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オーケストラ・プロジェクト2023|西村紗知

オーケストラ・プロジェクト2023――リゲティ生誕100年、ラフマニノフ生誕150年、ロマンの断絶を超えて
Orchestra Project 2023

2023年12月1日 東京オペラシティ コンサートホール
2023/12/1 Tokyo Opera City Concert Hall
Reviewed by 西村紗知(Sachi Nishimura)
Photos by 姫田蘭/写真提供:オーケストラ・プロジェクト

<演奏>        →foreign language
指揮:水戸博之
バリトン:青戸 知(小栗作品)
フルート:木ノ脇道元(鈴木作品)
チェロ:上森祥平(鈴木作品)
茶道:河原宗薫(鈴木作品)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

<プログラム>
山本 準:ディナミカ・インプルシヴァ~オーケストラのための~(初演)
中川俊郎:管弦楽のための スキーム 26212928 (初演)
鈴木理恵子:天空の一期一会――フルート、チェロ、茶道とオーケストラのための (初演)
小栗克裕: 独唱と管弦楽のための〜夜~(初演)

 

1979年に開催された第1回の公演以来、「オーケストラ・プロジェクト」は邦人作曲家のオーケストラ作品を世に送り続けてきた。38回目となる本公演では、「リゲティ生誕100年、ラフマニノフ生誕150年、ロマンの断絶を超えて」という副題が添えられ、4名の新作が披露された。
フライヤーに記されたその副題が目に入り、それがきっかけで足を運んだ。「ロマンの断絶」という言葉が何を指すかは難しいところだと思う。だが、ラフマニノフの憂鬱で甘ったるい音調と、リゲティのシステマティックな音楽思考とを、一人の作曲家が本当の意味で同時に引き受けることなどそう簡単なことではない、と想像はする。
様式や時代からの断絶ののちに、「ロマン」を考え直す。本公演の意義を言い当てようとするなら、恐らくそういうものとなるだろう。

山本作品「ディナミカ・インプルシヴァ」。最初ティンパニにより提示されるC#とEからなる動機をはじめ、登場する動機や主題自体はシンプルだが、それらが組み合わさって変奏していく仕方は、なるほど確かにタイトル通り、Impulsが自ずから導き出す動力学が音楽となっている、と言いたくなるようなものだった。動機の組み合わさったところを聞くと、それは線とも塊とも、軌跡ともつかない。アタックは丸く、強弱も極端に変わることなくデュナーミクもおおよそ均質で、あたかも、構成される音の粒子がくだけないように、エネルギーが節制されているようだと思う。形式的にはプログラム・ノートの記述通り、主題の変奏について順を追って説明できる伝統的なものだが、実際に聞くと、内容的には伝統的とは言えない、全体として不思議な趣がある作品だと思った。
山本作品を聞いていて、ふと「脱質化」という言葉が浮かんだが(帰宅してから調べたらそのような言葉は無かった)、続く中川作品「管弦楽のための スキーム 26212928」については、「近代の偶然化」という言葉を思い浮かべた。チューニングをパフォーマンスに含んだ、どこからが演奏開始だったかわかりづらくしてある、複数の場面をつなぎ合わせた演劇的な作品だった。A音442Hz(実際のこの日の周波数がどうだったかは私にはわからない)を中心とした制度としてのオーケストラが、解体されていくのを聴衆は五感で感じ取った。そういうコンセプトであるといって言葉にしてしまうと何てこともない気がするのだが、実演を聞くと迫力があり、シラけた気分には一切ならなかった。
後半の鈴木、 小栗の両作品の方が、前半に比べより一層叙情的な表現をもつ作品だったと思う。
鈴木作品「天空の一期一会」は客席にも演奏者を配置するスタイル。フルートの木ノ脇の存在感の強さが、作品の質を決定づける要因だったと思う。ほとんど音を発しない茶道の位置付けが聞いていて難しかったが、ソリストの協奏が楽しく、後半にはリトミッシュで舞曲調の展開もあり、聞き所に事欠かない作品だった。
小栗作品「独唱と管弦楽のための〜夜~」は、室生犀星の詩集『星より來れる者』より「夜」を音楽化したもの。弦が主体となり作品の空気をなし、その上に、詩節にしっかり寄り添った歌の旋律が乗る。会場全体がやわらかいポエジーに包まれる、そういう音楽体験だった。

システマティックな思考の結果として、音楽がそこに鳴り響いていること。ロマンティックな抒情に訴える表現がそこにあること。作曲の方法としては、それらの間の敷居が取り払われてもう何年にもなることだろう。本演奏会は、「ロマンの断絶」という問題設定の現在地を、今一度確認する機会になった。

(2024/1/15)

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<Artists>
Conductor: Hiroyuki MITO
Bariton: Satoru AOTO*
Flute: Dogen KINOWAKI**
Cello: Shohei UWAMORI**
Sado: Sokun KAWAHARA**
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra

<Program>
Jun YAMAMOTO: Dinamica Impulsiva for Orchestra
Toshio NAKAGAWA: Scheme 26212928 for Orchestra
Rieko SUZUKI: Spirit of Ichigo-Ichie Soaring High in the Sky for Flute, Cello, Sado and Orchestra**
Katsuhiro OGURI: Night for Bariton Solo and Orchestra*