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<東京二期会オペラ劇場>  リヒャルト・シュトラウス:《影のない女》|藤堂清

<東京二期会オペラ劇場> 
リヒャルト・シュトラウス:《影のない女》op.65 
Richard Strauss: DIE FRAU OHNE SCHATTEN op.65 
ボン歌劇場との共同制作 
Coproduction with Theater Bonn 
〈ワールドプレミエ〉 
オペラ全3幕 
日本語および英語字幕付原語(ドイツ語)上演 
Opera in three acts 
Sung in the original language (German) with Japanese and English supertitles 

2024年10月27日 東京文化会館大ホール 
2024/10/27 Tokyo Bunka Kaikan, Main Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 長澤直子 (Naoko Nagasawa) 

<スタッフ>        →foreign language
指揮:アレホ・ペレス
演出:ペーター・コンヴィチュニー
舞台美術:ヨハネス・ライアカー
照明:グイド・ペツォルト
ドラマトゥルク:ベッティーナ・バルツ
合唱指揮:大島義彰
演出助手:太田麻衣子
     森川太郎
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也

<キャスト>
皇帝:樋口達哉
皇后:渡邊仁美
乳母:橋爪ゆか
伝令使:友清 崇 (全日出演)
    髙田智士 (全日出演)
    城島 康 (全日出演)
若い男の声:下村将太
鷹の声:種谷典子
バラク:河野鉄平
バラクの妻:田崎尚美
バラクの兄弟:岸浪愛学
       的場正剛
       狩野賢一
合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京交響楽団

 

今回の公演では正直に言えば気持ちの悪さを感じた。原因は、リブレットでも音楽でも原作を徹底して無視する演出にある。

「このオペラは現実の物語ではなく、象徴的な出来事を描いている。筋の通った物語ではなく、架空の二層の世界で演じられる悪夢のようなエピソードであり、そのルールはどこにも制定されておらず、理解不能である。人物、場所、ルールは、夢の中のように流動的で変化する。」

演出のペーター・コンヴィチュニーとドラマトゥルクのベッティーナ・バルツによって書かれた、オペラ《影のない女》あらすじの「前置き」である。そこではさらに、

「このプロダクションでは、妻が夫に隷属することを賛美し、美化するような筋書きのない終幕のフィナーレを排除し、代わりに元の第2幕のシーンを最後に置く皮肉な場面で終わる。」

とオペラのストーリーの大幅な変更を宣言している。
演出家がオペラの時間的、空間的な背景を大きく変更したり、音楽自体をいじったりすることはままあることで、頭から否定はできないが、物語が「理解不能」とまで切り捨てるような言い方をすることは滅多にないように思う。少なくとも、このオペラに対する愛情は感じられない。
ではコンヴィチュニーの設定した、「「皇帝」と呼ばれるマフィア組織のボス」や「敵対する 「霊界の王」カイコバート」、「遺伝子操作研究所長バラク」という人々の位置付けで、「筋の通った物語」になったかというと、同じように「理解不能」と感じられる。
オペラはもともとは3幕の構成、今回の公演では2幕仕立てとなっており、元々の第3幕の後半は大部分カットされた。その理由が「妻が夫に隷属することを賛美し、美化する」筋書きを排除というのだが、もともとの第2幕のシーンを最後に持ってきて女性2人を夫が殺害するというエンディングにしていることは、夫による支配の究極の形ではないのだろうか?
台本を素直に読めば、2人の女性の成長の物語ととらえることができる。その結論がよほどお気に召さなかったのか、ハッピーエンドで終わるストーリーを悲劇に仕立ててしまった。原作とは異なる読み替えた「あらすじ」を公演前に公開すること自体、かなり異様といえよう。

音楽面でも、カットをあちこちに入れているだけでなく、順序も変えるなど大幅に手を加えている。それでも音楽が途切れずつながっているのは、ある意味すごいこと。編曲の妙とでもいうべきか。
オーケストラの演奏はレベルの高いものであった。アレホ・ペレスの指揮のもと、東京交響楽団は安定した響きで全体を牽引した。「ここがない、あそこがない」とか思わなければ充分に楽しめただろう。
歌手はそれぞれがんばっていたと思う。オーケストラの厚い響きにのって歌う場面が多いので、力みが目立つところもあるが、バラクの妻の田崎尚美、乳母(セラピストということになっているが)の橋爪ゆか、皇后の渡邊仁美の3人の女声はまずまずの出来。男声では、バラクの河野鉄平に安定感があった。皇帝の樋口達哉は熱演ではあったが一本調子と感じられた。

一体、何を聴き、何を見たのだろうか。リヒャルト・シュトラウスとフーゴ・フォン・ホーフマンスタールによる《影のない女》を聴いたとは言いにくい。コンヴィチュニーにより作り出された《影のない女》変奏を鑑賞した、といったところだろうか?
納得できないまま会場をあとにしたが、それこそが演出家の目論見であったのかもしれない。

(2024/11/15)

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<Staff>
Conductor: Alejo PÉREZ
Stage Director: Peter KONWITSCHNY
Set & Costume Designer: Johannes LEIACKER
Lighting Designer: Guido PETZOLD
Dramaturg: Bettina BARTZ
Chorus Master: Yoshiaki OSHIMA
Assistant Stage Directors: Maiko OTA
     Taro MORIKAWA
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
Associate Production Director: Tetsuya ONO

<Cast>
Der Kaiser: Tatsuya HIGUCHI
Die Kaiserin: Hitomi WATANABE
Die Amme: Yuka HASHIZUME
Der Geisterbote: Takashi TOMOKIYO (all days)
    Satoshi TAKADA (all days)
    Ko MIYAGISHIMA (all days)
Erscheinung eines Jünglings: Shota SHIMOMURA
Die Stimme des Falken: Noriko TANETANI
Barak, der Färber: Teppei KONO
Sein Weib: Naomi TASAKI
Des Färbers Brüder: Aigaku KISHINAMI
    Masataka MATOBA
    Ken-ichi KANOU
Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra