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永野伶実 バロック・フルートリサイタル 伝統×現代|大河内文恵

永野伶実 バロック・フルートリサイタル 伝統×現代
2024年6月26日 マリーコンツェルト
2024/6/26 Maly Koncert

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
写真撮影・提供者は個別に記載

<出演>        →foreign language
永野伶実 バロック・フルート
圓谷俊貴 チェンバロ

<曲目>

J.S. バッハ:フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ イ長調BWV1032
水谷晨:NaPaeae Opus 13 for FlautoTraverso(委嘱新作初演)
J.S. バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034

~~休憩~~

J.S. バッハ:フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035
會田瑞樹:優しい女(委嘱新作初演)
J.S. バッハ:フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV1030

~~アンコール~~

J.B. ルイエ:ソナタ ハ長調より 第1楽章

 

バロック・フルート奏者、永野伶実のリサイタルを聴いた。J.S.バッハの真作のフルート・ソナタ全曲に加え、委嘱新作を2曲という充実したプログラムである。古楽器奏者のなかで現代曲も演奏する奏者もいるが、多数派ではない。その中で新曲を委嘱して演奏する奏者はさらに少ない(1)

今回は水谷晨と會田瑞樹という比較的若い作曲家に委嘱がなされた。水谷作品は、5分ほどのソロ曲で、「プロセスとしての演奏、作曲過程を表象することを目指した」(プログラムノートより)ものだという。フルートの音というより、息の音、ゴロゴロとした音が耳に残り、非常に緊張感の高い音楽で、客席の温度がじりじりと上がっていくのが感じられた。演奏後に公開された譜面をみると、1頁にわたってびっしりと特殊奏法の説明が並び、実際の楽譜にはそれらの記号が音符の代わりに書き込まれている。こうした楽譜に慣れた奏者でないと面食らうかもしれないと思ったが、永野の演奏はまったくそんなことを感じさせず、“現代音楽”ではあるけれど、普通に音楽として聴けたことに逆に驚いた。

撮影、提供:水谷晨

新曲の話を続けよう。後半の會田の曲は、8分くらいの曲 (2)で、譜面台が3台セッティングされ、そこに長い楽譜が置かれる(現代ものの演奏では比較的よく見る光景)。さらに、奏者から見て右端にアルミ箔が吊るされている。これは何に使うのだろう?と見ていたら、曲の途中でアルミ箔にバロック・フルートの先端を近づけて、ビリビリと音を立てていた。

曲そのものは日本の民謡を元にした旋律をベースにしているためか、フルートというより「笛」の音に聞こえる。まさに今、大河ドラマの舞台となっている平安時代にタイムスリップしたような気持ちで聴いた。こちらも終演後に楽譜が公開された。作品の説明や特殊奏法の解説に続く楽譜の部分は、五線に音符が書いてあるごく普通の譜面で(ただし、特殊奏法を含む)、特殊奏法の説明を受ければ、現代音楽に慣れていない奏者でも手が出せそうに見えた。

會田作品は永野と會田と事前に打ち合わせを繰り返し、作曲家と奏者とで作り上げた音楽だと永野は語っており、その過程そのものを楽しんでいるように見えた。こうした音楽への態度は、大学時代に作曲科の学生の演奏を積極的に引き受け、多くの経験を積んだことによるものだという。なるほど!と膝を打った。

撮影、提供:會田瑞樹

古楽の世界は奥が深く、掘ればいくらでも過去の曲が出てくるのに何故新曲を?という疑問も聞く前には浮かんでいたが、演奏を聞くと、それが愉しみであり遣り甲斐なのだなと納得した。

と同時に、もう1つ気づいたことがある。今回はバッハの作品の間に新曲が挟まれる形で演奏されたが、新曲を演奏した後のほうが、バッハの演奏が活き活きとしているのだ。前半は1曲目で緊張している様子が見られ、新曲で緊張がほぐれたためと思われたが、後半でもやはり新曲の後のほうがいい演奏だった。とくに最後に演奏されたBWV1030のソナタは、息の長い旋律が朗々と奏でられ、バロック・フルートを聴いているという感覚がなくなり、楽器の存在が消えて、音楽だけが聴こえてくる感じがした。

永野の音色の豊かさと確かな技術、何よりそれぞれの曲の理解とそれを演奏で伝える姿勢から、もっと他の作品も聴いてみたいと思われた。東京でのソロ・リサイタルは今回が初めてだという。これまで東京でのリサイタルがなかったのは、関西出身で九州在住と関東にあまり縁がなかったためと思われるが、ソロだけでなく、アンサンブルでも聴いてみたいと思った。アンコールは撮影OKでルイエの曲をしっとりと。古楽と新曲という、ある意味尖った内容なのにほっこりと明るい雰囲気だったのは永野の人柄ゆえだろう。こうした人は貴重だと思う。

(2024/7/15)

撮影、提供:永野歌織

撮影、提供:Hiroo Fushimi

(1)鍵盤楽器では桒形亜紀子が新作を委嘱して演奏会を開いている。
(2)楽譜には6分半と演奏時間が記載されていた。

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<performers>

Remi NAGANO Baroque Flute
Toshiki TSUMURAYA Cembalo

<program>
J.S. Bach: Flute Sonata in A Major, BWV 1032
Shin MIZUTANI: Napaeae Opus 13 for Flauto Traverso
J.S. Bach: Flute Sonata in E Minor, BWV 1034

–intermission—

J.S. Bach: Flute Sonata in E Major, BWV 1035
Mizuki AIDA:
J.S. Bach: Flute Sonata in B Minor, BWV 1030

-encore—

Jean-Baptiste Loeillet: Sonata in C Major, Op. 3, No. 1 1st mov.