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コンスタンティン・クリンメル&ダニエル・ハイデ|藤堂清 

東京春祭 歌曲シリーズ vol.39
コンスタンティン・クリンメル(バリトン)&ダニエル・ハイデ(ピアノ)
Tokyo-HARUSAI Lieder Series vol.39
Konstantin Krimmel(Baritone)& Daniel Heide(Piano) 

2024年4月12日 東京文化会館 小ホール 
2024/4/12 Tokyo Bunkakaikan Recital Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 平舘平/写真提供:東京・春・音楽祭2024 

<出演>        →foreign language
バリトン:コンスタンティン・クリンメル
ピアノ:ダニエル・ハイデ

<曲目>
シューベルト:《美しき水車屋の娘》D795
————(アンコール)————
シューベルト:月に寄せて D193
畑中良輔:花林(まるめろ)(杉浦伊作・作詞)
シューベルト:歓迎と別れ D767

 

ドイツ生まれのバリトン、今年31歳となる。若手でありながら歌曲のリサイタルで注目を集めている。その一方で、21年秋からバイエルン国立歌劇場のメンバーとなり、フィガロ、パパゲーノ、グリエルモなどを歌っており、オペラの分野でも活躍している。この日歌うシューベルトの《美しき水車屋の娘》は、シューベルティアーデでのリサイタルの演奏が放送されているほか、すでにCD録音も発売されている。他の曲でのリサイタルでは端正なスタイルを示すクリンメルだが、この歌曲集では、大胆な装飾、変化を加えて歌っている。この日の実演はどうであろうか。

若々しい声がスーッと飛び込んでくる。第1曲〈さすらい〉の第3節から大きな装飾を加えていく。録音で聴いていたときはドキッとするところもあったのだが、実演ではテンポの揺らぎと同じような印象で、違和感なく受け止められる。’Die Steine’で始まる第4節ではグッとテンポを落とし、なおかつ旋律もかなり変更する。一方、歌詞は明瞭に聴こえる。テンポの変化も装飾もすでに聴いていた録音とほぼ同様のもので、その場で即興的に加えたものではなく、ピアニストとも事前に十分な打ち合わせがなされた変更であることが分かる。
《美しき水車屋の娘》の曲の多くは同じ旋律を繰り返す有節歌曲である。その後の曲でも繰り返し部分では、装飾音を追加したり、異なる旋律で歌ったりということがあった。「楽譜どおりに演奏する」という概念からは外れる歌い方ではあるが、歌詞の違いに合わせテンポを変えるといった歌い方と大きく異なるわけではないとも考えられる。表現として許容するかどうかということになるのだろう。筆者はクリンメルの歌唱をこの曲集の表現として受け入れる。

彼の歌の優れた点は、歌詞が鮮明に聴きとれるということ。子音の丁寧な扱いがそれを可能にしている。またリズム感がすばらしいこと。それはテンポの微妙な変化があってもくずれない。もちろん若々しい声自体も魅力。どの音域でも無理なく響かせることができる。弱声でも響きを会場全体にきちんと伝えていた。また強く張った声でもくずれることがなかった。
ダニエル・ハイデのピアノもダイナミクスの幅があり、クリンメルの変化にピッタリと合わせ、表情が豊かなもの。近年多くの声楽家との共演で名前を見るが、それを裏付ける充実した演奏を聴かせた。

《美しき水車屋の娘》のような連作歌曲集のリサイタルでアンコールが歌われることは珍しい。歌う側の体力の問題もあるだろうが、まとまりのある曲集の後に何か付け加えることが難しいということが大きいだろう。だが、この日はアンコールとして3曲が歌われた。シューベルトの歌曲を2曲と日本語の歌。クリンメルは、シュトゥットガルト音楽演劇大学の卒業生、師事したのは日本人バリトン歌手の吉原輝教授であった。アンコールの2曲目では吉原の教えのことにふれ、畑中良輔の〈花林(まるめろ)〉を歌った。歌詞の日本語も聴き取りやすく、ごく自然に受け止められた。

(2024/5/15)

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<Cast>
Baritone:Konstantin Krimmel
Piano:Daniel Heide

<Program>
Schubert:”Die schöne Müllerin” D795
—————-(Encore)—————-
Schubert:An den Mond, D.193
Ryôsuke Hatanaka:Marumero (Lyrics: Isaku Sugiura)
Schubert:Willkommen und Abschied, D.767