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東京二期会オペラ劇場 ヴェルディ:《ドン・カルロ》 |藤堂清

東京二期会オペラ劇場 ヴェルディ:《ドン・カルロ》
Tokyo Nikikai Opera Theatre, Verdi: Don Carlo 

2023年10月13日 東京文化会館 大ホール 
2023/10/13 Tokyo Bunka Kaikan Main Hall 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 寺司正彦/写真提供:公益財団法人東京二期会 

<スタッフ>         →Foreign Languages
指揮: レオナルド・シーニ
演出: ロッテ・デ・ベア
演出補: カルメン・クルーゼ
舞台美術: クリストフ・ヘッツァー
照明: アレックス・ブロック
振付: ラン・アーサー・ブラウン
合唱指揮: 佐藤 宏
演出助手: 太田麻衣子
舞台監督: 村田健輔
公演監督: 大野徹也
公演監督補:永井和子

<キャスト>
フィリッポII世:ジョン ハオ
ドン・カルロ:樋口達哉
ロドリーゴ:小林啓倫
宗教裁判長:狩野賢一
修道士:畠山 茂
エリザベッタ:竹多倫子
エボリ公女:清水華澄
テバルド:中野亜維里
レルマ伯爵&王室の布告者:前川健生
天よりの声:七澤 結
6人の代議士:岸本 大
   寺西一真
   外崎広弥
   宮城島 康
   宮下嘉彦
   目黒知史

合唱:二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

終演後のカーテンコール、合唱団、歌手、指揮者、それぞれに大きな拍手がおくられた。最後にロッテ・デ・ベアら演出家グループが登場するとそれが弱まり、盛大なブーイングが上の方から投げつけられた。拍手する人もいたようだが、それが聞こえなくなるほどのものであった。何がこのような評価を生んだのだろう。そして、それは妥当なものだったのだろうか?

《ドン・カルロ》には再演時の改訂も多く、さまざまな版が存在する。オリジナルのフランス語5幕版、イタリア語4幕ミラノ版、イタリア語5幕モデナ版など。今回の上演は、モデナ版を基本とし、第1幕の冒頭を初演準備稿の前奏曲と導入に置き換え、カットされていた第3幕のバレエ音楽の一部を取り入れ、またゲルハルト・E・ヴィンクラーの〈プッシー・ポルカ〉を挿入している。これらの改変、最後の現代曲の挿入を除けば、他の劇場でも行われていた変更で、この演出特有のものとは言えない。そう考えれば版の選択の問題が原因とはいえないだろう。

演出で気になった点はいくつか挙げられる。
第1幕でエリザベッタとドン・カルロが互いを認識してすぐにベッドインするところ。
第3幕でフィリッポと宗教裁判長が接吻を交わすシーン。
第4幕、フィリッポが〈一人寂しく眠ろう〉と歌うとき、彼のベッドの中にエボリがいること。
時代設定を近未来のスペインとしたことの有効性。
など。
だが性的表現や暴力的表現などここまで描かないとならないかと思うような場面でも、舞台の流れという点では大きな齟齬はきたしていなかったように感じる。

演奏に関しては、レオナルド・シーニの指揮が堅実なもので、場面に必要な勢いや、ダイナミクス、また弱音での緊迫感といったものもオーケストラから引き出していた。さらに言えば、歌手が歌いやすいようにサポートしており、そのバランスが絶妙。
歌手もレベルが高く、独唱、重唱も聴き応えがあった。エリザベッタの竹多倫子は高音域から低音域まで一定の響きを維持し、伸びやかでむらのない声を聴かせた。この難役を冒頭から最後のアリアまでしっかりとした歌。ドン・カルロの樋口達哉の力強い歌も魅力的。エリザベッタとの重唱ではもう少し柔らかな声がという気もしたが、全体としては立派なもの。ロドリーゴの小林啓倫、スタイリッシュな歌唱でこの役のさまざまな側面をよく表現していた。第2幕でのフィリッポとの二重唱、第三幕のカルロ、エボリとの三重唱など、重唱でもバランスを取った歌唱が魅力。エボリ公女の清水華澄は第4幕のアリアでの迫力はなかなかのもの。

最後の拍手について、音楽面での大きな拍手は当然として、演出に対するあれほどの否定はいかがなものだろうか。多様な取り組みを許容する気持ちを持ってほしいものである。

(2023/11/15)

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<STAFF>
Conductor: Leonardo SINI
Stage Director: Lotte de BEER
Associate Stage Director: Carmen C.KRUSE
Set & Costume Designer: Christof HETZER
Lighting Designer: Alex BROK
Choreographer: Ran Arthur BRAUN
Chorus Master: Hiroshi SATO
Assistant Stage Director: Maiko OTA
Stage Manager: Kensuke MURATA
Production Director: Tetsuya ONO
Assistant Production Director: Kazuko NAGAI

<CAST>
Filippo II: Hao ZHONG
Don Carlo: Tatsuya HIGUCHI
Rodrigo: Hiromichi KOBAYASHI
Il Grande Inquisitore: Ken-ichi KANOU
Un frate: Shigeru HATAKEYAMA
Elisabetta di Valois: Michiko TAKEDA
La principessa d’Eboli: Kasumi SHIMIZU
Tebaldo: Airi NAKANO
Il Conte di Lerma/ Un araldo reale: Kensho MAEKAWA
Voce dal cielo: Yui NANASAWA
6 deputati: Dai KISHIMOTO
     Kazuma TERANISHI
     Hiroya TONOSAKI
     Ko MIYAGISHIMA
     Yoshihiko MIYASHITA
     Tomofumi MEGURO

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra