Menu

東混 八月のまつり 45 |藤堂清

東京混声合唱団特別定期演奏会 林光メモリアル 
東混 八月のまつり 45 
The Philharmonic Chorus of Tokyo PCT Special Regular Concert 
Tokon August Festival 45 ~ Memorial of HAYASHI Hikaru ~ 

2024年8月8日 第一生命ホール 
2024/8/8 Dai-ichi Seimei Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by Ayaco Nakamura/写真提供:東京混声合唱団 

<出演>        →foreign language
キハラ良尚(指揮)
寺嶋陸也(ピアノ)
東京混声合唱団

<曲目>
林 光(詩:原民喜):混声合唱のための《原爆小景》
 水ヲ下サイ (1958)/日ノ暮レチカク (1971)/夜 (1971)/永遠(とわ)のみどり (2001)
林 光:宮沢賢治の詩によるソング・アルバム《岩手軽便鉄道の一月》より
 序詞/グランド電柱/岩手軽便鉄道の一月/ポラーノの広場のうた/海だべがど/祈り
三善 晃(詩:谷川俊太郎):混声合唱とピアノのための《その日-August6-》
中山晋平 作曲、林 光 編曲:混声合唱による《日本抒情歌曲集》より
 波浮の港/毬と殿様/さすらいの唄/シャボン玉/ゴンドラの唄
————-(アンコール)————-
林 光:(詩:宮沢賢治)星めぐりの歌

 

東京混声合唱団が毎年8月に開催している特別定期演奏会「東混 八月のまつり」、今回が45回目となる。林光が原民喜の詩に作曲した混声合唱のための《原爆小景》を中心においたプログラムで、原爆の悲惨さを訴え続けてきている。今年は三善晃作曲の混声合唱とピアノのための《その日-August6-》を加え、より一層その性格を鮮明にしている。

《原爆小景》は混声合唱のみの全4曲からなる。その作曲時期はかなり離れている。第1曲の<水ヲ下サイ>は1958年の作曲、第2,3曲の<日ノ暮レチカク>と<夜>はその13年後の1971年に、第4曲の<永遠(とわ)のみどり>はさらに30年も後の2001年の作品である。
<水ヲ下サイ>は、詩集の同名の詩の最初の19行に作曲された作品。「タスケテ タスケテ」「水ヲ」「水ヲ」という繰り返しが胸を突く。「天ガ裂ケ」「街ガ無クナリ」を頂点として強く張り上げる。詩を見事に音楽化しているといえるだろう。歌われている場面を想像し、苦しくなる。
2曲目の<日ノ暮レチカク>もやはり同名の詩に作曲されたもの。はじめの言葉「日ノ暮レ」を何度も何度も静かに繰り返す。次の行の「ニンゲンノカホ」も同じように何度も歌われていく。「ソノスグ足モトノ水ニハ」で合唱はピークを迎える。その後は静けさに戻っていく。
<夜>は「原爆小景」の6篇の詩の一部と短編小説「鎮魂歌」からの文章を重ね合わせるように用いた曲。3人のナレーターが別々の文を読み上げる中、合唱も複雑に複数の文を歌っていく。最後には「夜」という言葉を様々な形で強調していって終わる。
<永遠(とわ)のみどり>は「原爆小景」の最後の一篇であり、他の作品とは異なりひらがなを用いて書かれている。それまでの作品とは作曲年代が離れていることも一因だろうが、詩をごく自然におっていく合唱の響きが美しい。「とはのみどりを」と何度も歌われるが、原民喜の気持ちが強く反映されているように感じられた。
聴いていて楽しい曲とは言えない。厳しく、そして心を揺さぶられる合唱曲。ヒロシマを忘れるなと強く強く訴えかけてくる。

後半は寺嶋陸也のピアノが入る。
まずは宮沢賢治の詩によるソング・アルバム《岩手軽便鉄道の一月》から6曲が歌われた。前半の不協和音の多い曲とは異なり、この合唱団の力量を示す美しい響きが聴ける。テンポは比較的ゆっくりで、たっぷりと他の声部とのハーモニーを楽しんでいるよう。
続いて、三善晃が谷川俊太郎の詩に付けた混声合唱とピアノのための《その日-August6-》。《原爆小景》と同じく広島での原爆を歌った曲ではあるが、原民喜の詩の持つ当事者性がこちらにはない。「その日私はそこにいなかった」という歌詞や、被爆者に呼びかける「あなたの皮膚から内臓へ」という言葉に表される他者としての思いが歌われる。音楽も林が付けたようなヒリヒリしたものではない。記憶として留めていこうとする意志が表現されている。この合唱団の演奏は、ダイナミクスを大きくとるところでも、叫ぶようなことはなく、会場全体を響きで包む。
最後は、中山晋平の作品を林光が混声合唱用に編曲したもの。ここではなごやかな雰囲気が流れた。合唱のハーモニーの美しさを楽しむことができ、ホッと息をつく思いであった。

(2024/9/15)

—————————————
<Player>
The Philharmonic Chorus of Tokyo
Conductor: KIHARA Yoshinao
Pianist: TERASHIMA Rikuya

<Program>
SCENES FROM HIROSHIMA for Mixed Chorus:
text by HARA Tamiki, music by HAYASHI Hikaru
   1.Give Me Water / 2. Twilight / 3. Night / 4. Green Everlasting
…………Intermission…………
January of IWATE Narrow Gauge Railway-excerpt
A Song Album by the Poems of MIYAZAWA Kenji. music by HAYASHI Hikaru
  Preface
  Electronic Poles on the Ground
  January of IWATE Narrow Gauge Railway
  A Song of Polano Plaza
  Umidabegado (I thought it must be the Ocean, but….)
  Prayer

THE DAY—August 6—for Mixed Chorus and a Piano, music by MIYOSHI Akira, text by TANIKAWA Shuntaro

From JAPANESE LYRIC SONGS for Mixed Chorus
music by NAKAYAMA Shinpei, arranged by HAYASHI Hikaru
  Habu no Minato (Habu Port) ,text by NOGUCHI Ujo
  Mari to Tonosama (A Ball and Lord), text by SAIJO Yaso
  Sasurai no Uta (Song of the Wanderer), text by KITAHARA Hakusyu
  Shabondama (Soap Bubble), text by NOGUCHI Ujo
  Gondora no Uta (Gondra Song), text by YOSHII Isamu

——————-(Encore)——————-
Poems of MIYAZAWA Kenji. music by HAYASHI Hikaru
  Hoshimeguri (Circling the Stars)