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キャロリン・サンプソン&ジョゼフ・ミドルトン|藤堂清

キャロリン・サンプソン&ジョゼフ・ミドルトン
~ロベルト&クララ・シューマンの歌曲集から8つの情景~

2023年5月11日 王子ホール
2023/5/11 Oji Hall
Reviewed by 藤堂清 (Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 横田敦史/写真提供:王子ホール

<演奏>       → foreign language
キャロリン・サンプソン(ソプラノ)
ジョゼフ・ミドルトン(ピアノ)

<プログラム>
~ロベルト&クララ・シューマンの歌曲集から8つの情景〜
クララ・シューマン (1819-1896) & ロベルト・シューマン (1810-1856)

プロローグ
ロベルト:子供のためのアルバム Op.68 第2部「大きな子供のために」 第21曲 (ピアノ・ソロ)
クララ:きれいだから好きというなら「リュッケルトの『愛の春』から12の詩」 Op.12-2)

I. 彼をひとめ見たときから
ロベルト:彼をひとめ見たときから(「女の愛と生涯」 Op.42-1)
クララ:ああ、愉しい、愉しいかな (「ユクンデによる6つの歌」Op.23-6)
ロベルト:小さな民謡 (「リートと歌」 第2集 Op.51-2)
クララ 愛の魔法 (「6つの歌」 Op.13-3)

II. 誰よりも素晴らしいあのお方
ロベルト:誰よりも素晴らしいあのお方 (「女の愛と生涯」 Op.42-2)
クララ:ある明るい朝に (「ユクンデによる6つの歌」 Op.23-2)
   :なぜほかの人に訊くの (「リュッケルトの 『愛の春』 から12の詩」Op.12-11)
ロベルト:恋の歌(「リートと歌」 第2集 Op.51-5)

III. いったいどうしたのかしら 信じられない
ロベルト:いったいどうしたのかしら 信じられない(「女の愛と生涯」 Op.42-3)
    :露見した恋 (「5つのリート」Op.40-5)
クララ:しとやかな蓮の花 (「6つのリート」 Op.13-6)

IV. この指にある指輪よ
ロベルト: この指にある指輪よ (「女の愛と生涯」 Op.42-4)
クララ :月がそっと昇ってきた(「6つのリート」Op.13-4)
ロベルト:花嫁の歌Ⅰ (「ミルテの花」 Op.25-11)
    :花嫁の歌II (「ミルテの花」 Op.25-12)
    :幸せいっぱい (「子供の情景」 Op.15-5) (ピアノ・ソロ)

———————休憩———————
V. さあ手伝って妹たち
ロベルト: さあ手伝って妹たち (「女の愛と生涯」 Op.42-5)
    : はすのお花 (「ミルテの花」 Op.25-7)
    : 楽しき嵐の夜 (「12の詩」 Op.35-1)

VI. ねえあなた そんなふうに見るのね
ロベルト: ねえあなた そんなふうに見るのね (「女の愛と生涯」 Op.42-6)
    : ハイランドの子守唄 (「ミルテの花」 Op.25-14)
    : 砂男 (「子供のための歌のアルバム」 Op.79-12)
    : 眠りにつく子供 (「子供の情景」 Op.15-12) (ピアノ・ソロ)

VII. この心にこの胸に
ロベルト: この心にこの胸に (「女の愛と生涯」 Op.42-7)
    : 木馬の騎士 (「子供の情景」 Op.15.9) (ピアノ・ソロ)
    : すてきな綺麗なあなたのお顔 (「5つのリートと歌」 Op.127-2)
    : 少女の憂い (「4つの詩」 Op.142-3)

VIII. あなたはいま初めてわたしに苦痛をお与えになりました
ロベルト:あなたはいま初めてわたしに苦痛をお与えになりました(「女の愛と生涯」 Op.42-8)
    :レクイエム (「6つの詩とレクイエム」 Op.90-7)

ポストリュード
ロベルト: 冬の季節I (子供のためのアルバム 第2部「大きな子供のために」 Op.68-38) (ビアノ・ソロ)

——————アンコール——————
クララ・ヴィーク:夕べの星

 

ソプラノのサンプソンとピアノのミドルトンの二人が2017年12月以来5年半ぶりの来日リサイタルを行った。サンプソンの透明感のある声、ミドルトンの歌手に寄り添ったピアノに変わりはなく、考え抜かれたプログラムが聴衆を引き付けた。

シューベルトの歌曲集《冬の旅》や《美しい水車小屋の娘》のようにそれだけで一夜のコンサートを作れる場合でなければ、歌曲リサイタルのプログラムは、いろいろな考えで編成されることになる。ある作曲家の作品を集めたプログラム、「ヴォルフのメーリケの詩による歌曲の夕べ」とか、「レーヴェのバラードの夕べ」。また、特定の詩人の詩に作曲された作品によるコンサート、「ゲーテの詩による歌曲の夕べ」「ハイネの詩による歌曲の夕べ」。あるいは特定のテーマにそって集められた作品によるリサイタル、前回のサンプソンによる「花」をテーマとしたプログラムはこれにあたる。
キャロリン・サンプソンとジョゼフ・ミドルトンによるこの日のプログラミングはなかなか大胆。ロベルト・シューマンの歌曲集《女の愛と生涯》全8曲を骨格にして、その筋書きを膨らませるようにロベルトとクララ・シューマン夫妻の作品(歌曲を中心とした)を付加したもの。いわば「シューマン夫妻の愛と生涯」の物語。
構成は、プロローグと《女の愛と生涯》の各曲を冒頭においた8つのブロック、最後にピアノ・ソロによる後奏となる。プロローグの前にはこのプログラムの意味を説明するナレーションが英語で述べられた。その一部を引いておこう。

