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<東京二期会オペラ劇場>  モーツァルト:コジ・ファン・トゥッテ|藤堂清

シャンゼリゼ劇場、カーン劇場、パシフィック・オペラ・ヴィクトリアとの共同制作 
<東京二期会オペラ劇場> 
Tokyo Nikikai Opera Theatre 
モーツァルト:コジ・ファン・トゥッテ K.588〈新制作〉 
Mozart: COSÌ FAN TUTTE 
オペラ全2幕 日本語および英語字幕付原語(イタリア語)上演 

2024年9月8日 新国立劇場オペラパレス 
2024/9/8 New National Theatre Tokyo, Opera Palace 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 寺司正彦/写真提供:公益財団法人東京二期会 

<スタッフ>        →foreign language
指揮:クリスティアン・アルミンク
演出・衣裳:ロラン・ペリー
演出補:クリスティアン・レート
装置:シャンタル・トマ
照明:ジョエル・アダン
衣裳補:ジャン=ジャック・デルモット
合唱指揮:キハラ良尚
演出助手:三浦安浩
舞台監督:村田健輔
技術監督:大平久美
     村田健輔
公演監督:澤畑恵美
公演監督補:高田正人

<キャスト>
フィオルディリージ:吉田珠代
ドラベッラ:小泉詠子
グリエルモ:小林啓倫
フェランド:金山京介
デスピーナ:七澤 結
ドン・アルフォンソ:黒田 博
合唱:二期会合唱団
   新国立劇場合唱団
   藤原歌劇団合唱部
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

 

遅れて到着したとおぼしき女性歌手二人、扉を開けて入ってくるが、部屋の照明は消えていて真っ暗。不審げに会話していると、あかりが点き、同時に序曲が始まる。舞台は録音スタジオ、そのままオペラ《コジ・ファン・トゥッテ》の収録が進んでいく。セッティングされたマイクの前にグリエルモの小林啓倫とフェランドの金山京介が立ち、譜面台の高さを調節し歌い始める。ドン・アルフォンソの黒田博は後ろの椅子で新聞を拡げていたが、出番と促され、ゆっくりとマイクの前に進んでくる。この三人の場面が終わると、次は女性二人、フィオルディリージの吉田珠代とドラベッラの小泉詠子の登場。技術者たちがマイクや譜面台を調整し彼女らを迎える。
ロラン・ペリーの演出は、このようにスタジオでの録音風景から始まる。歌手たちも初めのうちは「録音に参加している歌い手」という役割を余裕を持って演じていた。しかし、演奏が進むにつれ、次第に役柄にのめり込んでいき、その役になり切っていく。それとともに、マイクや譜面台という小道具も消えていく。
余談になるが、この録音スタジオのセットは、1950年代に東ドイツ時代に建設された放送用の複合施設ベルリン・フンクハウスを模したもの、そのスタジオ2を見事に再現している。壁の反響板の構造、壁際の座席の色、二つの窓の間の時計まで。ペリーの時代設定も20世紀後半のレコード録音の全盛期を想定していると考えてよいだろう。スタジオを見下ろす形となる窓の奥には録音のコントロール・デスクがあり、下にいるスタッフに指示を出す様子が見える。ある程度の年齢の音楽ファンにとっては、懐かしさすら感じさせる舞台である。
男性二人が変装し、それぞれの恋人を入れ替えてアタックしていくが、ドラベッラはあっさりと、フィオルディリージは抵抗したものの結局は陥落してしまう。このあたりでは、「歌手」という位置づけは消え去り、役柄のみが舞台にある。
最後の場面では再び録音に戻っていくが、女性二人はアルフォンソを許さないという意志を明確にして終わる。

オーケストラの音は、ピリオド楽器を用いた少しとがった演奏とは異なり、モダンオーケストラのふくよかさを湛えたもの。新日本フィルハーモニー交響楽団が、かつてのシェフ、クリスティアン・アルミンクの指揮のもと、柔らかで豊かな響きを聴かせた。もっとも、このプロダクション、パリのシャンゼリゼ劇場での公演では、エマニュエル・アイム指揮のピリオド楽器のオーケストラ、ル・コンセール・ダストレが演奏していたので、今回とはずいぶん異なる音であっただろう。
歌手はみな粒ぞろい、それぞれがアリアで重唱で力を発揮した。フィオルディリージの吉田とドラベッラの小泉の安定感、美しさ。フェランドの金山の高音の魅力、グリエルモの小林のしっかりした響き、アルフォンソの黒田のベテランらしい落ち着き。デスピーナの七澤の歌い分けの見事さ。

音楽面では充実していたし、演出面も読み替えは理解できるもの。楽しめる公演であった。

(2024/10/15)

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<staff>
Conductor: Christian ARMING
Stage Director & Costume Designer: Laurent PELLY
Associate Stage Director: Christian RÄTH
Set Designer: Chantal THOMAS
Lighting Designer: Joël ADAM
Associate Costume Designer: Jean-Jacques DELMOTTE
Chorus Master: Yoshinao KIHARA
Assistant Stage Director: Yasuhiro MIURA
Stage Manager: Kensuke MURATA
Technical Directors: Kumi ODAIRA
     Kensuke MURATA
Production Director: Emi SAWAHATA
Associate Production Director: Masato TAKADA

<Cast>
Fiordiligi: Tamayo YOSHIDA
Dorabella: Eiko KOIZUMI
Guglielmo: Hiromichi KOBAYASHI
Ferrando: Kyosuke KANAYAMA
Despina: Yui NANASAWA
Don Alfonso: Hiroshi KURODA
Chorus: Nikikai Chorus Group
    New National Theatre Chorus
    Fujiwara Opera Chorus Group
Orchestra: New Japan Philharmonic