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ドイツバロック音楽の光彩~古楽器で聴く室内楽の名曲~|大河内文恵

ドイツバロック音楽の光彩~古楽器で聴く室内楽の名曲~

2024年9月8日 今井館聖書講堂
2024/9/8 Imaikan seishokodo
Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 酒巻俊介

<出演>         →foreign language
白井美穂(フラウト・トラヴェルソ)
荒井豪(バロック・オーボエ)
小池香織(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
上翅剛史(チェンバロ)

<曲目>
ゲオルク・フィリップ・テレマン:「音楽の練習帳」よりトリオ第11番 ニ短調
ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ:フルート・ソナタ ロ短調
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ:トリオ・ソナタ ニ短調

~~休憩~~

テレマン:「忠実な音楽の師」より オーボエのための組曲 ト短調
ヨハン・セバスティアン・バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロの ためのソナタ 第1番 ト長調
クヴァンツ:トリオ・ソナタ ハ短調

~~アンコール~~
C.P.E. バッハ:トリオ・ソナタ ト長調 第1楽章

 

モダンのフルートとオーボエの組み合わせであったなら不思議はない。けれど、フラウト・トラヴェルソとバロック・オーボエと通奏低音だけのアンサンブルなど成立するのだろうか? それがこのコンサートを聴いてみたいと思った動機の1つだった。

奏者が入ってきて、自分の席がバロック・オーボエ(以下、オーボエ)の前だとわかり、座る場所を間違えたと直感的に思った。直感はあたり、1曲目の最初の楽章の間はオーボエの音ばかりが聞こえてきて、フラウト・トラヴェルソ(以下、フルート)の音がほとんど聞こえてこない。そもそも楽器のもつ音量がこれだけ違うのに合わせるのは無理なのでは?と聞いているうちに、こちらの耳が慣れてきたのか、奏者間の調整がうまくいき始めたのか、次第に音量の違いが気にならなくなっていった。特に3楽章の3拍子での揺らぎが心地よかった。

クヴァンツのフルート・ソナタはしっとりとした1楽章から始まる。最初の旋律が戻ってきたところで入ってくる装飾にうっとりしているとカデンツが入り、いきなり終わる。続く2楽章では細かいパッセージがぴたりぴたりと決まって心地よい。急速な3拍子の第3楽章は難しいはずのパッセージがこともなげに進んでいき、その音世界にはまってしまった。クヴァンツのフルート作品は、作品数が多いことと、(それほどの腕前ではなかったとされる)フリードリヒ大王のために書かれた作品が多いことから、一般にはあまりなじみがないが、こうした佳き作品があるのだとしみじみ聴いた。

前半最後はC.P.E.バッハのトリオ・ソナタ。演奏前に、荒井から本日の楽器についての説明があった。バロック・オーボエでは、当時の楽器をモデルにしたコピー(復元)の楽器を使用することが多い、しかし、本日の使用楽器は1720年頃のオリジナル楽器で、5日前に修復から戻ってきたばかりだという。え、ちょっと待って。届いたからといってすぐに演奏できるわけではなく、調整に時間がかかるであろうし、その楽器の特性を見極めて自身の演奏に落とし込むには相当の時間が必要であろうことは想像に難くない。それをたった5日でやり遂げるのは並大抵ではない。

第1楽章は繰り返し同じテーマが出てくるが、テーマの後の展開がどんどん変化していく万華鏡のような作品で、ずっと聞いていたくなる。第2楽章では、通奏低音が消えてフルートとオーボエだけになるところでゾクゾクした。第3楽章ももうずっと終わらないでほしいと願いながら聴いていた。この曲では、フルートとオーボエのバランスが抜群で、当時のベルリンの宮廷で 、この編成のアンサンブルがもしかしたら盛んに演奏されていたかもしれないとまで思えてくるほどだった。考えてみれば、同時期に宮廷にいたクヴァンツは元々オーボエ奏者だったのだから、フリードリヒ大王のフルートにクヴァンツがオーボエで合わせていたとしてもおかしくないのだなと思い当たる。

後半はテレマンのオーボエ作品から。前半のソナタ的な作品と違い、こちらはフレンチ・スタイルの組曲。序曲は付点の使い方といい、途中でテンポが変わるところといい、ヘンデルを思わせる。年代は、おそらくテレマンのほうが早いので、似ているとすれば、ヘンデルのほうが真似したわけだが。ゆっくりの3拍子のサン・スーシ、優雅なガヴォット、早い3拍子のイルランデーゼなどに踊りの要素が詰め込まれていることが感じられた。

最後の曲はクヴァンツのトリオ・ソナタ。フラウト・トラヴェルソが苦手なハ短調という調で書かれているというが、演奏ではそれはまったく感じられなかった。今回のプログラムはドイツバロックをタイトルに掲げ、ドイツの作曲家の作品が集められているが、この曲ではイタリア・オペラの要素が感じられた。声楽を思わせる旋律線や、旋律と伴奏との関係性などの要素は、クヴァンツがザクセン宮廷にいる時代に身につけたものなのか? もしかしたらザクセン時代に作曲された作品だったのか? 器楽作品の多くは作曲年代が不明なので確認しようがないが、この作品がベルリンでも演奏されたのだとしたら、さぞ聴き手の耳を奪ったであろうと想像された。

白井のトークのなかで、アンサンブルの多様性という言葉が使われたが、現代でもよく演奏される作品は楽器の組み合わせがある程度限られてしまっているが、当時の実際の演奏では、もっといろいろな組み合わせでおこなわれていたはず。今回のようなフラウト・トラヴェルソとオーボエの組み合わせも聞き終わってみれば、まったく不思議ではないと確信できたのは大きな成果だった。

(2024/10/15)

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<performers>
Miho SHIRAI flauto traverso
Go ARAI baroque oboe
Kaori KOIKE viola da gamba
Tsuyoshi UWAHA cembalo

<program>

Georg Philipp Telemann: Trio XI, TWV 42:d4 from “Essercizii Musici”
Johann Joachim Quantz: Flute sonata in B minor, no. 231
Carl Philipp Emanuel Bach: Trio sonata in D minor, Wq. 145

–intermission—

Telemann: Suite, TWV 41:g4 from “Der getreue Music-Meister”
Johann Sebastian Bach: Sonata for Viola da gamba and harpsichord, BWV 1027
Quantz: Trio sonata in C minor

-encore—

C.P.E. Bach: Trio sonata in G major 1st mov.