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日生劇場開場60周年記念公演  ヴェルディ:歌劇《マクベス》|藤堂清

日生劇場開場60周年記念公演 
NISSAY OPERA 2023 
ヴェルディ:歌劇《マクベス》(原語上演、日本語字幕付) 

2023年11月12日 日生劇場 
2023/11/12 Nissay Theatre 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 三枝近志/写真提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場] 

<スタッフ、キャスト>     →Foreign Language
指揮:沼尻 竜典
演出:粟國 淳(日生劇場芸術参与)
美術・衣裳:アレッサンドロ・チャンマルーギ

マクベス:大沼 徹
マクベス夫人:岡田 昌子
バンクォー:妻屋 秀和
マクダフ:大槻 孝志
マルコム:髙畠 伸吾
侍女:藤井 麻美
マクベスの従者・第一の幻影 他:後藤 春馬、金子 慧一
第二の幻影:田浦彩夏
第三の幻影:大木美枝

管弦楽:読売日本交響楽団
合 唱:C.ヴィレッジシンガーズ

 

53年ぶりのヴェルディ公演という。日生劇場開場60周年記念公演として行われた歌劇《マクベス》。定期的にオペラを上演してきているこの劇場で、それほど長い期間ヴェルディが取り上げられてこなかったというのは驚きである。ちなみに53年前の公演は、ロリン・マゼール、ディートリッヒ・フィッシャー=ディスカウらによる《ファルスタッフ》、ベルリン・ドイツ・オペラの来日公演であった。ともあれ、久しぶりの上演は、演出、歌唱、オーケストラ、そろって高水準で楽しめるものであった。

舞台の美しさに惹かれる。衣装や装置は黒と白が中心で色はとぼしいが、光に浮かび上がる人や枯れ木のオブジェ、その姿かたちや影に強い印象を受ける。背景の照明も暗めの色彩が選ばれ、場面ごとに赤、青、緑、白色といった具合に変化するが、照度は低めである。
第1幕、マクベス夫人の登場の際の「光の道」は強い印象を与える。ただ、ここでマクベスからの手紙を彼の声で流したのは疑問。本来マクベス夫人の歌の一部だろう。
第3幕の魔女の場面で登場する背の高い幻影たち、これもまた記憶に残る。
動きの面では、読み替えはほぼなく、台本を知ればそのまま受け止められるものであった。

演奏面に移ろう。
マクベス夫人を歌った岡田昌子、最初のアリアで抑えた声でマクベスからの手紙を読みあげ、ついで“Ambizioso spirto Tu sei Macbetto…”と歌い出した時の衝撃は大きなものだった。厚みのある声、弱声から強声まできちんとその響きを保つ。さらに細かな動きも自在にこなす。日本の歌手にはあまりないタイプ、それを高い水準で実現している。第2幕の乾杯の歌の切れ味、第4幕の夢遊の場でのタップリとした歌い口、さらにアンサンブルでの際立った響き、などなど。
マクベスの大沼徹、少しくぐもった響きが気になったが、安定した歌。ただし第2幕でのバンクォーの亡霊を見て錯乱する場面、もう少し歌で演技をしてほしい。
バンクォーの妻屋秀和、バスの第一人者として予定調和の世界といっては言い過ぎか。安心して聴いていられるというのも貴重。
沼尻の指揮も煽り立てたりすることはなく、破綻はない。安全運転といえなくもないが、アンサンブルをしっかり聴かせており、十分にコントロールされた指揮。読売日本交響楽団の各パートの充実も聴き応えがあった。

日生劇場という客席数の少ないホール、舞台機構の制約もあるのかもしれないが、53年といわず、もう少し頻繁にヴェルディを取り上げてほしいものである。

(2023/12/15)

<Staff & Cast>
Conductor: Ryusuke Numajiri
Stage Direction: Jun Aguni
Sets and Costumes: Alessandro Ciammarughi

Macbeth: Toru Onuma
Lady Macbeth: Shoko Okada
Banco: Hidekazu Tsumaya
Macduff: Takashi Otsuki
Malcolm: Shingo Takabatake
Dama di Lady Macbeth: Asami Fujii
Medico et al.: Keiichi Kaneko

Orchestra: Yomiuri Nippon Symphony Orchestra
Chorus: C.Village Singers