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【シェーンベルク&ホルスト生誕150年記念】東京都交響楽団 第1009回 定期演奏会Aシリーズ|藤原聡

【シェーンベルク&ホルスト生誕150年記念】
[Schönberg&Holst 150]
東京都交響楽団 第1009回 定期演奏会Aシリーズ
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
Subscription Concert No.1009 A Series

2024年10月7日 東京文化会館
2024/10/7 Tokyo Bunka Kaikan
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 堀田力丸/写真提供:東京都交響楽団

〈プログラム〉        →foreign language
シェーンベルク:5つの管弦楽曲 op.16(1909年原典版[1922年改訂])
武満徹:アステリズム(1968)
ホルスト:組曲『惑星』

〈演奏〉
東京都交響楽団
指揮:ライアン・ウィグルスワース
ピアノ:北村朋幹
女声合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭
コンサートマスター:山本友重

 

ウィグルスワース、と耳にして当初筆者はBISレーベルから多数の録音をリリースしているマーク・ウィグルスワースかと思い込んでいたが、このたび都響に初登場したのはライアン・ウィグルスワース、血縁関係なし。不勉強のためライアンの存在は初めて知ったが、ともあれプログラムが魅力的ではないか。シェーンベルクとホルストの生誕150年ということで外枠に前者の5つの管弦楽曲と後者の『惑星』を配置、これらにはさまれる形で武満徹のアステリズムが置かれる。なお、ホルストはシェーンベルクの5つの管弦楽曲のロンドン初演を聴いて感銘を受け、『惑星』はその影響下にある(とされる)。そして武満のアステリズム、彼自身この言葉の3つの意味のうちの1つとして天文学における「星群」「星座」を挙げているが、それを考えれば「宇宙」をキーワードとして『惑星』とも繋がる。なお、アステリズムのソリストには北村朋幹。これを聴かぬ手はない。

最初のシェーンベルク、これは作曲家でもあるというライアン・ウィグルスワースの冷徹な視線が際立った演奏といえる。プログラムで片山杜秀氏が「表現主義音楽の名作」と書かれているが、ウィグルスワースの演奏はそういったコンテクストでオケを煽るのではなく、言葉の最良の意味で「中庸」な表現をとる。第1曲「予感」でのクライマックスでいたずらに音響を肥大させないことからも既に察しがつくが、全5曲、いずれもテクスチュア造形におけるバランス感覚と弱音の繊細さが際立つ演奏であり、それが例えば第3曲の「色彩」の明滅するそれぞれのパートの浮き沈みを的確に表出する。より先鋭的な表現もありうるだろうが、これは非常に模範的な名演だったと評せよう。ライアン・ウィグルスワースの力量は既に明らかだ。

次は武満徹のアステリズム。指揮台のまわりをハープ、チェレスタ、そしてピアノが取り囲むという独特の配置。本作の演奏ではなんと言っても高橋悠治&小澤征爾&トロント響という初演勢の録音が強烈で、同じ高橋悠治が後年高関健&東京フィルと共演したコンサートのライヴ録音はそれ単体を聴けば名演ながら、やはり小澤&トロント響盤には音響の熾烈さにおいて及ばないというのが正直な感想である。そしてこの日の北村朋幹&ライアン・ウィグルスワース&都響の演奏、これは相当に優れた演奏であった。まず北村のハードなタッチによる硬質な演奏が作品の特異性を存分に表出して優れていたし、それに対峙するオケの音響はカオティックながら先に記したライアン・ウィグルスワースの作曲家的な視点によるものか、決して混濁させずに常に明瞭さを維持していてこれはなまなかな力量ではなかろう。後半におけるあの激烈なクレッシェンド―スコアには最低40秒、2分以上を望むと記載がある―も、秒数のカウントまでは当方も行ってはいないが(あの異様な音響を目の当たりにしてそんな冷静なことができようもない)相当な長さとダイナミクスの幅であり、これは初演勢による演奏におさおさひけを取るものではない。この大音響は武満作品の中でも例外的なものだろうが、しかし恐るべき作品である。

前半の2曲の後にはホルストの『惑星』。下手をすると通俗名曲(昔よく使われた言い回し)と見下されかねない作品だが、前半のライアン・ウィグルスワースの指揮ぶりから想像された通り、俗っぽさに傾斜しないハードな演奏である。どの曲も速めのテンポを採用、響きはいささか無骨で非常にダイナミック。それは「火星」や「天王星」で最大の演奏効果をもたらす。反面、「金星」や「木星」の有名な中間部などでは情感に不足する側面も指摘できようが、全編これ強面のライアン・ウィグルスワースのサディスティック(!)な演奏として誠に筋が通っていよう。正直に言えば筆者など昔それこそ『惑星』を聴きまくって食傷気味になり、今となっては自ら積極的に聴きたいとは思わなくなっていたけれども、この日の初共演から妥協なし、都響を締め上げたライアン・ウィグルスワースの演奏は久しぶりに作品の魅力を味わわせてくれたのだった。なお、「海王星」の女声合唱は舞台裏の距離感が絶妙でオケとのすばらしい遠近感を演出していた。

初聴きのライアン・ウィグルスワース、良い指揮者だ。都響は再度招聘して欲しい。

(2024/11/15)

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〈Program〉
Schönberg:Fünf Orchesterstücke,op.16(Original Version 1909,Revised 1922)
Takemitsu:Asterism(1968)
Holst:The Planets,op.32

〈Player〉
Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra
Ryan WIGGLESWORTH,Conductor
Tomoki KITAMURA,Piano
Ritsuyu-kai Choir,Female Chorus
Fumiaki KURIYAMA,Chorus Master
Tomoshige YAMAMOTO,Concertmaster