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Back Stage|神奈川フィル×川瀬賢太郎 文化創造の横浜へ|田賀浩一朗

神奈川フィル×川瀬賢太郎 文化創造の横浜へ

text by 田賀浩一朗(Koichiro Taga)

神奈川フィルハーモニー管弦楽団は、1970年県内の音楽家が集まり、鎌倉で発足しました。以来47年の間、多くの苦難に見舞われながらも、楽団員が一丸となって乗り越えてきました。2011年から2013年までの3年間は、ブルーダル基金活動の一環で、神奈川県や横浜市そのほか多くの行政、神奈川県内の企業や個人の皆様から多額の寄付をいただき、本当に多くの方々に神奈川フィルを窮地から救って頂いたことは、楽団員はじめ、スタッフ共々感謝の気持ちを今でも大切に演奏活動を行っています。苦労も多かった分、「多くの皆様から支えられて成り立っている」という意識を一層強固にし、そのことを念頭において、スタッフはもちろん楽団員の隅々までいきわたらせるきっかけとなったことは言うまでもありません。

2020年には楽団創立50周年を控え、2014年に常任指揮者に就任した若きマエストロ川瀬賢太郎を中心とした音楽作りを一層加速させています。2018-2019シーズンは、川瀬賢太郎が常任指揮者に就任して5年目のシーズンにあたりますが、その音楽作りは「新婚期間を終えて(本人談)」新たな歩みを着実にするためのシーズンと位置づけています。
新たなシーズンは彼が特にお勧めするバーンスタイン・プログラムで幕を開けます。ご存知のとおり2018年は生誕100年にあたり、『交響曲第1番 エレミア』をメインにおき、前半は『政治的序曲スラヴァ!』と『シンフォニックダンス』をチョイス。2018年の記念年でバーンスタインの楽曲がいたるところで体験できる環境にある中、「神奈川フィルでこそ」の選曲に、川瀬賢太郎はとてもこだわっています。それはその他の演奏会でも同様です。彼は記者会見で「演奏会は、癒しや楽しさを得ることのほかに、過去を振り返り、社会を学ぶ場でもある」と語っています。2001年大阪で起きた小学校での無差別殺傷事件の犠牲者遺族の手記からとられたテクストを元に、新進気鋭の作曲家、権代敦彦氏が作曲した『子守歌』。2013年に東京都交響楽団が演奏するこの作品に触れる機会があり、そこで川瀬はとても衝撃を受けたといいます。「自分がポストに就くオーケストラとは、ぜひこの作品を演奏したいとずっとお願いしてきました」というとおり、名古屋フィルとはすでに2015年にこの作品を演奏しており、常任指揮者というポストを持つ川瀬賢太郎が、ついに2018年10月神奈川フィルとこの曲を演奏することになりました。朝の何気ない学校の風景とあまりに悲痛な響きが極端に対比され、より一層悲しみを訴えるこの楽曲に、真摯に向きあう彼ならではの想いが色濃くプログラムに反映されています。後半はマーラーの『交響曲第4番』。この曲は「天上の喜び」と題されることがあります。

そして、2019年2月には世界的メゾ、藤村実穂子さんの登場です。彼女が川瀬賢太郎と共演を望んだこともあり出演が実現しました。神奈川フィル初登場にして大きな期待が高まります。後半に置いたシンフォニーは、ハンス・ロットの『交響曲第1番』。ロットはオーストリア出身でマーラーの2歳年上ではありますが、マーラーと親交を深め、お互い影響しあう仲だったようです。ブルックナーにもオルガンを師事していたこともあり、将来を嘱望された作曲家だったにも関わらず、20歳で作曲したこの『交響曲第1番』を聴衆や批評家たち、そしてかのブラームスから徹底的に酷評されます。そのことがきっかけでロットは精神病に罹り、26歳という若さで亡くなってしまったのです。マーラーを演奏する際に欠かせないこの交響曲と作曲家に川瀬賢太郎は並々ならぬ想いを寄せているのです。

そして、もう一つ新シーズンで刷新された「みなとみらい小ホール特別シリーズ」です。これまで音楽堂シリーズで、新たな新境地を開いていた川瀬賢太郎ですが、残念ながら新シーズンは1年改修工事のため休館となります。その代替施設として浮上したのが、みなとみらいホールの小ホールでした。2017年5月に音楽堂で開催した神奈川フィル初の「指揮者なし」公演が、多くの副産物をもたらしました。普段は音楽の方向性を指揮者に委ねている部分が多いオーケストラですが、この公演では、コンサートマスター﨑谷直人を中心に、音楽を作り上げる熱いリハーサルが展開され、神奈川フィルの新たな方向性も見え、当日の演奏会は大成功を収めました。この企画はお客様からはもちろん、楽団員からも続けてやってほしいと話がいたるところででたので、今回みなとみらい小ホールにて「J.S.バッハとストラヴィンスキー」の意欲的な演奏会が誕生するきっかけとなったのです。

神奈川県ゆめコンサート
県内小学校の体育館でオーケストラ体験事業

神奈川フィルは様々な会場でフレキシブルに対応する力があると自負しています。大きなコンサートホールをはじめ、ショッピングモールの一角や公民館、そして様々なジャンルへの対応能力もあります。
まもなく創立から50年を迎えるオーケストラは、地元横浜を中心に神奈川全域に広く地域活動を広げていき、改めて地元をより一層意識する転換点に差し掛かっているのではないかと思っております。
これからも「わがオーケストラ」としてさらに応援をしていただければとても嬉しく思います。

横浜DeNAベイスターズ対
福岡ソフトバンクホークス
SMBC日本シリーズ2017第3戦にて国歌演奏
©YDB-2

(2017年12月15日)

田賀浩一朗(神奈川フィル 広報宣伝部)
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公演情報
4月公演 4月7日(土)定期演奏会みなとみらいシリーズ第338回 横浜みなとみらいホール
http://www.kanaphil.or.jp/Concert/concert_detail.php?id=548

10月公演 10月13日(土)定期演奏会みなとみらいシリーズ第343回 横浜みなとみらいホール
http://www.kanaphil.or.jp/Concert/concert_detail.php?id=554