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9月の3公演短評|藤堂清 

9月の3公演短評

♪《 バロック・ライヴ劇場》 第11回公演 
 レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード~恋心の言葉~  
♪レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード デュオ・リサイタル 
♪東京交響楽団 第714回 定期演奏会 
 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 

 

♪《 バロック・ライヴ劇場》 第11回公演 Program
レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード~恋心の言葉~  
2023年9月20日@王子ホール 

メゾ・ソプラノのレア・デザンドレとリュートのトーマス・ダンフォードによるデュオ・リサイタル、東京では二つのプログラムが演奏された。この日は~恋心の言葉~と題したイタリアン・プログラム。数曲歌い、弾いては、短いMCを交えるといった形でのリサイタル。歌われたのは、モンテヴェルディ、フレスコバルディ、ヘンデル、カプスベルガー、メールラ、間で弾かれたリュートの曲はカプスベルガーとダルツァによるもの。
モンテヴェルディの恋の苦しみを歌うゆったりとした曲からスタート。デザンドレは小顔であごも小さいように見えるが、その声の響きは厚く胸声から頭声までバランスよく使われている。メゾ・ソプラノという声域だが、高い音域も無理なく歌える。母音がもう少しはっきりした方がよいのではという印象だが、聴き手の体に共鳴する声は気持ちがよい。
歌の間にはさまれ演奏されるカプスベルガーのトッカータ、ダンフォードは技巧的なパッセージもそうとは感じさせずに弾いていく。その音色の魅力的なこと。
ヘンデルの〈棘は除けて、バラを摘むのです〉は、同じ旋律を後年〈涙の流れるままに〉に利用しそちらで歌われることが多いが、デザンドレの澄んだ声にはこちらの方があっている。モンテヴェルディの〈恋心の言葉〉は、この日のリサイタルのサブタイトルとなっている。恋文を書いていく気持ちの動き、その内容などを語っていく。リサイタルの頂点の一曲。メールラの〈さあ、眠る時間ですよ〉は子守唄ではあるが、聖母が幼子キリストに歌う曲で、将来の受難を予感した言葉が続く。この曲に関してはデザンドレの歌唱に踏み込んだ表現が欲しかった。
アンコールには翌日のリサイタルの曲目からダンブリュイが、さらに時代を越えて、アーンの〈クロリスに〉、バルバラの〈ねえ、いつ戻ってくるの?〉が歌われた。これらの曲が違和感なくつながることにも感心した。

 

♪レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード デュオ・リサイタル Program
フレンチ・プログラム ~夜が続くにまかせ~ 
2023年9月21日@豊洲シビックセンターホール 

レア・デザンドレとトーマス・ダンフォードによるデュオ・リサイタルの二日目、フレンチ・プログラム。歌われた曲は、ランベール、シャルパンティエ、ル・カミュ、ダンブリュイのもの。間で弾かれたリュートの曲は、ド・ヴィゼーとマラン・マレによる。17世紀後半から18世紀初頭にかけての作品が集められた。
ランベールの〈彼女は羊飼い、優しくて一途〉が歌いだされたときにまず感じたのは、昨日に較べ声が柔らかいということ。歌詞がフランス語ということが影響しているのだろうか、デザンドレの声の調子だろうか。シャルパンティエの〈ぼくを苦しめるだけの女性に〉を聴くと、どちらもあたっているように思えてきた。基本的な声質は変わりがないが、力みが抜けたように感じられる。
ダンフォードの弾くド・ヴィゼーのガヴォット、シャコンヌなどの舞曲も昨夜のカプスベルガーによるトッカータとは肌触りが異なる。
ル・カミュの〈何も聞こえない、この木立に来れば〉や、この日のリサイタルのタイトルである〈夜が続くにまかせましょう〉といった恋の苦しみを歌う曲も、昨夜のイタリアの作品とは違う味わい。デザンドレも伸び伸びと表現している。そういえば、昨夜は頻繁に水分補給を行っていたが、この日はほとんど口をつけることはなかった。体調面でも違いがあったのだろう。曲ごとに引き込まれる度合いも違い、全体として強い印象を与えられた。
アンコールは4曲。《ペレアスとメリザンド》のアリアのしっとりとした歌、〈オンブラ・マイフ〉の伸びやかな響き、そしてバルバラのシャンソン、最後のアルディの〈恋の季節〉ではダンフォードも声を合わせた。バロックに特化するだけではなく、自由な音楽を聴かせる二人、素敵な時間であった。