ロベルトとクララ・シューマンは、結婚した最初の年に共有の日記を書いていました。それについてロベルトは「われわれの感動や希望をすべて記し、言葉では尽くし難い相互の要求を伝える」ためのものだと説明しました。
今夜お聴きいただくのは、ふたりの関係を双方の視点から描き出そうという私たちの試みです。

プロローグは、ロベルトの《子供のためのアルバム Op.68》よりの ピアノ・ソロと、クララの〈きれいだから好きというなら〉(マーラーの付曲が有名)の2曲。

それ以降、ブロックごとにその位置づけや挿入した曲について、日本語で簡単に述べて、演奏に入っている。
ブロックのタイトルには《女の愛と生涯》の各曲名があてられている。最初のブロック名が「彼をひとめ見たときから」といった具合。ブロックの演奏もその曲から始められ、その後に2~3曲の歌曲が続けて演奏される。なかには、さらにピアノ・ソロを加えているブロックもある。最後のブロックVIIIだけは〈レクイエム〉のみを追加した形となっている。
挿入されている曲すべてがブロックタイトルと直接関係しているわけではない。
例えば、ブロックIに加えられているクララの〈ああ、愉しい、愉しいかな〉は音楽の喜びを歌ったもの。続くロベルトの〈小さな民謡〉とクララの〈愛の魔法〉の2曲は、〈彼をひとめ見たときから〉と意味的にもつながりが考えられる。
前半の4ブロックでは、クララの作品が加えられることで、「双方の視点」を入れることになっていたが、後半の挿入曲はすべてロベルトのもので、形の上では成立していない。しかし、ブロックVIでは子守唄や砂男などに関する歌を入れるなど、関連の強い選曲となっている。

サンプソンの声は力むところがなく、自然にホールをうめている。ミドルトンのピアノも、彼女同様無駄な力が入らない打鍵で美しい響き。
彼らのシューマンの世界を、《女の愛と生涯》の流れに乗って豊かに描き出した。見事なプログラムであった。

(2023/6/15)

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<Players>
Carolyn Sampson (Soprano)
Joseph Middleton (Piano)

<Program>
Clara Schumann (1819-1896) & Robert Schumann (1810-1856)

Prologue
Robert: Langsam und mit Ausdrück from Album für die Jugend Op.68 (Piano solo)
Clara: Liebst du um Schönheit Op.12-2

Ⅰ. Seit ich ihn gesehen
Robert: Seit ich ihn gesehen Op.42-1
Clara: O Lust, o Lust Op.23-6
Robert: Volksliedchen Op.51-2
Clara: Liebeszauber Op.13-3

Ⅱ. Er, der Herrlichste von allen
Robert: Er, der Herrlichste von allen Op.42-2
Clara: An einem lichten Morgen Op.23-2
Clara: Warum willst du and’re fragen Op.12-3
Robert: Liebeslied Op.51-5

III. Ich kann’s nicht fassen
Robert: Ich kann’s nicht fassen Op.42-3
Robert: Verratene Liebe Op.40-5
Clara: Die stille Lotosblume Op.13-6

IV. Du ring an meinem Finger
Robert: Du ring an meinem Finger Op. 42-4
Clara: Der Mond kommt still gegangen Op.13-4
Robert: Lied der Braut I Op.25-11
Robert: Lied der Braut II Op.25-12
Robert: Clickes gonua On 15.5 (Piano solo)

—————Intermission—————
V. Helft mir, ihr Schwestern
Robert: Helft mir, ihr Schwestern Op.42-5
Robert: Die Lotosblume Op.25-7
Robert: Lust der Sturmnacht Op.35-1

VI. Süßer Freund, du blickest mich verwundet an
Robert: Süßer Freund, du blickest Op.42-6
Robert: Hochländisches Wiegenlied Op.25-14
Robert: Der Sandmann Op.79-12
Robert: Kind im Einschlummern Op.15-12 (Piano solo)

VII. An meinem Herzen, an meiner Brust
Robert: An meinem Herzen, an meiner Brust Op.42-7
Robert: Ritter vom Steckenpferd Op.15-9 (Piano solo)
Robert: Dein Angesicht so lieb und schön Op.127-2
Robert: Mädchen-Schwermut Op.142-3

VIII. Nun hast du mir den ersten Schmerz getan
Robert: Nun hast du mir den ersten Schmerz getan Op.42-8
Robert: Requiem Op.90-7

Postlude
Robert: Winterzeit | Op.68-38 (Piano solo)

—————Encore—————
Clara Wiek: Der Abendstern