11月 短評|大河内文恵
11月 短評
♪アレッサンドロ・ストラデッラ オラトリオ《洗礼者ヨハネ》
♪カテリーナ古楽合奏団 祝祭
Reviewed by 大河内文恵 (Fumie Okouchi)
アレッサンドロ・ストラデッラ オラトリオ《洗礼者ヨハネ》→出演
2023年11月日13(月)@東京文化会館 小ホール
《洗礼者ヨハネ》と聞いてピンと来ない人でも、サロメの話と聞けば「あぁ、リヒャルト・シュトラウスのあの話ね」と思い出すだろう。作曲者ストラデッラは天才作曲家であったが、スキャンダラスな人生を送り、最後は殺されてしまった人である。登場人物は洗礼者ヨハネのほか、ユダヤの王ヘロデ、ヘロデの兄の妻だったがヘロデと結婚したヘロディア、ヘロディアの娘、ヘロデの家臣であり、ヘロディアの娘がサロメにあたる。
残されている手稿譜では、歌唱部分には通奏低音しか書かれていないが、弦楽器群と通奏低音陣が豪華。日本でピットに座ることのほとんどない渡邊のチェンバロを聴けたのは貴重だった。あの楽譜からさまざまなパッセージや和声が繰り出されてくるさまを、心躍らせながら聴いた。
シュトラウスのオペラと違い、このオラトリオでは生首は出てこず、おどろおどろしさはない。しかし、ヘロディアの娘役の佐藤は第1部と第2部とでまったく異なる人物造形をおこなった。第1部では可憐な少女であったのが、第2部では恐ろしい異形の女になる。第2部のヘロデとの二重唱の後のレチタディーヴォでのサイコパスさ溢れる感じ、ヨハネの最後の言葉が終わった後の不敵な笑み、その後のアリアでの凄み。一瞬タイトルロールはサロメなのではないかと思ったが、ヨハネ役の中嶋がどっしりと存在感を示し、やはりこのオラトリオは《ヨハネ》なのだと納得した。
字幕は7月の日本ヘンデル協会の公演と同じ4行で構成されていた。それにより、ヘロデとサロメの二重唱において、ほとんど同じ歌詞なのに一部だけ異なることでまったく違う意味になるというのが、視覚的によく理解できた。幕切れの「なぜ 一体 なぜ」と大文字で書かれた字幕が、会場全員の気持ちを代弁していた。
この公演の最大の功労者は福島であることは間違いない。伴奏部分の楽器指定がほとんどないなかで、それぞれの箇所に楽器を割り当て、作品を形作っていく作業には相当の手間がかかっているはずで、スコアから上演できる形にもっていくには準備に時間をかけたものと想像される。本当に1回しか上演しないのが勿体なさすぎる。
カテリーナ古楽合奏団 祝祭→出演
2023年11月19日(日)@北とぴあ つつじホール
カテリーナ古楽合奏団50周年記念のコンサート。出演予定だった1人が体調不良で急遽、全員でそれをカバーするべく編成を組み直したというが、言われなければまったくわからないほどだった。カテリーナ古楽合奏団を知ったのは実はTV番組だった。Eテレの番組を子どもと見ていたら、ロバの音楽座という団体が出てきて、あまりの玄人はだしに驚いたのが最初だった。今から考えると、プロに向かって「玄人はだし」というのも失礼かと思うが、その当時の筆者は古楽団体に疎く、ただただ演奏のレベルの高さに驚き、番組のクレジットから「ロバの音楽座」という文字列を探し出して検索し、カテリーナ古楽合奏団に辿り着いたのだった。それからいつか生で聴きたいと思いつつも、すぐにチケットが売り切れてしまうので、なかなか実現しなかったのが今回ようやく来られた。
中世、ルネサンスの写本などから選ばれたさまざまな曲は、そういった学術的なことを感じさせないくらい彼らの中で消化されていて、ただひたすら楽しめる。
知的好奇心を刺激するコンサートも良いけれど、こういった小難しいこと抜きに誰もが楽しめるコンサートっていうのもいいなぁと思う。もちろん、それにはこれまでの積み重ねや日々の努力があってのことなのだろうが。それと同時に、つつじホールを満員にするほどの観客が詰めかけて、みんな楽しそうにしているというのが、違う意味で衝撃だった。
(2023/12/15)
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アレッサンドロ・ストラデッラ オラトリオ《洗礼者ヨハネ》
2023年11月日13(月)@東京文化会館 小ホール
出演:
洗礼者ヨハネ:中嶋俊晴
ヘロデ:松井永太郎
ヘロディア:阿部早希子
ヘロディアの娘:佐藤裕希恵
延臣:大野彰展
弟子たち・民衆:大森彩加、小林恵、木下泰子、山中志月、目黒知史
コンチェルティーノ(ソロ):
ヴァイオリン:高橋奈緒、阪永珠水
チェロ:懸田貴嗣
リピエーノ(トゥッティ):
ヴァイオリン:宮崎蓉子、遠藤結子
ヴィオラ:伴野剛、松隈聡子、中島由布良、春木英恵
チェロ:高橋麻理子
ヴィオローネ:布施砂丘彦
チェンバロ:渡邊孝
ハープ:矢野薫
テオルボ:佐藤亜紀子
指揮:福島康晴
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カテリーナ古楽合奏団 祝祭
2023年11月19日(日)@北とぴあ つつじホール
出演:
松本雅隆
上野哲生
千葉潤之介
蔡怜雄
斉藤和久
松本更紗
(長井和明)
岡田啓
賛助出演:
クリストファー・ハーディ
宮下宣子
庄司和史