鈴木優人&BCJ×千住博 モーツァルト《魔笛》 |藤堂清
鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博
モーツァルト作曲 オペラ《魔笛》
M.Suzuki & Bach Collegium Japan × H. Senju Mozart: Opera “The Magic Flute”
2024年2月25日 めぐろパーシモンホール 大ホール
2024/2/25 Megro Persimmon Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by K.Miura
<クリエイティブ> →foreign language
指揮:鈴木優人
演出:飯塚励生
美術:千住博
衣裳:高橋悠介(CFCL クリエイティブディレクター)
映像:ムーチョ村松
振付・ダンサー:渡辺レイ
舞台監督:幸泉浩司(アートクリエイション)
<出演者>
タミーノ:イルカー・アルカユーレック
パミーナ:森麻季
ザラストロ:平野和
夜の女王:モルガーヌ・ヘイズ
パパゲーノ:大西宇宙
パパゲーナ:森野美咲
モノスタートス:新堂由暁
侍女I・合唱:松井亜希
侍女II:小泉詠子
侍女III:坂上賀奈子
童子I・合唱:望月万里亜
童子II・合唱:金持亜実
童子III・合唱:高橋幸恵
弁者・合唱:渡辺祐介
僧侶II・武士I・合唱:谷口洋介
僧侶I・武士II・合唱:山本悠尋
ダンサー:山本帆介
奴隷・合唱:金沢青児、鏡貴之、大井哲也
合唱:小巻風香、田村由貴絵
カバー:高橋維、鈴木准
管弦楽・合唱:バッハ・コレギウム・ジャパン
「鈴木優人&バッハ・コレギウム・ジャパン×千住博」という見出しのついた、モーツァルトの《魔笛》、音楽の上では前者が中核となり、舞台美術や全体コンセプトでは後者が中核となる。プログラムに、鈴木優人、千住博、そして演出の飯塚励生、3人それぞれがこの《魔笛》にかける想いを載せている。
全体のコンセプトの中心となった千住は言う。「現代に上演するということは、現代の人に誤解されないようにモーツァルトという天才を生き返らせるということが必要」「現代のアナログ社会とデジタル社会のせめぎ合いによって、次の時代がどう展開するかという瀬戸際に、私たちは生きている」「それが対立するだけではなく、変わりつつある社会構造のなかで最後はハイブリッドなんだ、と」
鈴木は、これまでモンテヴェルディやヘンデルといったバロック・オペラに取り組んできた。彼は強調する。「基本的にはバッハからモーツァルトっていうのは一つの音楽的変化のグラデーションの中にある」「今回の《魔笛》は、ヘンデルの流れを汲んだバロック・オペラの延長としても聴こえるし、最先端の究極の現代オペラみたいにも聴こえる、っていうふうになるといいな」。そして「モーツァルトの音楽をガット弦の響きで、昔のフルートの響きで聴くのは、モダン楽器の演奏より耳にオーガニックだし、歌手にも優しい」しかし「フルートで、モダン楽器なら楽々吹ける高音も、オリジナル楽器だと死ぬ気で演奏しないといけない」とも言う。
舞台では、吊るされた何枚もの布に、千住の描いた絵やデジタル画像が投影され、奥深い森や神殿が現れる。場面ごとに布の配置も投影の仕方も変わる。この映像の利用による舞台転換は説得力があった。千住の言うデジタル社会、ザラストロの世界を表す画像はアルファベットや数字で表現される。夜の女王が表すアナログの世界と対立するだけではなく、融合していく。つまり、最後に夜の女王が地獄に落ちて終わりというのではなく、両方の世界が互いに受け入れる形でのエンディングとしている。
歌手に関しては、独唱から合唱まで高いレベルでそろっており、安心して聴いていられた。
タミーノのイルカー・アルカユーレック、声自体にはくせを感じるところはあったが、安定した歌唱を聴かせた。パミーナの森麻季の艶やかで言葉の明快な歌、ザラストロの平野和のがっちりとした声と揺るぎのない歌、そして夜の女王モルガーヌ・ヘイズの見事なコロラトゥーラ、誰もがその役にピタリと合っている。中でもパパゲーノの大西宇宙のはまり役ぶりは見事。〈おいらは鳥刺し〉〈恋人か女房がいれば〉の独唱はもちろん、〈愛を感ずる男たちは〉といった重唱でもしっかりと歌いあげる。さらに間に入るセリフまわしも堂に入っているし、演技でも笑いをとった。歌う場面は〈パ・パ・パ〉の二重唱しかないパパゲーナだが、ここでの森野美咲の歌唱は大西とピッタリと合っている。また演技面での弾けっぷりは舞台を盛り上げた。モノスタートスを歌った新堂由暁、アリア〈誰にも恋の喜びはある〉で聴かせたほか、セリフと演技でしっかり役割を果たした。侍女の三重唱、童子の三重唱が見事なバランスであったことも忘れてはならないだろう。
バッハ・コレギウム・ジャパンの器楽メンバーによるオーケストラに関しては、いくつかの点で不満を感じた。
「モーツァルトの音楽をガット弦の響きで、昔のフルートの響きで」という方向性は望ましいと思うし、その体感を楽しみたいと考える。だが、それはアンサンブルが整った上での話。この日は特に高弦のピッチやタイミングがずれる場面があり、落ち着けないこともあった。また人数が少ない分、ヴォリュームの点でも不利は否めない。バッハなどに較べモダンのピッチに近いことも彼らの通常の演奏とは異なるものとなったのかもしれない。ダイナミクスの幅に制限があっても、音楽の推進力や弾みが大きければカバーできると思うのだが、その意味でも十全とは言えなかった。
一部に問題はあったものの、全体としては大変高水準な公演。楽しませていただいた。
(2024/3/15)
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<Staff>
Direction: Leo Iizuka
Artwork: Hiroshi Senju
Movie direction: Mucho Muramatsu
Costume design: Yusuke Takahashi (CFCL)
Stage manager: Hiroshi Koizumi (Art Creation)
<Performers>
Conductor: Masato Suzuki
Tamino: Ilker Arcayürek
Pamina: Maki Mori
Sarastro: Yasushi Hirano
The Queen of the Night: Morgane Heyse
Papageno: Takaoki Onishi
Papagena: Misaki Morino
Monostatos: Yoshiki Shindo
Erste Dame: Aki Matsui
Zweite Dame: Eiko Koizumi
Dritte Dame: Kanako Sakaue
Sprecher: Yusuke Watanabe
Orchestra, Chorus: Bach Collegium Japan