 

♪東京交響楽団 第714回 定期演奏会 Program
2023年9月23日@サントリホール

ロレンツォ・ヴィオッティが4年ぶりに来日、東京交響楽団を指揮した。プログラムは「英雄×英雄」、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」とR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」という重量級の曲目。
前半のベートーヴェン、ヴィオッティはオーケストラの自由度を高く保ち、根幹はおさえながらもソロの自発性を発揮させる。音楽に弾みがあり、勢いを感じさせる。第1楽章の沸き立つような響き、第2楽章の葬送の重い足取り、第3楽章の跳ねるようなリズム、第4楽章の弦楽四重奏になる部分では奏者に任せている。全体として奏者が楽しんで演奏していることが伝わってくる。
後半の「英雄の生涯」では、編成が拡大しているが、オーケストラの音の透明感は保たれている。流麗さ、色彩感といった点も挙げられよう。大胆なパウゼを入れても構成がくずれることはない。〈英雄の敵〉での管楽器の騒ぎもみごとにコントロール。〈英雄の伴侶〉、ヴァイオリン・ソロが魅力的。〈英雄の戦場〉でのさまざまな楽器のバランスの取り方が見事。
最後の音が消えた後、長い静寂があった。聴衆もこの演奏の余韻にひたっていたかったのだろう。オーケストラが引き上げたあとも拍手はやまず、ヴィオッティが呼び出されることになった。

(2023/10/15)

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♪《 バロック・ライヴ劇場》 第11回公演 
レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード~恋心の言葉~ 
2023年9月20日 王子ホール 

<演奏>
レア・デザンドレ (メゾ・ソプラノ) Lea Desandre (Mezzo Soprano)
トーマス・ダンフォード (リュート) Thomas Dunford (Lute)

<曲目>
イタリアン・プログラム ~恋心の言葉~

クラウディオ・モンテヴェルディ: いとも甘美なこの苦しみ
Claudio Monteverdi (1567-1643): Si dolce è’l tormento
ジローラモ・フレスコバルディ: そよ風が優しく吹けば
Girolamo Frescobaldi (1583-1643): Se l’aura spira
ジローラモ・カプスベルガー: トッカータ第6番 *
Girolamo Kapsberger (1580-1651): Toccata VI *
ヨアン・アンブロシオ・ダルツァ:スペイン風カラータ *
Joan Ambrosio Dalza (15C/ 生没年不詳) Calata ala Spagnola *
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル:棘は除けて、バラを摘むのです (オラトリオ「時と真実の勝利」 HWV46aより)
Georg Friedrich Händel (1685-1759): Lascia la Spina
ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ 第5番 *
Girolamo Kapsberger: Toccata V *
クラウディオ・モンテヴェルディ: 恋心の言葉
Claudio Monteverdi: Lettera amorosa
ジローラモ・カプスベルガー : 息子や、 お眠り
Girolamo Kapsberger: Figlio Dormi
ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル:オンブラ・マイフ ( 懐かしい木陰)
Georg Friedrich Händel: Ombra mai fu
ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ 第1番 *
Girolamo Kapsberger: Toccata l *
タルクイニオ・メールラ: さあ、眠る時間ですよ (子守唄の調べに乗せた宗教的カンツォネッタ)
Tarquinio Merula (1595-1665): Canzonetta spirituale sopra alla nanna
ジローラモ・カプスベルガー:トッカータ 第3番  *
Girolamo Kapsberger: Toccata Ill *
タルクイニオ・メールラ: おかしな話だ、信じ込むなんて
Tarquinio Merula: Folle è ben chi si crede
クラウディオ・モンテヴェルディ: 蔑みに満ちたまなざしだ
Claudio Monteverdi: Quel sguardo sdegnosetto
—————-(アンコール)—————-
オノレ・ダンブリュイ:わたしたちを優しく包む、木立の静けさ
Honoré d’Ambruys(c.1660-c.1702): Le doux silence de nos bois
レイナルド・アーン:クロリスに
バルバラ:ねえ、いつ戻ってくるの?

