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プロムナード|ネコとモノ|齋藤俊夫

from Wikimedia commons
photos by Alandislands

ネコとモノ
A Cat in the future but too many Things now.

Text & Photos by 齋藤俊夫(Toshio Saito)

「ネコを飼いたい」という想念に捕らわれたのはたしか昨年末であった。外から帰宅したら「ミャー」とか鳴いてネコがトコトコ出迎えてくれるイメージとか、ネコを抱いて一緒にコタツでアニメを見てるイメージとか、仰向けになった(最近はヘソ天と言うらしい)ネコをモフモフ撫でてゴロゴロ言わせてるイメージとかが数時間にわたって脳内で氾濫を起こしてしまったのだ。

私はそれまで生き物全般を飼うことについては、「生き物は言葉が通じないし、トイレするし、死ぬし」というしごく単純明快な理由で一貫して否定的であった。なのに何故に180度心情を反転してネコを飼いたくなったのか?

演奏会に出向かない限り、大量のモノ――書籍、マンガ、楽譜、CD、LP、録画DVDとBD、セルDVDとBDなどなど――を私宅に溜め込んで籠っているわが人生、モノは読むことができたり音が出たり映像がうつったりするが、こちらに向けてくる意志は持っていない。モノを読み続け聴き続け見続ける日々を延々と続けていたら、自分が人間として生物としてえらく薄っぺらいモノになってしまったのではないか、という感覚が背中からジワジワと広がってきた。そこに「ネコを飼いたい」という感情がムクムクと膨れ上がってきた、のだろうか。

まあ、要するに、寂しくなったのであるよ、多分。

咳をしても一人というか、面白い小説とかマンガとか映画とかアニメとかに接して「これはスゴい」と思っても一人。料理をして「今日は美味しくできた」と食べても一人。誕生日を祝うのも一人。クリスマスも一人。
一人でいることに寂しさを感じるようになったのは何時からなのかわからない。ネコを飼いたくなった頃からだろうか。それともずっと寂しかったけどネコを飼いたくはならなかったのか。

これでも整理できているほう

いずれにせよ俄然ネコを飼う気満々になったのだが、そこで問題なのは前述した私宅に溜め込んだ大量のモノの存在である。このモノどもとネコとの共存はおそらく不可能。CDの詰まった小型段ボールが山積している所にネコが飛び乗ったが最後段ボールの大崩落、CDは大散乱、ネコはもしかすると骨折などの重傷……となるのは目に見えている。いや、そんな大惨事を想定する前に、モノがどこにあるか、と冷静に私宅を見渡すに、全ての壁際にモノが積み上げられている。本棚やCD棚に収まっているモノは優等生で、ほとんどは様々なサイズの段ボールにテキトーに色々詰め込まれてテキトーな配置でうず高くそびえ立っている。その段ボールのジェンガの配置の隙間にも色々なモノがテキトーに積み上がってる。日本の都市設計思想のないビル街のようなイメージである。こんな所をネコが歩いたり走ったりしたらやっぱりモノの大崩落、モノは大破損、ネコは埋まって大怪我……。イカンイカン。

そもそもだ、このモノに占拠されし私宅にネコが寝たり食ったり鳴いたりする余地がない。ネコには寝床とかトイレとか爪とぎとか色々必要らしいがそんなモノ置く場所がない。

よし、このモノどもを処分……できるのか、私に? ナニモノも有用である限り捨てることはできない。だが、欲しい人に売ることなら可能なモノ「も」ある。売ることもできないモノもやっぱり沢山ある。前者は主にマンガである。後者は書籍、楽譜、CD、DVDの類い(録画DVDはそもそも売り物にならない)。よく説明できないが、私の中のモノ・ヒエラルキーは書籍を上に、マンガを下にしているのだ。未読のマンガは売れないが、読んだマンガなら傑作以外は売れる。でも傑作多いんだが……。
近所のブックオフに持っていくのは価値が理解されずほぼ無料で処理されるモノがほとんどなので却下である。hontoなどの古本宅配引取サービスはブックオフよりさらに値がつかないのでこれも却下。となると選択肢は、手間はかかっても利益率を計算するとブックオフとは桁違いであるヤフオクかメルカリになる。需要は少なくともモノとしての価値は高い品を数カ月間さらにそれ以上の長期に渡って出品し続けられる、価格や紹介文をこまめに変更できる、出品・郵送方法が合理的で簡便で、さらにほぼ匿名で取引できるので安全性高い、ということでメルカリを活用すべきと判断した。

で、約半年間で大きな段ボール数箱分、200冊以上のマンガを売り払った。が、まだまだモノがある。あり過ぎる。モノどもの中ではかさの大きなマンガをある程度売れば書籍は全て本棚に入るだろうという見込みは甘すぎたのかもしれない。モノよ、モノよ、汝らは何故かくも多いのか?

未聴CDに満ちた箱ども

もはやマンガを無差別で全部売り払うしかないのか?とやけっぱちな気分になりつつ思ったが、まだ可能性はある。未聴CDを聴いて棚にしまう、これである。実は未聴CDは全て小型段ボールに入れて保存してあり、棚にはまだ余裕があるのだ。この全てのCDを聴くのにどれくらいかかるのかわからないが……。このCDが入っている小型段ボール群の所に大きな段ボールを設置し、マンガと書籍を入れれば……なんとかなる、かなあ……。

いや、まだ我が家で増殖を続けているモノがあった。映画とアニメと音楽(NHKプレミアムシアターのオペラが主)の録画BDと、もう10年以上昔の録画DVDである。既に多分1000枚くらいあって今でも週1枚くらいの速度で増えている。棚に入りきれないモノが床に直接積んであるけど、これもビル街化しそう。見て捨てる? それには何千時間かかるというのか……。見ないで捨てる?……それは却下だ……。

結局のところ、未読マンガを読んで売り、未聴CDを聴いて仕舞い、未見BD・DVDを見て捨てる、という気の長い生活を根気強く続けるしかないのだろうか? いや、モノたちをのさばらせている限り自分にはネコを飼うことはできない、ということこそが真実であり、私はそこから目を背けているのだろうか?

あー、ネコ飼いたい。ネコの名前も私の中では決まってるんだけどそれは教えてあげない。

from wikimedeia commons
photos by Umberto Salvagnin

(2023/6/15)