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フェスタサマーミューザKAWASAKI2024 読売日本交響楽団|藤原聡

フェスタサマーミューザKAWASAKI2024
読売日本交響楽団
Festa Summer MUZA KAWASAKI 2024
Yomiuri Nippon Symphony Orchestra

2024年7月31日 ミューザ川崎シンフォニーホール
2024/7/5 MUZA Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by T.Tairadate 

〈プログラム〉        →foreign language
R.シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』
リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調 S123/R456
※ソリストアンコール
フォーレ:『ネル』 op.18-1(阪田知樹によるピアノ・ソロ編曲版)
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78『オルガン付き』

〈演奏〉
指揮:沖澤のどか
ピアノ:阪田知樹
パイプオルガン:大木麻理
コンサートマスター:日下紗矢子

 

恥ずかしながら沖澤のどかの実演はこれが初である。とは言えこの指揮者が読響を振ったシベリウスの交響曲第2番の録音は聴いている。非常に緻密で基本的にはクールでありながら高揚感にも事欠かない良い演奏だと感じたのだが、となれば今回のサマーフェスタミューザにおけるサン=サーンスの『オルガン付き』などはその音楽性を体感する絶好の機会ではないか。大向う受けを狙った派手さに走る演奏は空虚さが伴い、しかし余りに抑制された演奏では作品に内包されたドラマが表せない。この辺りのバランスをどう取るか。ちなみにこの日のプログラム3曲はその関連性がよく考えられており、最初のR.シュトラウスの『ドン・ファン』は言わずもがなの交響詩の傑作、その交響詩なる形態の発明者とされるリストのピアノ協奏曲第2番がその次に置かれ、このリストの作品に用いられる主題の変容、循環は最後のサン=サーンスにおいても用いられる。いわば源流のリストとその影響を受けた後継者。

演奏は最初に置かれた『ドン・ファン』からして躍動感があり素晴らしい。響きはタイトに引き締められて立ち上がりが良く、リズムはシャープでありながらもよく踏みしめられて軽く上滑りするような箇所は皆無。ヴァイオリン・ソロによる「口説き」や例の有名なオーボエ・ソロの箇所はゆったりとして深いフレージングで濃厚に歌い込む。また、本演奏で印象的だったのはあのドン・ファンの死を表すコーダ直前の「雄弁な休止=無音」で、これは開演前のプレトークでティンパニ奏者の武藤厚志氏が語った沖澤の作り出す音と音の間の独特の沈黙、間(ま)と符合する。この『ドン・ファン』だけでも沖澤の豊かな表現力は誰の耳にも明らかだろう。

次の阪田知樹が出演してのリストはこのピアニストのヴィルトゥオジティが全開だ。しかしそこにはリスト特有の分厚い和音が連ねられた威圧感や暑苦しさが皆無で全ての音が透けて見えるような見通しの良さがあり、それでいてまあ迫力のある音のよく通ることと言ったらない。この軽やかな透明さと鳴りの両立は大変なレヴェルで驚異的だ。この音で弾かれた第2部のアレグロ・アジタート・アッサイにおけるオクターブや第6部のアレグロ・アニマートでのカデンツァは圧巻と言う他あるまい。沖澤と読響も阪田に拮抗するサポートを付けており決して負けてはいなかったが、それにしても阪田知樹は以前にも増して表現のスケールが増しているようで今後空恐ろしいほどだ。アンコールではフォーレの歌曲『ネル』の阪田によるピアノソロ編曲版。軽やかさの極み、何たる表現の幅広さ。

休憩を挟んでの『オルガン付き』、節度を保った上品な名演。第2楽章の第1部ではさらなる推進力が欲しくもあったが、反面第1楽章の第2部、ポコ・アダージョでの瞑想的な美しさは絶品・絶美。だがどこかにのめり込みすぎない抑制があるのが聴き手によっては物足りなく感じるかも知れない(筆者にはピタリとはまったが)。第2楽章第2部のマエストーソ-アレグロもいたずらに大風呂敷を広げない高貴な演奏で指揮者の美意識、見識がよく伝わる。コーダは効果的なアッチェレランドを用い素晴らしい高揚感のもとに終結。オルガンの大木麻理もオケと見事な均衡を保った演奏を聴かせていた。

以上の3曲、いずれも沖澤のどかの指揮者としての確かな手腕、表現の方向性の一致を感じ取ることができた。まだ若手と言うべき年齢の沖澤、これからさらなる進境を見せてくれるのは必至、実に楽しみだ。

(2024/8/15)

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〈Program〉
R.Strauss:Don Juan,op.20
Liszt:Piano Concerto No.2 in A major,S125/R456
※Soloist encore
Fauré:Nell,op.18-1(piano solo arrangement by Tomoki Sakata)
Saint-Saëns:Symphony No.3 in c minor,op.78,“Organ”

〈Player〉
Nodoka Okisawa,Conductor
Tomoki Sakata,Piano
Mari Ohki,Pipe Organ
Sayako Kusaka,Concertmaster