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新国立劇場 チャイコフスキー:《エウゲニ・オネーギン》|藤堂清

新国立劇場 ピョートル・チャイコフスキー:《エウゲニ・オネーギン》
Pyotr Tchaikovsky: Eugene Onegin
全3幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉

2024年2月3日 新国立劇場オペラパレス
2024/2/3 New National Theatre Tokyo, Opera Palace
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 堀田力丸/写真提供:新国立劇場

<スタッフ>        →foreign language
【指揮】ヴァレンティン・ウリューピン
【演出】ドミトリー・ベルトマン
【美術】イゴール・ネジニー
【衣裳】タチアーナ・トゥルビエワ
【照明】デニス・エニュコフ
【振付】エドワルド・スミルノフ
【再演演出】澤田康子
【舞台監督】髙橋尚史

<キャスト>
【タチヤーナ】エカテリーナ・シウリーナ
【オネーギン】ユーリ・ユルチュク
【レンスキー】ヴィクトル・アンティペンコ
【オリガ】アンナ・ゴリャチョーワ
【グレーミン公爵】アレクサンドル・ツィムバリュク
【ラーリナ】郷家暁子
【フィリッピエヴナ】橋爪ゆか
【ザレツキー】ヴィタリ・ユシュマノフ
【トリケ】升島唯博
【隊長】成田眞
ほか

【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京交響楽団

 

演出面も、音楽面もまとまりがあり、全体としてもなかなかよい公演であった。

2019年10月に新制作されたプロダクションの再演である。現代的な読み替えはなく、オリジナルのストーリーに従った舞台づくり。これは、1922年にコンスタンチン・スタニスラフスキーが製作したプロダクションを発展させたものという。歌手の細かな動きにはスタニスラフスキーの手法が感じられるものがあった。
装置としては、つねに舞台中央に置かれている4本の柱とその上に載る三角の構造物が印象的。第3幕ではそれが左右に拡大され、奥行きがもたらされて豪華な空間になる。同じ構造だが、場面ごとに異なる役割を持たせて使い分けている。第1幕第1場ではラーリン家の玄関、第3場ではタチヤーナがオネーギンを待つあずまやとなる。
第2幕第1場のラーリン家の宴会における客の田舎を印象付ける動きと第3幕第1場の舞踏会の賓客の動きの違いを合唱団が演じ分けた。そういった集団の動きはていねいにつけられていた。決闘の場面で、逡巡するオネーギンの姿、それをいぶかしみ近寄ろうとするレンスキー、地面に向けて撃った弾が当たる。このように各場面で細かに動きが決められていた。

音楽面では、まず指揮のヴァレンティン・ウリューピンを挙げたい。各場面に必要な細やかな響きをオーケストラから引き出し、またダイナミックな音楽も実に気持ちよく鳴らす。タチヤーナが手紙を書く場面での彼女の心の動きを見事に描き出したり、オネーギンとレンスキーの二重唱での揺れる心の表現など細やかにえがいた。38歳とまだ若い指揮者、今後が期待できそう。

歌手は飛びぬけてすばらしい人がいたというわけではないが、粒ぞろいでバランスが良かった。
タチヤーナを歌ったエカテリーナ・シウリーナ、2007年のリサイタル以来久しぶりの来日。コロラトゥーラでスタートした彼女にとって、タチヤーナは今回が初役ということだったが、透明度の高い声、弱声から強声まで柔軟に使った息の長い旋律線、この日が最終日ということもあってか、しっかりと歌い上げた。長大な手紙の場の歌い分けは見事。
オネーギンのユーリ・ユルチュク、すらりとした体型、身長もあり、タチヤーナならずとも惹きつけられそう。声もどちらかといえば細身な印象だが、声量やフレージングに不足はない。第1幕第3場でタチヤーナをいさめる歌、第2幕第1場で憤るレンスキーをなだめる歌など、ピッタリ嵌っていた。
ヴィクトル・アンティペンコのレンスキーは第2幕第2場のアリアで聴かせた。甘くつやのある声はこの役にふさわしいが、《スペードの女王》のゲルマンのようなよりドラマティックな役も十分歌えるだろう。
グレーミン公爵は力量のあるバスにとっておいしい役だろう。アレクサンドル・ツィムバリュクの深く厚みのある声で歌われたアリアは聴き応えがあった。
オリガのアンナ・ゴリャチョーワの低音の威力、冒頭のタチヤーナとの二重唱でもしっかりと発揮された。
脇役に入った日本人歌手もそれぞれしっかりと歌った。

よい公演をみせてもらった。

(2024/3/15)

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<STAFF>
Conductor: Valentin URYUPIN
Production: Dmitry BERTMAN
Set Design: Igor NEZHNY
Costume Design: Tatiana TULUBIEVA
Lighting Design: Denis ENYUKOV
Choreographer: Edvald SMIRNOV
Revival Director: SAWADA Yasuko

<CAST>
Tatyana: Ekaterina SIURINA
Eugene (Yevgeny) Onegin: Yuriy YURCHUK
Vladimir Lensky: Viktor ANTIPENKO
Olga: Anna GORYACHOVA
Prince Gremin: Alexander TSYMBALYUK
Madama Larina: GOKE Akiko
Filipyevna: HASHIZUME Yuka
Zaretsky: Vitaly YUSHMANOV
Monsieur Triquet: MASUJIMA Tadahiro