京都市交響楽団第682回 定期演奏会|能登原由美
京都市交響楽団 第682回 定期演奏会
The 682nd Subscription Concert of the City of Kyoto Symphony Orchestra
2023年9月23日 京都コンサートホール
2023/9/23 Kyoto Concert Hall
Reviewed by 能登原由美(Yumi Notohara)
写真提供:京都市交響楽団
〈演奏〉 →foreign language
指揮:沖澤のどか
京都市交響楽団
<曲目>
ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
コネソン:管弦楽のための「コスミック・トリロジー」(日本初演)
I. スーパーノヴァ(超新星)
II. 暗黒時代の一条の光
III. アレフ
本年4月に京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任した沖澤のどか。同月に行われた就任披露公演については聞き逃したが、この組み合わせによる公演は2年前に一度聴いている(京都市交響楽団第661回定期演奏会、2021年10月15日開催)。ドビュッシー、サン・サーンス、ラヴェルのフレンチ・プログラムを通して抜群のリズム感や音色への感性を存分に見せたが、それ以上に《ダフニスとクロエ》第2番での、巨大な音の塊を自在に操りながら躊躇なく突き進んでいく様には圧倒されたのを今でもよく覚えている。もちろん、実際に機動力を発揮するのはオーケストラの側であり、個々の奏者の能力は当然ながら相互の信頼関係がないとそのような「うねり」は生じようもない。要するに、コミュニケーション能力や統率力も大事だが、何よりもポディウムに立つ人に求められるのは、相手を信じ音楽を信じる「度胸」ではないか。彼女の場合、まさにこの点において「肝が座っている」のもその魅力の一つと言えるだろう。
それはプログラミングにも表れている。というのも、現代音楽をメインに据えるケースは日本のオーケストラではまだそれほど多くはない。ましてや存命中の作曲家の新曲初演となると、知名度も影響して集客の見込みも不透明、非常に冒険的な試みなのだ。さらに今回の作品の場合、彼女自身がプレトークで語っていたように、「各奏者に高度な演奏技量が求められる」。ゆえに「常任のポストをもった時に演奏しようと思っていた」というが、このようにさまざまな点でリスクの大きい同時代作品を取り上げる楽団などそう多くはないはずだ。やはり胆力のある指揮者なのだろう。
演奏においてもしかり。まさにその「度胸試し」の選曲、日本初演となるコネソンの「コスミック・トリロジー」がそうであった。1970年生まれのこのフランスの作曲家が、〈スーパーノヴァ(超新星)〉(1997年)、〈暗黒時代の一条の光〉(2005年)、〈アレフ〉(2007年)の3つの交響詩からなる本作を完成させたのは、僅か15年ほど前のこと。100年も200年も前の作品演奏が依然として主流となっている状況からすると、やはり挑戦的なプログラミングと言える。ただ実際に聞いてみると、様式的にはそれほど斬新というわけではなく、むしろ耳馴染みの良い曲であることがわかる。主題となっている「宇宙」についても、そもそもはるか昔から音楽と天文学は近い関係にあったわけだし、標題や表現の狙いを含め、予想を超える世界が現出したわけではない。それは良い意味でも悪い意味でも、だ。
とはいえ、高揚感は常にあった。それはむしろ観念や想念とは異なるところ、生成される音の中から湧き上がる興奮であったと言えるかもしれない。すなわち、響きの濃淡や膨張・凝縮などの緩やかな変化が舞台全体を揺曳し、もたらされる浮揚感。徐々に加速する律動と厚みを増す音響により、あの「うねり」が巻き起こり始める。そこに舞曲のリズムが加わると、その勢いはもはや止まらない。しかも実に引力のある音塊なのだ。この物体のエネルギーの行く末を見届けたいと思ううちにいつしか自分もその中に取り込まれ、結局最後まで心も身体も引きつけられたまま天体遊泳は最終局面へ。最後には爆発的な衝撃を一緒に体験することになった。宇宙の神秘を「聞く」でも「見る」でも「考える」でもなく、「体感する」という言葉が相応しい「出来事」であった。
一方、前半に演奏したベートーヴェンの第4交響曲では、そうした彼女の持ち味は後景に追いやられる。例えば、第1楽章の始まり。序奏では一つ一つの音の響きにこだわりすぎるために流れが淀み、主部との断絶感が際立った。確かにその分、第一主題に入って以降の軽快な調べが生きてくる。が、音楽が生成される始原でもあるのだから、この冒頭部にこそ万物へと繋がっていく息の流れをみたい。ここでは、「体感型」の彼女の本領が、楽曲の形式や様式を前に尻込みしてしまっているような印象をもった。
いやいや、そうは言ってもこの新しい常任指揮者に対する期待値が大きいことは間違いない。とりわけこうしたチャレンジは日本のクラシック界にとっても大きな刺激となる。今後もさまざまな冒険を一緒に楽しませてほしい。
(2023/10/15)
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〈cast〉
Conductor: Nodoka Okisawa
City of Kyoto Symphony Orchestra
〈program〉
Beethoven: Symphony No. 4 in B-flat major op. 60
Connesson: “Trilogie cosmique” pour orchestre (Japan Premiere)
I. Supernova
II. Une lueur dans l’âge sombre
III. Aleph