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オーケストラ・アンサンブル金沢 第40回 東京定期公演|藤原聡

オーケストラ・アンサンブル金沢 第40回 東京定期公演
Orchestra Ensemble Kanazawa
The 40th Tokyo Subscription Concert

2024年3月18日 サントリーホール
2024/3/18 Suntory Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢

<曲目>        →foreign language
ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op.68『田園』
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 Op.67『運命』
※アンコール
J.S.バッハ:アリア(管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068より)

<演奏>
指揮:マルク・ミンコフスキ
コンサートマスター:アビゲイル・ヤング

 

いわゆる「地方オーケストラ」(この呼称もいかがなものかと思うが)の中ではオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)は最も頻繁に東京公演を行ってきたのではなかろうか。昨2023年は3月に広上淳一とサントリーホールへ、そして5月には川瀬賢太郎と文京シビックホールへ―都合2度も東京を訪れている(後者は金沢市と友好交流都市協定を結んでいる文京区の文京シビックホールリニューアルオープンに伴い同ホールへ登場したものでいささか例外的)。そして今年はOEKの桂冠指揮者マルク・ミンコフスキに率いられての第40回東京定期公演である。プログラムは王道中の王道、ベートーヴェンの『田園』と『運命』。あまりにもよく知られた作品だけに指揮者の「調理法」にいやが上にも注目が集まるのは言うまでもあるまいが、それがミンコフスキならなおのこと。尚、開演前にOEKの「アーティスティック・リーダー」広上淳一がステージに登場して挨拶を述べた。髭面だったのには驚いたが、能登復興までのゲンかつぎとのことである。

『田園』。弦の編成は見たところ10-8-6-4-3であろうか。コントラバスはステージ最後方に正面を向いて横一列の配置。演奏はその弦楽器の細やかなニュアンスが誠に美しく、明晰なアーティキュレーションは敢えて言えばバロック的。ティンパニは古楽器を用いているが、OEKなので他の楽器はピリオド楽器というわけではなく、弦は抑制されているとはいえヴィブラートも用いる。また、想像とはいささか異なりテンポは中庸に近い(但しスケルツォは舞曲性を強調して速く粗野)。周知の通り、『田園』も『運命』に勝るとも劣らぬ動機労作が駆使された実に「理詰め」の作品だが、ここでのミンコフスキはそのような全体の構造面への目配せにはさほど気を使わず、全曲を一筆書きのような流れのもとに描き上げた感がある。第1楽章や第2楽章で独特のフレージングを聴かせた箇所もあるが意外にオーソドックスな演奏と評せよう(あくまでミンコフスキとしては、であるが)。

これに比べれば後半の『運命』ははるかにミンコフスキ節が炸裂している。指揮者が登場して指揮台でお辞儀、オケに向き直るや否や予備拍なしでいきなりタクトを振り下ろす。テンポも相当な快速である。殊に再現部からコーダに至る驀進ぶりは強烈で、そのエネルギーの放出ぶりはこの曲としてもなかなか稀なものであろう。第2楽章では正面に向いたコントラバスが随所でその声部の独立性を主張して面白く―行進曲風の第2主題に入る直前の一音における深々とした物質性に満ちた音のインパクト!―、第3楽章では低弦のトリオ主題が3回目に登場する際のダイナミクスが変更されていたのも新鮮だったが、これらを上回るインパクトを放ったのは終楽章だろう。強烈なクレッシェンドからの冒頭3音をゆっくり溜めた後にいきなりの猛烈快速テンポに。これはリピートでも同様だったが、第3楽章の回想を挟んでの再現時には恐らく即興的と思われるpfで主題が処理され、かつテンポも異なったりといかにもミンコフスキらしい大胆不敵ぶりを披露して余りある。ここからのコーダ〜終結に至るまでの超快速さは筆者がかつて聴いたどの演奏にも勝り呆気にとられるほど。技術的にはホルンが終始安定を欠き、弦(特に第1ヴァイオリン)は前方プルトと後方プルトの弓使いの問題か、全体として音にいささかまとまりが無くバラけて聴こえたりする。元来合奏の縦の線を合わせたりギチギチに締め上げたりする人ではないミンコフスキだがここではそれが顕在化した印象である。だが実に不思議なことにそれが決して演奏の印象を悪化させず、この粗さが独特の迫力と味を生み出す結果に繋がっているのだ。これはミンコフスキのマジックと形容して差し支えなかろう。要はそこに「音楽」があったということである。仮にこのプログラムで翌日にも公演があったとしてこの一回性の迫力が生まれたかどうか、技術的な問題はクリアされたとしても。誠に音楽は単純ではない。

本プログラムが終わって数回の指揮者カーテンコールののちミンコフスキは「能登半島地震の犠牲者と亡くなった小澤征爾のために」とスピーチし、J.S.バッハの管弦楽組曲第3番からのアリアを演奏。バロック的な箇所はあれど、敢えて言えばロマンティックさをも感じさせる非常に美しく感銘深い音楽だった。

(2024/4/15)


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〈Program〉
Ludwig van Beethoven:Symphony No.6 in F major,Op.68 “Pastoral”
Ludwig van Beethoven:Symphony No.5 in C minor,Op.67
※Encore
J.S.Bach:Air(from Orchertral Suite No.3 in D major,BWV1068)

〈Player〉
Orchestra Ensemble Kanazawa
Conductor:Marc Minkowski (OEK Conductor Laureate)
Concertmaster:Abigail Young