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藤木大地 カウンターテナー・リサイタル Encounter-tenor 2023|藤堂清

藤木大地 カウンターテナー・リサイタル
Encounter-tenor 2023 ~さすらい人の愛と生涯~

2023年11月1日 浜離宮朝日ホール
2023/11/1 Hamarikyu Asahi Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
写真提供:浜離宮朝日ホール

<出演>       →Foreign Language
藤木大地(カウンターテナー)
マーティン・カッツ(ピアノ)

<プログラム>
F.シューベルト:水の上で歌う
J.ブラームス:永遠の愛
G.フォーレ:月の光
R.アーン:わたしの詩に翼があったなら
G.マーラー:歌曲集《さすらう若人の歌》
  1. 恋人の婚礼の時
  2. 朝の野原を行けば
  3. 胸の中には燃える剣が
  4. 恋人の二つの青い眼
———————(休憩)———————
V.ウィリアムズ:リンデン・リー
B.ブリテン:流れは広く
加藤昌則:レモン哀歌
R.シューマン:歌曲集《女の愛と生涯》
  1. あの方にはじめてお会いして以来
  2. だれよりもすばらしいお方!
  3. なにがどうなっているのかさっぱりわからない
  4. わたしの指にはまっている指環よ
  5. 手伝ってちょうだい、妹たち
  6. 親しい友、 あなたは
  7. わたしの心に、わたしの胸に
  8. あなたはわたしにはじめて苦しみをお与えになりました
——————(アンコール)——————
R.シュトラウス:万霊節
木下牧子:シャガールと木の葉(浜離宮朝日ホール開館30周年記念 委嘱作品)
V.ウィリアムズ:リュートを弾くオルフェウス

 

「現代最高峰の共演ピアニスト、マーティン・カッツと贈る Encounter-tenor2023 ~さすらい人の愛と生涯~」と銘打った今年のEncounter-tenor、マーラーとシューマンの歌曲集を中心に多様な歌曲を組み合わせたプログラム。昨年が、バロックから当日初演の曲まで、そして歌曲もオペラもと、彼の幅広い活動範囲を示すものであったのに対し、今回は歌曲、とくに19世紀以降のドイツ歌曲に重点が置かれた曲目が選ばれた。
注目を集めたのは後半のメインというべきシューマンの《女の愛と生涯》だろう。女性の気持ちを歌う8曲からなる歌曲集、当然のことながら女声で歌われることがほとんど。藤木が歌うと、音域的には女声による演奏と同じだが、演奏者は男性という状況となる。はじめて会った彼に惹かれる気持ちを歌う第1曲から、この女性になり切ったような歌唱。この曲を男声で歌う場合、一人称で歌うことはむずかしく、三人称的な表現となるだろう。藤木は、カウンターテナーという特性を活かして、一人称的な歌い方をとっていた。男性が歌っているという違和感はまったく感じない。第4曲〈わたしの指にはまっている指環よ〉の喜びにあふれる歌や、第8曲〈あなたはわたしにはじめて苦しみをお与えになりました〉の深い悲しみ、聴き手も主人公に感情移入していくことになる。最後の長い後奏をマーティン・カッツはゆったりと抑え気味の音で弾いて締めくくった。
前半は、ドイツ歌曲とフランス歌曲、2曲ずつの後、マーラーの《さすらう若人の歌》。シューベルトの〈水の上で歌う〉の節ごとの歌い分けの見事さ。ブラームスの〈永遠の愛〉の後半の女性の決然とした歌。アーンの〈わたしの詩に翼があったなら〉のひそやかな響きの美しさ。マーラーの歌曲集では、4曲の歌い分けで表現力の幅を聴かせた。〈恋人の婚礼の時〉のゆったりとした歌い出しからの悲しい思いの表現、〈朝の野原を行けば〉では小鳥の歌の楽し気な描写、〈胸の中には燃える剣が〉のダイナミクスの大きな歌、遅めのテンポで静かに終わる〈恋人の二つの青い眼〉。
全体として、藤木は強声から弱声まで幅広く使えることを示した。それにより表現の幅も大きく拡がったと感じた。また、歌曲集というまとまりをきちんと捉え、大きな流れを生み出している。
マーティン・カッツは藤木に寄り添い、彼の表現を支える。ピアノのタッチ自体には少し弱いと感じるところもあったが、細かなテンポの揺らぎが歌の表情を作り出していた。
実りの多いリサイタルであった。

(2023/12/15)

<Player>
Daichi Fujiki (Counter Tenor)
Martin Katz (Piano)

<Program>
F.Schubert: Auf dem Wasser zu singen
J.Brahms: Von ewiger Liebe
G. Fauré: Clair de lune
R.Hahn: Si mes vers avaient des ailes
G.Mahler Lieder eines fahrenden Gesellen
  Wenn mein Schatz Hochzeit macht
  Ging heut’ morgen über’s Feld
  Ich hab’ ein glühend Messer
  Die zwei blauen Augen von meinem Schatz
——————(Intermission)——————
V.Williams: Linden Lea
B.Britten: Waly, Waly
M.Kato: Lemon Aika
R.Schumann: Frauenliebe und Leben
  Seit ich ihn gesehen
  Er, der Herrlichste von allen
  Ich kann’s nicht fassen, nicht glauben
  Du Ring an meinem Finger
  Helft mir, ihr Schwestern
  Süßer Freund, du blickest
  An meinem Herzen, an meiner Brust
  Nun hast du mir den ersten Schmerz getan
———————(Encore)———————
R.Strauss: Allerseelen
M.Kinoshita: A Chagall and a Tree Leaf
V.Williams: Orpheus with his lute