、すなわち「エキゾチックな」トルコ文化の流行を反映している作品であり、一方ベートーヴェンの第1交響曲はベートーヴェンが1800年に完成させた最初の交響曲であり、初期の代表作で、同時代のほかの作曲家からの影響を受け、古典的な中にも若々しく瑞々しいベートーヴェンの新鮮な感覚やアイデアが垣間見える魅力的な作品といえます。(2019年2月28日 ザ・シンフォニ-ホ-ル)

ますます円熟味の増したマエストロ・外山氏のタクトのもと、『一期一会』の音楽空間をぜひとも味わっていただきたいと思います。

二宮光由(大阪交響楽団 楽団長・インテンダント)

(2018/8/15)

——————————————
公演情報
●第223回定期演奏会
2018年11月2日(金)19時00開演
ザ・シンフォニーホール
指 揮 : 外山 雄三(ミュージック・アドバイザー) チェロ : 堤 剛
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64

●第32回いずみホール定期演奏会 ベートーヴェン・秋
2018年11月21日(水)
<昼の部>14:30開演
<夜の部>19:00開演
いずみホール
指 揮 :外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)
ベートーヴェン:交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
ベートーヴェン:交響曲 第5番 ハ短調 作品67 「運命」

●第226回定期演奏会
2019年2月28日(木)19:00開演
ザ・シンフォニーホール
指 揮 :外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)
モーツァルト:「後宮からの逃走」序曲
ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 作品21
外山 雄三:交響曲(世界初演)