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3月の公演短評|瀬戸井厚子

3月の公演短評

オペラシアターこんにゃく座公演 オペラ『神々の国の首都』
Opera Theatre Konnyakuza, Opera: The Chief City of the Province of the Gods

2024年3月14日 吉祥寺シアター
2024/3/14 Kichijoji Theatre
Reviewed by 瀬戸井厚子(Atsuko Setoi) :Guest

[台本・演出] 坂手洋二
[作曲] 萩京子

ラフカディオ・ハーン 髙野うるお
小泉セツ 豊島理恵
西田教頭 佐藤敏之
エリザベス・ビスラント 岡原真弓
アキラ(車夫) 北野雄一郎
稲垣金十郎 武田茂
稲垣トミ 彦坂仁美
小泉チエ 青木美佐子
柏木(山陰新聞記者) 富山直人
知事、小泉清ほか 大石哲史
よし子(知事の娘) 入江茉奈
為二(セツの元夫) 沢井栄次
フサ(為二の今の妻) 西田玲子
乞食女、マティー 鈴木あかね
誠二(心中する恋人) 金村慎太郎
カネ(心中する恋人) 川中裕子
横木(学生) 泉篤史
横木の母 相原智枝
オノブ(横木の姉) 齊藤路都
藤崎(学生) 中村響

フルート:岩佐和弘
ヴァイオリン:山田百子
チェロ:中田有
ピアノ:榊原紀保子

[美術] 堀尾幸男
[衣裳] 宮本宣子
[照明] 竹林功(龍前正夫舞台照明研究所)
[振付] 山田うん
[演出助手] 城田美樹
[舞台監督] 久寿田義晴
[音楽監督] 萩京子
[宣伝美術] 小田善久(デザイン) 信濃八太郎(イラスト)

 

座付き作曲家・萩京子の新作初演、台本は坂手洋二の同名戯曲(1993年初演)。このタイトルはラフカディオ・ハーン著『知られぬ日本の面影』(1894年刊)第7章の章題とのこと。神々の国=出雲の首都=松江におけるハーンを描く。西洋音楽の技法をもって新しい日本のオペラを創ろうと志すこんにゃく座にとって、異文化の中に身を置いて暮らした体験を執筆の糧としたハーンは、まことにふさわしい主人公と言えよう。
オペラ用に書かれた台本ではないから、長いアリアを歌い上げるようなことは無く、すべての歌は台詞。会話、対話である。けっして出しゃばることなく最適の節度を保ちつつしっかりと劇の展開を支える、頼りがいある器楽アンサンブル。客席にいる受け手は、音楽を抽出的に聴くのではなく舞台の進行全体をまるごと受け止めることになる。筆者など例えばプッチーニのアリアなんかはつい目を閉じて「楽の音」に浸りたくなってしまったりするのだが、それらとはまた異なる体験だ。
ハーンの伝記的事実についてさしたる知識もなく、ましてや妻セツの前歴など全く知らない筆者は、ひたすら耳目を凝らし、目の前で起こっていることにぴったりついていこうと懸命に集中する。わけても、第十一場・加賀の潜戸でハーンが後々の三男・清に会うところではぐいと胸中を摑まれた。音楽を取り分けて意識はしないと言っても、女声二重唱の清澄な響きに、ああ、耳が潤う、と感じたことも、付記しておきたい。

(2024/4/15)

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瀬戸井厚子 (Atsuko Setoi)
フリーランスの編集者として人文社会系図書の編集に携わる。
演劇集団プラチナネクストに所属して舞台活動も継続中。