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東京芸術劇場シアターオペラvol.18  プッチーニ/歌劇《ラ・ボエーム》|藤堂清

2024年度 全国共同制作オペラ 東京芸術劇場シアターオペラvol.18 
Tokyo Metropolitan Theatre Opera vol.18 
ジャコモ・プッチーニ/歌劇《ラ・ボエーム》 
Giacomo Puccini: Opera “La Bohème” 
(全4幕/イタリア語上演/日本語・英語字幕付き/新制作) 

2024年9月23日 東京芸術劇場コンサートホール 
2024/9/23 Tokyo Metropolitan Theatre Concert Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 2/FaithCompany

         foreign language
指揮:井上道義
演出・振付・美術・衣裳:森山開次

<出演>
ミミ:ルザン・マンタシャン
ロドルフォ:工藤和真
ムゼッタ:イローナ・レヴォルスカヤ
マルチェッロ:池内 響
コッリーネ:スタニスラフ・ヴォロビョフ
ショナール:高橋洋介
ベノア:晴 雅彦
アルチンドロ:仲田尋一
パルピニョール:谷口耕平
ダンサー:梶田留以、水島晃太郎、南帆乃佳、小川莉伯

合唱:ザ・オペラ・クワイア
   世田谷ジュニア合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団
バンダ:バンダ・ペル・ラ・ボエーム

 

全国共同制作オペラ、今年は指揮者井上道義が現役最後に制作を希望したプッチーニの歌劇《ラ・ボエーム》、全国7箇所で8公演が行われる。この日は最初の公演地東京での二日目であった。この後、宮城県名取市、京都府、兵庫県、熊本県、石川県、神奈川県と回るスケジュール。ホールの構造も様々なところで上演するわけで、演出や舞台の設定は制約が多いだろう。基本となる装置は共通でありながら、第1幕から第3幕までそれぞれに異なる雰囲気を作り上げた森山開次の手腕は見事。第1幕、第4幕のボヘミアンたちの部屋では、あまりものは置かれず限られた登場人物だけに注目が集まるようにしている。第2幕では両側に窓枠を並べ、カフェモミュスのテーブルも配置している。さらに多くの人物が登場し、舞台を埋めている。第3幕は雪景色を白いコートをまとった人々でイメージさせた。一方、森山の演出であるから各幕でバレエが入るが、ボヘミアンたちの分身のダンサーたち、少し目立ちすぎという印象もあった。

井上道義の指揮は力のこもったもの。それに応えた読売日本交響楽団も大熱演。ただこのオペラ、いつも張り切った音楽ばかりではなく、抒情的な場面やひそやかな響きのところもあり、そういった場所では少しやりすぎという印象を受ける。これは好みの問題ということになるだろうか。また、この劇場にはオーケストラピットという機構はない。従って、オーケストラは前方の座席を取り払い、そこに並んで演奏することになる。舞台よりは低い位置だが、オペラ劇場とは違う演奏環境となる。オーケストラと歌のバランスをどうとるかということに難しさがあったかもしれない。
歌手はミミを歌ったルザン・マンタシャンの細やかな歌が聴きもの。アリア〈私の名はミミ〉でのソットヴォーチェの透明な響きとなめらかな旋律の扱い、第3幕の〈ミミの告別〉での感情の盛り上げ方。井上の熱っぽさとは少し方向が違ったかもしれないが、一級品の歌。ロドルフォの工藤和真、リリコ・スピントの厚みのある声で歌い上げるこの役、ミミとの重唱などでは、もう少し柔らかさが欲しいという気がするが、徹していてよいのかもしれない。ムゼッタは儲け役、第2幕のアリア〈私が街を歩くと〉だけで聴き手を捉まえてしまえる。イローナ・レヴォルスカヤの声は高音域で少し金属的な響きになったが、全体的にはコロラトゥーラの技術も安定したもの。マルチェッロは丸眼鏡をかけた日本人画家藤田嗣治という設定、池内響が100年前の日本人ボヘミアンの視点を舞台に持ち込んだ。歌唱も立派なもの。第2幕のムゼッタとのやりとり、第3幕でのミミとの対話ではしっかりとドラマを進めた。スタニスラフ・ヴォロビョフのコッリーネ、〈外套の歌〉で骨格のしっかりした歌を聴かせた。

全体として筋のとおった公演。指揮者井上の最後のオペラにふさわしく、主張のはっきりした舞台で、歌手もオーケストラも十分に力を発揮したと言えよう。

(2024/10/15)

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Conductor: Inoue Michiyoshi
Stage Director: Moriyama Kaiji

<Artists>
Mimì: Ruzan Mantashyan
Rodolfo: Kudo Kazuma
Musetta: Ilona Revolskaya
Marcello: Ikeuchi Hibiki
Colline: Stanislav Vorobyov
Schaunard: Takahashi Yosuke
Benoit: Hare Masahiko
Alcindoro: Nakata Hirohito
Parpignol: Taniguchi Kohei
Dancer: Kajita Rui, Mizushima Kotaro, Minami Honoka, Ogawa Riku
Chorus: The Opera Choir
    Setagaya Junior Chorus
Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
Banda: Banda per la bohème