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2月 短評|大河内文恵

2月短評

Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)

Lumen 光よ! 12~13世紀パリ ノートル・ダム大聖堂における 聖母マリアのお清めの祝日の典礼音楽より
2024年2月3日 千葉市美術館 さや堂ホール

 

さや堂ホールというのは天井が高く、よい響きを持ったホールである。その場所でこころ洗われるひとときを過ごすことができた。今回とりあげられた12~13世紀の音楽は、ある程度西洋音楽(とここでは敢えていうが)に慣れている人でも、普段触れる機会が多いとはいえない。音楽史の教科書などでノートルダム楽派などという用語とともにオルガヌム様式とディスカント様式など目にしたことはあっても、それがどのような音楽なのかは朧気にしかわかっていなかったのだということに、聞いているうちに徐々に気づかされた。

ある時代の音楽を知ろうとするとき、たいていはその時代を代表するような様式を持った曲、あるいはその時代で最も有名な曲をいくつか聞いて、それでその時代の音楽は「わかった」と思ってしまう。それがいかに浅薄で、その時代の理解をもしかしたら却って妨げるかもしれないことになるか。

たとえば、前述したオルガヌム様式とディスカント様式と言うのは、前者が長く延ばした声部の上に細かい音符で別の声部が歌うもので、比較的近い長さの音符で歌うのが後者なのであるが、それは単に声部同士の関係の違いというのではなく、音楽そのものの推進力の違いでもあるのだなと実感された。

また、オルガヌム様式において、1つの声部が長い音符で延ばし続けることの意味が今ひとつピンときていなかったのだが、延ばしている音が長ければ長いほど、その音が変わったときには、聞いているこちらの心がぐぐっと動く。

そうした音楽を続けて聞いた最後に歌われたモテットの、その斬新さには度肝を抜かれた。モテットは複数の歌詞が同時に歌われるところに特徴があるというのは知っているし、これまでそうして聞いてきたはずだが、これほど衝撃を受けたことはない。何より(今風にいえば)情報量が多い。
聞きながら感じることは多々あった。途中から蝋燭を使った演出があったり、夏山と安邨以外はこの時代の声楽を専門とする音楽家ではないいわばアマチュアであるにもかかわらず、全くそれを感じさせない安定した歌唱であったこと等々。だが、それらがすべて吹っ飛ぶほどの衝撃がこのモテットにはあった。百聞は一見に如かず、である。

(2024/3/15)

<出演>
ムジカ・パラフォニスタ
先唱者 夏山美加恵 安邨尚美
聖歌隊 新井美智代 糸川絵美 井上美鈴 寺村朋子 望月桂子 横山沙由子

<曲目>
めでたし おとめの中のおとめ

朝課 パリ・ノートルダム大聖堂のアンティフォナーレ集(13世紀)より
けがれなく、完全で、貞節な方、マリア
預言者の群れが
喜んでください、おとめマリア
めでたし マリア ― 詩篇96編 主に向かって新しい歌を歌え
あがない主を育てた母

ミサの前の蝋燭の儀式 パリのグラドゥアーレ集(13世紀)より
異邦人を照らす啓示の光
あなたの花嫁の部屋を飾り
めでたし 恵みに満ちた方
シメオンはお告げを受けた
今日、祝福されたおとめマリアは
マリア、おとめの中のおとめ

晩課 パリ・ノートルダム大聖堂のアンティフォナーレ集(13世紀)より
シメオンは幼子を腕に抱き
エルサレムにシメオンと言う人がいた ― マニフィカト
主をほめたたえましょう - 神に感謝
めでたし 王のおとめ/めでたし 栄光ある方/主に

<performers>
Mikae NATSUYAMA
Naomi YASUMURA

Michiyo Arai
Emi ITOKAWA
Misuzu INOUE
Tomoko TERAMURA
Keiko MOCHIZUKI
Sayuko YOKOYAMA

<programme>
Ave virgo virginum

Inviolata, intacta et casta es Maria
Quod chorus vatum
Gaude Maria virgo
Ave Maria – Psalmus 95: Cantate Domino canticum novum
Alma redemptoris mater

Lumen ad revelationem gentium
Adorna thalamum tuum
Ave gratia plena
Responsum accepit Symeon
Hodie beata virgo Maria
Maria, virgo virgium

Accipiens Symeon puerum in manibus
Homo erat Jerusalem cui nomen Symeon – Magnificat
Benedicamus Domino – Deo dicamus gratias
Salve virgo regia / Ave gloriosa / Domino