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ロナーティとは誰だったのか?~忘れられた名手、C. A. ロナーティの足跡と共に辿る17世紀後期イタリアの音楽~|大河内文恵

ロナーティとは誰だったのか?~忘れられた名手、C. A. ロナーティの足跡と共に辿る17世紀後期イタリアの音楽~
Who was Carlo Ambrosio Lonati?  Music of Late 17th Century Italy in the Footsteps of Lonati

2024年4月7日 今井館聖書講堂
2024/4/7 Imai-kan Bible Auditorium
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
Photos by T.Yokoi

<出演>        →foreign language
鷲見明香(バロック・ヴァイオリン)
懸田貴嗣(バロック・チェロ)
平井み帆(チェンバロ)

<曲目>
C. マンネッリ:シンフォニア第1番イ調
G. L. ルリエール:ヴァイオリン、ヴィオロンチーノ、通奏低音の為のソナタニ長調
ヴィオローネとバスの為のソナタヘ長調
B. パスクィーニ:第2旋法のトッカータ~「イル・パッジョ・トデスコ」のための変奏曲
A. コレッリ:ソナタ第3番ハ長調

~~休憩~~

A. ストラデッラ:シンフォニアニ調
ロナーティ氏によるプレリュード
C. A. ロナーティ(G. コロンビ?):ソナタニ調
G. コロンビ:バスソロのためのチャッコーナト長調
C. A. ロナーティ:ソナタ第9番ハ短調

アンコール
ビーバー:ソナタ第6番より ガヴォット

 

ロナーティと聞いて、すぐにピンと来る人はどのくらいいるだろうか? このコンサートは忘れられたヴァイオリンの名手で作曲家でもあるロナーティに焦点を当て、彼と関わりのある作曲家たちの作品とともに振り返る試みである。

前半で取り上げられたのは、ロナーティがローマにいた時代に同地で活躍していたマンネッリ、ルリエール、そしてロナーティがバス歌手としてオペラに出演していた作品の作曲家であるパスクィーニ、さらにはロナーティらの少し後輩にあたり、器楽作品の大家となったコレッリである。3曲目はチェロのソロ、4曲目はチェンバロのソロと、編成の上でも工夫がなされていた。

鷲見のヴァイオリンは、マンネッリのシンフォニアにみられるような細かい装飾を軽々としかし丁寧に演奏するのに加え、ルリエールのソナタのアダージョのようにゆったりとした旋律中の長くひきのばされた音に加えられるニュアンスの多彩さに特徴がある。コレッリの3番のソナタは演奏される機会の比較的多いものだが、1楽章ではセンスの良さが光った。4・5楽章では鷲見の自在な緩急に客席のボルテージが上がり、平井・懸田のアンサンブルの上手さとの相乗効果が生み出されていた。

後半にはいよいよロナーティの登場だが、1曲目は親友(悪友?)ストラデッラのシンフォニア。切迫したフレーズから始まり、フーガ、ゆったりとした部分、急速なフーガ、ゆったりとしたフーガ、速いテンポの終結部と次々と音楽の表情が変わる。それぞれ魅力的なのだが、特に最後の部分に惹きつけられた。

従来コロンビ作とされていたが近年ロナーティの作と見直されたソナタは、不思議なフレーズで始まる。途中、どこかで聞いたことがあるような旋律や和声進行が入ってくる。初期バロックの器楽作品のおいしい部分をつまみ食いしたような作品で、ロナーティの独自性といった面はあまり感じられないが、佳き作品といった感じを受けた。

懸田による長めのトークとコロンビのチャッコーナがこれに続く。トーク中、次のロナーティのソナタがスコルダトゥーラ(変則調弦)を要求するため、楽器の調整をする時間稼ぎなのだと明かされる。懸田の軽妙な話術とチャッコーナの心地よさが、時間稼ぎであることを忘れさせた。

ロナーティのソナタ第9番の冒頭のラルゴは非常に声楽的な旋律で、ロナーティに歌手として活躍した経験があることを思い起こさせる。それとともに、彼は生涯に10作品ほどのオペラを上演しており、オペラ作曲家としての経験が器楽作品に活かされているとも考えられる。この作品の後半のラルゴやジーガの部分はまたもやいかにも初期バロックの名曲らしく盛り上がり、コンサートの本編は終了した。

アンコールでは、ロナーティのソナタと同じ変則調弦で書かれたビーバーのソナタよりガヴォットが演奏された。重音を多用する技巧的な作品で、鷲見の妙技に会場中が息をするのも忘れて聴き入ってしまい、終わった瞬間にあちこちからため息がもれた。

ロナーティの研究は近年特にイタリアで進んでおり、今後バロック・ヴァイオリンのレパートリーに入ってくることも考えられる。鷲見が言うように、ロナーティには決定的な独自性は見出しにくいが、逆にいえば、先人のいいところをうまく取り入れて作品に仕立てあげる能力があったといえよう。また、器楽的な旋律のみならず、声楽的な旋律をも上手く操れるとしたら、鬼に金棒。鷲見・懸田・平井の先見の明に脱帽である。

(2024/5/15)

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<performers>
Violin: Asuka SUMI
Violoncello: Takashi KAKETA
Cembalo: Miho HIRAI

<program>
Carlo Mannelli: Sinfonia prima in la
Giovanni Lorenzo Lhuillier: Sonata in re maggiore
Sonata in fa maggiore
Bernardo Pasquini: Toccata del secondo tono
Variazioni per il paggio Todesco
Arcangelo Corelli: Sonata III in do Maggiore op. 5

–intermission—

Alessandro Stradella: Sonata in re
Prelude by Signor Ambrogio Lonati
C.A.Lonati (G.Colombi?): Sonata in re
Giuseppe Colombi: Ciaccona in sol maggiore
C.A. Lonati: Sonata IX in do minore

–encore—
Heinrich Ignaz Franz von Biber: Violin Sonata No. 6 in C Minor, C. 143 IV. Gavotte