*印は、リュート・ソロ
♪レア・デザンドレ&トーマス・ダンフォード デュオ・リサイタル 
2023年9月21日 豊洲シビックセンターホール 

<出演>
レア・デザンドレ (メゾ・ソプラノ) Lea Desandre (Mezzo Soprano)
トーマス・ダンフォード (リュート) Thomas Dunford (Lute)

<曲目>
フレンチ・プログラム ~夜が続くにまかせ~

ミシェル・ランベール: 彼女は羊飼い、優しくて一途
Michel Lambert (1610-1696): Ma bergère est tendre et fidèle
ロベール・ド・ヴィゼー: ガヴォット ニ短調*
Robert de Visée (1650/1655-after 1732): Gavotte en ré mineur
マルク=アントン・シャルパンティエ : ぼくを苦しめるだけの女性に
Marc-Antoine Charpentier (1643-1704): Celle qui fait tout mon tourment
セバスティアン・ル・カミュ: 何も聞こえない、この木立に来れば
Sébastien Le Camus (1610-1677): On n’entend rien dans ce bocage
マラン・マレ : 人間の声*
Marin Marais (1656-1728): Les Voix Humaines
ル・カミュ: 夜が続くにまかせましょう
Le Camus: Laissez durer la nuit
ド・ヴィゼー: シャコンヌ ニ短調 *
de Visée: Chaconne en ré mineur
オノレ・ダンブリュイ: わたしたちを優しく包む、 木立の静けさ
Honoré d’Ambruys(c.1660-c.1702): Le doux silence de nos bois
ド・ヴィゼー: プレリュードとサラバンド ニ短調*
de Visée: Prélude et Sarabande en ré mineur
ル・カミュ: 寂しく暗い森
Le Camus: Forêts solitaires
シャルパンティエ : 暖炉のそばでも、恋の営みを
Charpentier : Auprès du feu on fait l’amour
ド・ヴィゼー: アルマンド “王室”*
de Visée: Allemande “La Royale”
シャルパンティエ: 陰惨な荒れ地から荒れ地へ、暗い気持ちで野に下る
Charpentier: Tristes désert, sombre retraite
ランベール : 毎日、あなたから蔑まれていれば
Lambert: Vos mépris chaque jour
ド・ヴィゼー: “ラ・マスカラード (仮面舞踏会)” *
de Visée: Rondeau “La mascarade”
ランベール: 恋したあの人の亡霊は
Lambert: Ombre de mon amant
シャルパンティエ : この木陰なら誰も来ないから
Charpentier: Sans frayeur dans ce bois
—————-(アンコール)—————-
ドビュッシー:私の長い髪は(歌劇「ペレアスとメリザンド」より)
ヘンデル:懐かしい木陰(歌劇「セルセ」より)
バルバラ:いつ戻ってくるの?
アルディ:恋の季節

*印は、リュート・ソロ
♪東京交響楽団 第714回 定期演奏会 
Tokyo Symphony Orchestra Subscription Concert No.714 
2023年9月23日 サントリホール 
2023/9/23 Suntory Hall 

〈演奏〉
ロレンツォ・ヴィオッティ [指揮]
Lorenzo Viotti, Conductor
グレブ・ニキティン [コンサートマスター]
Gleb Nikitin, Concertmaster

〈曲目〉
ベートーヴェン:交響曲 第3番変ホ長調 op.55 「英雄」 (47′)
I. アレグロ・コン・ブリオ
II. 葬送行進曲 : アダージョ アッサイ
III. スケルツォ : アレグロ・ヴィヴァーチェ
IV. フィナーレ : アレグロ・モルト
—————–休憩—————–
R.シュトラウス:交響詩 「英雄の生涯」op.40(40′)
1.英雄
II.英雄の敵
III.英雄の伴侶
IV.英雄の戦場
V.英雄の業績
VI.英雄の引退

L.v. Beethoven: Symphony No. 3 in E flat major op.55 “Eroica” (47′)
I.Allegro con brio
II.Marcia funebre: Adagio assai
III. Scherzo: Allegro vivace
IV.Finale: Allegro molto
—————–Intermission—————–
R. Strauss : Symphonic poem “Ein Heldenleben” op.40(40′)
I.Der Held
II.Des Helden Widersacher
III.Des Helden Gefährtin
IV.Des Helden Walstatt
V.Des Helden Friedenswerke
VI.Des Helden Weltflucht und Vollendung der Wissenschaft