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フェスタサマーミューザKAWASAKI2023 山形交響楽団|藤原聡

フェスタサマーミューザKAWASAKI2023
山形交響楽団

2023年7月30日(日)ミューザ川崎シンフォニーホール
2023/7/30 Muza Kawasaki Symphony Hall
Reviewed by 藤原聡(Satoshi Fujiwara)
Photos by 池上直哉/写真提供:ミューザ川崎シンフォニーホール

<演奏>       → foreign language
山形交響楽団
指揮:鈴木秀美
ヴァイオリン:石上真由子
コンサートマスター:犬伏亜里

<曲目>
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
ソリスト・アンコール:ベートーヴェン=松﨑国生:七重奏曲「メヌエット」より(石上真由子委嘱新作)
シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944『ザ・グレート』
オーケストラ・アンコール:ベートーヴェン:オーケストラのための12のメヌエットWoO 7より 11番

 

クラシック・ファンにとって完全に夏の風物詩となった感のあるフェスタサマーミューザ。このシリーズで毎年大いに興味を惹かれるのがこれへの参加のためにだけ上京してくれるいわゆる「地方オーケストラ」であろう。過去にはオーケストラ・アンサンブル金沢や大阪フィル、そして京都市交響楽団などが本シリーズに登場しているが、今年は山形交響楽団が初参加。指揮を執るのは首席客演指揮者である鈴木秀美、そしてベートーヴェンでソロを務めるのは八面六臂の活躍ぶりで近年さらに話題の石上真由子。ありきたりの演奏にとどまらぬ刺激的な音楽を期待して当然のシチュエーションかと。

8型という絞り込んだオケにピリオド仕様のホルン、トランペットにティンパニという編成でのベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲では、ヴィブラートをほとんど抑制した弦楽器群に先述した8型編成ということもあり管楽器との絡み合い(特にファゴットとのそれ!)が手に取るように聴き取れるのが、今まで何度聴いたか分からぬこの曲を誠に新鮮に響かせ冒頭から覚醒させられる思い。そしてオケ提示部が終わってからの石上のソロ登場によって聴き手はさらに軽く礫を投げられる。なるほど、鈴木秀美の指揮によりオケがピリオド風味の演奏を聴かせていたからには納得もされようが、間違いなくガット弦を使用しているであろう滑らかさとは遠いザラッとした肌触りの変化に富んだ音、弓を弦に強く当てず、かつ旋律をレガートで繋げず独特のアーティキュレーションで都度「置いて」行くかのような感触の奏楽はバックのオケに輪をかけてフレッシュである。さらにカデンツァ。よもやクライスラーやヨアヒムのものは弾くまい、シュニトケ作もクレーメルによってとっくに有名になっているから多分避けるであろうとのこちらの漠たる思いのまま突入したそれは聴いたことのないもので、正直全体からは「浮いて」いつつ、しかしこの上なく面白い。第3楽章のカデンツァはさらに聴き応えがあり、作品の特徴的なモティーフを上手く活用した傑作となっていたのであった。作曲は石上がこのコンサートのために(かは知らぬが)委嘱した松﨑国生・作。この楽章では即興性の高いアインガングや装飾もまた興を高めるのに貢献したと言って良かろう。

かような音楽作りであるからオールドスタイルな演奏を好む方がどう捉えられたかは分からないが、しかしこう言っては何だがこの手垢の付いた耳タコの作品からこれだけの新たな表情や音を拾い上げた石上と鈴木秀美&山響は大いに称賛されて然るべきだろう。筆者はもちろん賛辞を贈る。

尚、石上はアンコールを演奏、これも件の松﨑アレンジによるベートーヴェン:七重奏曲のメヌエット。技巧的であり原曲からのイマジネイティヴな飛翔ぶりが実に楽しい聴きもの。

休憩を挟んでの『ザ・グレート』もまた目を瞠る演奏だ。こちらもベートーヴェン同様の8型オケにピリオド仕様トロンボーンだが、最初こそ響きの厚みや凝縮度不足に若干の不満を感じるも、提示部反復の辺からそれらは改善傾向を見せ、その後はタイトなテンポやロマン的な身振りによる情緒に染まらない瑞々しさを感じさせる表情付けなどが随所に炸裂した演奏を展開、全てが見通せるこのスケルトン仕様は堪らない。リピートは完全実行されたが退屈さゼロ(ちなみに最後はディミヌエンドせず)。このようなもぎたての果実のような演奏を聴くと、かつて感銘を受けた「大演奏」の肥大ぶりを想う(演奏とは時代や思想潮流との相関関係のもとにあるのだからこれは単純な良い悪いの話ではなく、今の筆者の感性もまた変化しているということだ、為念)。オケのアンコールは一陣の風のようなオーケストラのための12のメヌエットWoO.7からの第11番。また、全体を通して山響はここまでピリオド的な演奏語法を体得していたのだな、と驚いた次第。鈴木秀美の薫陶か。

かつて山響は東京来演時に数回聴いているが、改めて彼らの実力を実感したとともに、本拠地の山形テルサでも是非体験してみたくなるコンサートだった。

(2023/8/15)


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〈Player〉
Yamagata Symphony Orchestra
Hidemi Suzuki(Yamagata Symphony Orchestra Principal Guest Conductor),Conductor
Mayuko Ishigami,Violin
Ari Inubushi,Concertmaster

〈Program〉
Beethoven:Violin Concerto in D major,Op.61
(Soloist Encore)
Beethoven=Kunio Matsuzaki:Septet in E flat major,Op.20〜from Minuet(New work commissioned by Mayuko Ishigami)
Schubert:Symphony No.8 in C major,D944“The Great”
(Orchestra Encore)
Beethoven:12 Minuets,WoO.7〜No.11