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アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサート|藤堂清

アスミク・グリゴリアン ソプラノ・コンサート
Asmik Grigorian in Concert
ドラマティック・アリアの夕べ

2024年5月17日 東京文化会館大ホール
2024/5/17 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 長谷川清徳 (Kiyonori Hasegawa)

<演奏>        →foreign language
ソプラノ:アスミク・グリゴリアン
指揮:カレン・ドゥルガリャン
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団

<プログラム>
【第一部】
アントニン・ドヴォルザーク作曲
―歌劇《ルサルカ》
序曲*
“月に寄せる歌”
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作曲
―弦楽のためのエレジー《イワン・サマーリンの思い出》*
―歌劇《エフゲニー・オネーギン》
タチアーナの手紙の場 “私は死んでも良いのです”
ポロネーズ*
―歌劇《スペードの女王》
“もうかれこれ真夜中…ああ、悲しみで疲れ切ってしまった”
アルメン・ティグラニアン作曲
―歌劇《アヌッシュ》
“かつて柳の木があった”
【第二部】
アラム・ハチャトゥリアン作曲
―《スパルタクス》
スパルタクスとフリーギアのアダージオ*
リヒャルト・シュトラウス作曲
―楽劇《エレクトラ》
クリソテミスのモノローグ “私は座っていることもできないし、闇を見つめることもできない”
―楽劇《サロメ》
七つのヴェールの踊り*
サロメのモノローグ “ああ! ヨカナーン、お前の唇に口づけをしたわ”
*オーケストラ演奏

 

アスミク・グリゴリアンのオペラ・アリアの夕べ、二つのプログラムで行われた第二夜「ドラマティック・アリアの夕べ」と題するコンサートを聴いた。
第一部は彼女の父のルーツであるアルメニアやロシアといったスラブ系の作品、第二部はリヒャルト・シュトラウスの作品からモノローグという構成。
彼女はリトアニア生まれの43歳のソプラノ、世界各地で様々なオペラの主役を歌い、絶賛をあびている。このコンサートの直前には、METで《蝶々夫人》に出演して、好評を得ている。

なんと緻密で均質な響きの声だろう。どこまでも自然に伸びていく。完璧にコントロールされた声がそれぞれの曲に込められた情感をしっかりと表現する。

ドヴォルザークの《ルサルカ》、序曲に続きハープの前奏にのって彼女が登場、“月に寄せる歌”を歌い始める。水の精として本来はあり得ない人間への恋心をしっとりと聴かせる。チャイコフスキーの《エフゲニー・オネーギン》から「タチアーナの手紙の場」は、初めて会ったオネーギンへの思いを切々と訴え、手紙を綴る場面、揺れ動く感情を丁寧に歌い上げた。続く《スペードの女王》からのアリア“もうかれこれ真夜中…ああ、悲しみで疲れ切ってしまった”は、自分を置いて走り去っていった恋人ゲルマンに絶望して歌い自死する。その感情表現が細やかで見事。前半最後の、ティグラニアンの《アヌッシュ》からの “かつて柳の木があった”はアルメニアの作曲家の作品、筆者はどのような場面で歌われる曲か知らないが、別離の悲しみを表現しているように聴いた。

後半はリヒャルト・シュトラウスの2つの楽劇《エレクトラ》と《サロメ》から。クリソテミス、サロメのモノローグ、この二役はともにザルツブルク音楽祭で歌っており、十分に手のうちに入った曲。最初の《エレクトラ》からの “私は座っていることもできないし、闇を見つめることもできない”は、父アガメムノン殺害への復讐をともに果たそうと迫るエレクトラに、普通の女性の生活をしたいと訴えるもの。グリゴリアンの暗めだがつややかな声は、エレクトラのドラマティックな声との対比で映えるだろうと思わされる。最後のサロメのモノローグ “ああ! ヨカナーン、お前の唇に口づけをしたわ”は、”七つのヴェールの踊り”を踊った褒美として受け取ったヨカナーンの首を抱いて歌うもの。この長大な曲は、楽劇《サロメ》の幕切れにおかれ、彼女の最大の聴かせどころである。グリゴリアンは厚みのある声で圧倒するわけではないが、十分なヴォリュームとよくコントロールされた弱声でドラマを作り上げた。

コンサートとしてはオーケストラが非力で、彼女の歌を十分サポートできていなかったのは残念であった。しかし、そんなことを吹き飛ばすものがグリゴリアンの歌唱にはあった。

(2024/6/15)

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<Performer>
Soprano: Asmik Grigorian
Conductor: Karen Durgaryan
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra

<Program>
Antonín Dvořák: RUSALKA
– Ouverture [Orchestra]
– “Měsíčku na nebi hlubokém”
Pyotr Ilyich Tchaikovsky:
Elegy for strings “Memory of Ivan Samarin” [Orchestra]
Pyotr Ilyich Tchaikovsky: EVGENY ONEGIN
– Tatiana’s letter scene “Puskai pogibnu ya, no pryezhde”
– Polonnaise [Orchestra]
Pyotr Ilyich Tchaikovsky: QUEEN OF SPADES
– “The midnight is approaching… Ah, I am worn out by grief”
Armen Tigranian: ANOUSH
– “Asum en Urin”
*****(Intermission)*****
Aram Kachaturyan: SPARTACUS
-Adagio of Spartacus and Phrygia [Orchestra]
Richard Strauss: ELEKTRA
– Crysothemis Monologue
“Ich kann nicht sitzen und ins Dunkel starren”
Richard Strauss: SALOME
– “Dance of the Seven Veils” [Orchestra]
– “Ah! du wolltest mich nicht deinen Mund küssen lassen, Jochanaan!”