1月の1公演短評|齋藤俊夫
2024年1月の1公演の短評。
♪山本昌史コントラバス・ソロ The Unplugged Theatre
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
♪山本昌史コントラバス・ソロ The Unplugged Theatre
2024/1/26/19時、27/19時@アトリエ第Q藝術→演奏・曲目
26日19時の回冒頭のケージ『The Wonderful Widow of Eighteen Springs』を聴いて、見て、「ああ、やっぱり現代芸術音楽はここから始まりここに収束するのだなあ」といった複雑な気持ちに捕われた。ケージは我々の前に自由の沃野を拓いたが、その自由は放任を意味しない。我々はずっとケージの手の中から逃れられていない。
ケージが拓いた沃野の一角として特殊奏法(拡張奏法)をさらに推し進めた、パフォーマンス、アクション、行為、動作――これらをまとめて「演技の上演」と言おう――が挙げられるだろう。今回のドラックマン、ロバン、そしてボアヴァンがこの演技の上演の系譜に連なっていた。コントラバスを弾くというより手とマレットと口でひたすら色々と奇妙な音を出すドラックマン、ゴリゴリと最低音域の弦を擦り、弓が折れ〈るほど〉を越えて実際に弓がおれ〈たほど〉に弓を弦に叩きつけた暴力的なロバン、約30分間コントラバスと愛を交わし合うようにコントラバスを傾け、寝かせ、抱きしめ、クルクルと回転させ、床に敷いた楽譜を弓でかっさばき、最後は山本が立ったまま死んだように溶暗して終わるボアヴァン、いずれも自由でかつ音楽的である。しかしそれはケージの拓いた「現代芸術音楽のフィールド」上から逃れられていないということでもある。もとより作曲家も山本も現代芸術音楽のフィールドから出たり外れたりすることは意図していないのだろうが、何かここに筆者は物足りなさを感じ、それはケージ作品を無言で拝聴する時のいわく言い難い面映ゆさと繋がっているのだと思う。
演技の上演の系譜とは(全く別物ではないが)異なる流れの日本人作曲家たち5作品もいずれも名品・名演。森田泰之進の高速で弦を刻み続けて情熱が発火するような『速驚曲第3番』、木下正道の岩壁に頭突きを延々と続けながら歌を唱えることを音楽と化したかのような『石をつむIX』の初演2作品はどちらも強烈なインパクトを与えた。
山本の音楽作品・演奏に対する真っ直ぐな眼差しが見事に音楽として花開いた幸福なリサイタルであった。
♪山本昌史コントラバス・ソロ The Unplugged Theatre
2024/1/26/19時、27/19時@アトリエ第Q藝術
<演奏>
コントラバス:山本昌史
<曲目>
1/26/19時
ジョン・ケージ:『The Wonderful Widow of Eighteen Springs』(1942)
一柳慧:『空間の生成』(1985)
森田泰之進:『速驚曲第3番』(2021委嘱新作・初演)
木下正道:『石をつむIX』(2023委嘱新作・初演)
ジェイコブ・ドラックマン:『Valentine』(1969)
フィリップ・ボアヴァン:『ZAB ou la Passion selon Saint-Nectaire』(1981・日本初演)
(アンコール)フランソワ・ラバス: イクウェイション
1/27/19時
高木日向子:『Lost in ____VI』(山本昌史委嘱作品・2022)
藤倉大:『Bis』(2018)
森田泰之進:『速驚曲第3番』(2021委嘱新作・初演)
木下正道:『石をつむIX』(2023委嘱新作・初演)
ヤン・ロバン『Myst』(2019・日本初演)
フィリップ・ボアヴァン:『ZAB ou la Passion selon Saint-Nectaire』(1981・日本初演)
(アンコール)ジョルジ・マクホシュビリ:リグレプス