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ジャン=フィリップ・ラモー: オペラ《レ・ボレアード》|藤堂清

(公財)北区文化振興財団設立35周年記念事業
北とぴあ国際音楽祭2023
ジャン=フィリップ・ラモー: オペラ《レ・ボレアード》
Jean-Philippe Rameau: Les Boréades

2023年12月10日 北とぴあ さくらホール
2023/12/10 Hokutopia Sakura Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 三浦興一/写真提供:公益財団法人 北区文化振興財団

<スタッフ>       →Foreign Language
指揮・ヴァイオリン:寺神戸 亮
演出:ロマナ・アニエル
振付・バロックダンス:ピエール=フランソワ・ドレ(エリオスキン)
バロックダンス:松本更紗、
   ニコレタ・ジャンカーキ、ミハウ・ケンプカ(クラコヴィア・ダンツァ/ポーランド)

<キャスト>
アルフィーズ:カミーユ・プール(ソプラノ)
アバリス:大野彰展(テノール)
アダマス、アポロン:与那城 敬(バリトン)
カリシス:谷口洋介(テノール)
ボリレ:山本悠尋(バリトン)
セミル、ポリムニ:湯川亜也子(ソプラノ)
ボレアス:小池優介(バリトン)
ニンフ:鈴木真衣(ソプラノ)
アムール:鈴木美紀子(ソプラノ)

合唱・管弦楽:レ・ボレアード(ピリオド楽器使用)

 

《レ・ボレアード》はジャン=フィリップ・ ラモー(1683-1764) の最後のオペラ。1763年に作曲されたが、彼の生前に上演されることはなく、長く埋もれていた。20世紀後半になって再発見されたものの、Stil社という出版社が著作権を獲得したため、著作権料を支払わないと演奏できない状況が続き、上演機会が限られてきた。近年になって著作権の縛りは解けたが、楽譜は出版されておらず、ベーレンライター社からのレンタルでのみ演奏が可能となっているという。そういった事情で限定はされているものの、2023年にヨーロッパ各地を巡る上演が行われるなど、聴く機会は少しずつ増えてきているようだ。それにしても国内での上演の可能性は低く、貴重な機会であったといえよう。

あらすじを書いておこう。
バクトリアの女王アルフィーズは北風の神ボレアスの血を引く者との結婚が定められている。しかし彼女は、ボレアスの息子二人ボリレとカリシスではなく、出自の分からないアバリスを愛している。一方アバリスもアルフィーズへの秘めた想いを抱えている。彼の出生の秘密を知る大司祭アダマスは彼をはげます。そこにアルフィーズが現れ、ボレアスへの怒りをぶちまける。アバリスは彼女に愛を告白するが、アルフィーズはそれに応えることができない。人々が集まる中、愛の神アムールが降臨し、アルフィーズに魔法の矢を渡す。アルフィーズとアバリスはともに不安をいだきながらも、愛の勝利を願っている。ボリレとカリシスがアルフィーズに結婚の決断を促し、民衆も国王選びを求める中、アルフィーズは女王の座を退くと宣言、アムールから受けた矢をアバリスに渡す。ボレアスの息子たちはボレアスに二人を罰するよう訴える。それを受け嵐が猛威をふるい、つむじ風がアルフィーズを連れ去る。混乱の中、大司祭アダマスが現れ、この危機を救えるのはアバリスだけという。はじめは受け入れなかったアバリスだが、アルフィーズを助けるため、愛の呼ぶところへ飛んでいくと叫ぶ。嵐をいっそう強くしようとするボレアスのもとに息子たちに連れられてアルフィーズが来る。どちらと結婚するかと迫るボレアスに、いっそ死を命じてというアルフィーズ。そこへ愛の矢に導かれてアバリスがやってくる。ボレアスたちは殺そうとするが、彼は矢で制止する。そこにアポロンが降臨し、アバリスが彼の息子であり、母はボレアスの血筋を引くニンフであると明かし、彼を王位につけるよう告げる。ボレアスはこれを受け入れ、二人の結婚を祝福する。

この時代のフランス・バロック・オペラでは、歌だけでなく、舞踏の占める割合が大きい。舞台後方の一段高いステージにオーケストラを配置。ステージ前方で、歌唱、ダンスを行う。
バロックダンスの振付は、ピエール=フランソワ・ドレが担当。場面ごとに、そしてエール、リゴードン、メヌエット、ガヴォット、コントルダンスといった舞曲ごとに異なる動きを付けている。彼自身も加わる4人の、手先まで神経の行き届いた踊りは実に優美。DVDになっている2003年のウィリアム・クリスティ指揮の公演の際はモダン・バレエであったのに較べるとスピード感では劣るものの、舞踏の多様性では十分に満足のいくものであった。衣裳もこの時代にふさわしいもので、何度も着替えて飽きさせない。合唱団が踊りに加わる場面もあったが、こちらは基本的な動きを真似しているというレベル。演出も振付を取り込み、分かりやすい舞台、筋がつかめるものとしていた。
寺神戸亮がヴァイオリンを弾きながら指揮したオーケストラ、その名も「レ・ボレアード」。もともとこのオペラに因んで付けられたという。その思いもあってだろうか、積極的な演奏が聴かれた。冒頭の場面でのホルンの強奏、嵐の場面での打楽器の強打など印象的。弦楽器も少人数ながら踏み込みの鋭い演奏。ラモーの音楽で重要な役割を果たす合唱も、随所に充実した歌を聴かせてくれた。
歌手のなかで際立っていたのは、女王アルフィーズを歌ったカミーユ・プール。どの音域も安定した響き、細かな動きも自在、高音のやわらかさ、言葉の美しさ、聴かせどころの多いこの役の独唱、二重唱で大いに楽しませてくれた。予定の歌手が来日できず代役でアバリスを歌った大野彰展も健闘。プールと較べるとダイナミクスの幅では落ちるが、やわらかな声は魅力的、アリアもしっかりと歌い上げた。低音の二役、アダマス、アポロンを歌った与那城敬の安定感は、舞台の流れを引き締めてくれた。ボレアスの二人の息子、カリシスの谷口洋介とボリレの山本悠尋は狂言回し的な位置づけだが、それぞれに役割を果たしていた。女声の二役、侍女セミルおよびポリムニの湯川亜也子もしっかりとした歌唱。全体として歌手は高いレベルでそろっていた。

ラモーの最晩年の充実した音楽の魅力を十分に伝えてくれた公演であった。

(2024/1/15)

<Staff>
Conductor & 1st violin: Ryo Terakado
Director: Romana Agnel
Director, Choreographer & Baroque dancer: Pierre-François Dollé (HéliosKine)
Baroque dancers: Sarasa Matsumoto, Nikoleta Giankaki (Cracovia Danza), Michał Kępka (Cracovia Danza)

<Cast>
Alphise : Camille Poul
Abaris : Akinobu Ono
Adamas (Act 2, 3, 4), Apollon (Act 5): Kei Yonashiro
Calisis : Yosuke Taniguchi
Borilée : Yukihiro Yamamoto
Sémire (Act 1), Polymnie (Act 4): Ayako Yukawa
Borée : Yusuke Koike
Une Nymphe : Mai Suzuki
L’Amour : Mikiko Suzuki

Orchestra & Choir: Les Boréades (Period-instruments Orchestra)