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藤原歌劇団公演 ヴェルディ:歌劇《二人のフォスカリ》|藤堂清 

藤原歌劇団公演(共催:新国立劇場・東京二期会) 
ヴェルディ:歌劇《二人のフォスカリ》 
The Fujiwara Opera 
Verdi: “I due Foscari” Opera in 3 acts 

2023年9月9日 新国立劇場オペラパレス 
2023/9/9 New National Theatre Tokyo Opera Palace 
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh) 
Photos by 池上直哉/写真提供:公益財団法人日本オペラ振興会 

<演奏>         →Foreign Languages
指揮:田中祐子
演出:伊香修吾
フランチェスコ・フォスカリ:上江隼人
ヤコポ・フォスカリ:藤田卓也
ルクレツィア・コンタリーニ:佐藤亜希子
ヤコポ・ロレダーノ:田中大揮
バルバリーゴ:及川尚志
ピザーナ:中桐かなえ
合唱:藤原歌劇団合唱部/新国立劇場合唱団/二期会合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

 

ヴェルディの6作目のオペラ《二人のフォスカリ》の上演は、2001年12月の東京オペラ・プロデュースによるもの以来で、国内二度目になる。オーケストラのキリリとしまった音、主役歌手のポイントをおさえた力みのない歌、彼の初期オペラの魅力を引き出した公演であった。

このオペラでは、高齢のヴェネツィア総督フランチェスコ・フォスカリ、彼の最後に残された子ヤコポ・フォスカリ(ヤコポと略す)、その妻ルクレツィア・コンタリーニの3名が主役となる。冤罪でクレタに流刑となっていたヤコポが別件の裁判のため本国に戻されたところから物語が始まる。15世紀に実際にあった事件がモデルとなっている。
総督は終身制であるが、決定権は十人委員会、評議会といった任期制の組織にあり、権力の集中を避ける仕組みとなっていた。当時これら議会は、フォスカリ家を敵とみなすヤコポ・ロレダーノ(ロレダーノと記載)等の勢力が多数であった。

オペラのあらすじは以下のとおり。
第1幕、十人委員会、評議会のメンバーが「法に則り、厳正な裁判を」と歌う。そこに呼び出されるヤコポが久しぶりに見るヴェネツィアの海や街に感動している。続くカバレッタでは無実を訴える。場面は変わって、ルクレツィアが総督にヤポコへの許しを嘆願しに行こうとするが、友人等に止められる。しかし再び流罪との判決が伝えられ、怒りを爆発させる。一方、フランチェスコは息子を政敵の復讐から守れない苦しい思いを歌う。そこへルクレツィアがあらわれ、ヤコポのために懇願してくれるよう求めるが、総督は法が絶対と拒否する。
第2幕は牢獄の中のヤコポの場面、拷問の恐怖におびえ、亡霊を見て気を失う。そこへルクレツィアが面会に。二重唱で別れて暮らす苦しさを慰め合う。フランチェスコが父親として訪れ、ヤコポを愛していることを告げる。三人の思いが重なる。ロレダーノが登場し、判決の言い渡しと流刑の執行が行われることを告げる。場面は変わり十人委員会の会議室、ヤコポに新たな判決が示されるが、彼は総督に無実を訴え、恩赦を哀願する。しかしフランチェスコは法を守るしかないという。ルクレツィアが子供たちを連れて現れ、ヤコポは彼らを抱きしめ、再度恩赦を願う。ロレダーノは流刑を進めるように委員たちをあおる。
第3幕、囚人を移送する船を前に、ヤコポは妻や子に別れを告げる。フランチェスコは私室でわが子を救えなかった無力さを嘆いている。そこへヤコポの無実が証明されたことが知らされる。喜ぶフランチェスコ。しかし、現れたルクレツィアはヤコポが死んだことを告げる。ロレダーノを含む十人委員会のメンバーが訪れて、総督に退位を迫る。息子を奪った上に名誉も奪うのかと怒るフランチェスコ。だが、結局は決定に従わざるを得ない。ルクレツィアとともに自宅に向かおうとするとき、新たな総督が選ばれたことを伝える鐘がなり、強く憤るフランチェスコは倒れ、息を引き取る。

総督という権力のある立場にありながら、息子を助けることができないフランチェスコ。公私を明確に区別することが彼にきびしい判断を強制する。一方ヤコポやルクレツィアの側からみれば、自分の息子に対して一切の斟酌ができない父親への苛立ちがあり、それがまたフランチェスコを追い詰めている。このようなストーリーの展開から、オペラの中の重みはこの三役が中心となる。一方、ロレダーノや彼と意を一として動く十人委員会という存在はあるものの、ドラマを動かす強い役割を持っているわけではない。音楽面でも十人委員会を歌う合唱の役割は大きいとは言えない。
まず演奏面であげたいのは、フランチェスコを歌った上江隼人である。第3幕最後のアリア・フィナーレでの激しい怒り、続く「息子を返してくれ」という嘆き、フランチェスコの聴かせどころを見事に表現。第1幕、第2幕でも、私的な立場での思いを歌う部分と、総督としての公的な場面での歌唱をはっきりと歌い分け、オペラの骨格を作り出した。ルクレツィアは、ヤコポのためという一貫した思いを、そして彼を裁く立場の十人委員会のメンバーへの怒りを歌いあげる。ドラマチックな部分、アジリタを必要とする部分と多様な技巧を使い分ける役。佐藤亜希子はベルカント・オペラをレパートリーとしていることもあり、ころがす部分についてはまずまずの対応。第1幕での強い声を必要とするところでは、もう一つ迫力がほしい感じは受けた。しかし、この難役をよく歌っていたと思う。ヤコポの藤田卓也は聴かせどころの第2幕のアリアでの歌唱が映えた。
全体としての音楽作りを支えたのは、指揮の田中祐子である。速めのテンポで押すところ、たっぷり歌わせるところ、初期ヴェルディらしい音形をしっかり響かせ、また歌手の歌を見事にサポート。東京フィルハーモニー交響楽団もよく反応していた。この時期の作品ならではの魅力があることを教えてくれる演奏といえよう。
三団体が共演した合唱に関しては、精度と圧力が欲しかった。
演出面では、会議室にマイクを置くなど現代に近い設定としていたが、特に大きな読み替えはされていない。総督以外はほとんど黒の衣装に統一しているなど、フランチェスコの物語にスポットライトをあてた舞台となっていて、この部分は理解できる。一方、違和感を感じたのは二点。十人委員会と評議会のメンバーの動きに統一性がなかったこと、そして最後にヤコポの棺を運び込み、フランチェスコがその上に覆いかぶさるように倒れたこと。

多少のキズはあったものの、このオペラが初期ヴェルディの魅力に溢れる作品であることをしっかりと伝えてくれた上演であった。

(2023/10/15)

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<Staff,Cast>
Conductor: Yuko TANAKA
Stage Director: Shugo IKOH
Francesco Foscari: Hayato KAMIE
Jacopo Foscari: Takuya FUJITA
Lucrezia Contarini: Akiko SATO
Jacopo Loredano: Taiki TANAKA
Barbarigo: Takashi OIKAWA
Pisana: Kanae NAKAGIRI
Chorus: Fujiwara Opera Chorus Group
    New National Theatre Chorus
    Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra