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東京・春・音楽祭 《ニュルンベルクのマイスタージンガー》|藤堂清 

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.14
《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(演奏会形式/字幕付)
Tokyo-HARUSAI Wagner Series vol.14
Die Meistersinger von Nürnberg“(Concert Style/With Subtitles) 

2023年4月6日 東京文化会館大ホール
2023/4/6 Tokyo Bunka Kaikan, Main Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 池上直哉 & 増田雄介/写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 

<出演>        →foreign language

指揮:マレク・ヤノフスキ
ハンス・ザックス(バス・バリトン):エギルス・シリンス
ファイト・ポークナー(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
クンツ・フォーゲルゲザング(テノール):木下紀章
コンラート・ナハティガル(バリトン):小林啓倫
ジクストゥス・ベックメッサー(バリトン):アドリアン・エレート
フリッツ・コートナー(バス・バリトン):ヨーゼフ・ワーグナー
バルタザール・ツォルン(テノール):大槻孝志
ウルリヒ・アイスリンガー(テノール):下村将太
アウグスティン・モーザー(テノール):髙梨英次郎
ヘルマン・オルテル(バス・バリトン):山田大智
ハンス・シュヴァルツ(バス):金子慧一
ハンス・フォルツ(バス・バリトン):後藤春馬
ヴァルター・フォン・シュトルツィング(テノール):デイヴィッド・バット・フィリップ
ダフィト(テノール):ダニエル・ベーレ
エファ(ソプラノ):ヨハンニ・フォン・オオストラム
マグダレーネ(メゾ・ソプラノ):カトリン・ヴンドザム
夜警(バス):アンドレアス・バウアー・カナバス
管弦楽:NHK交響楽団(ゲストコンサートマスター:ライナー・キュッヒル)
合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:エベルハルト・フリードリヒ、西口彰浩
音楽コーチ:トーマス・ラウスマン

 

マレク・ヤノフスキの指揮のもと、NHK交響楽団がキビキビとした音楽を聴かせる。テンポが速いというだけでなく、ダイナミクスの大きなメリハリのきいたオーケストラ、それが骨格をガッチリ作る。

©池上直哉

演奏会形式で、照明の変化はあるものの演出で見せるという側面はほぼない。主な歌手は舞台前面に並び、譜面台を前にして歌う。一人、ベックメッサーのアドリアン・エレートだけ暗譜で、自由に動きまわった。このような状況は公演の音楽に影響を与えるものとなった。エレートとダフィトのダニエル・ベーレはこのオペラを舞台で歌うことができるだろうが、他の歌手、主役のザックスのエギルス・シリンスを含め、それぞれが役にふさわしい声を持ち、楽譜から歌を紡ぎ出すすべは心得ているのだが、歌詞の細かなところまで把握し、役を自分のものにできていたかという点には疑問符が付く。とくにアンサンブルが重要な場面での踏み込んだやり取りが十分に表現されていたとは言えない。

©増田雄介

第1幕では、ダフィトがヴァルターにマイスターの歌の規則を教える場面での、かみ合わないやりとりの滑稽さがうきぼりにならなかったり、ヴァルターの歌を聴いた後のザックスと他の親方の対話が、意見のぶつかり合いと聞こえず、あっさりと流れていってしまったり、といった具合。
第2幕のザックスのモノローグ〈ニワトコのいい香りだ/Was duftet doch der Flieder〉、ヴァルターの歌の魅力について語る部分、大きな欠点がある訳ではないのだが、表情が単調でザックスの芸術への強い思いが伝わりにくい。この幕の終盤、街中を巻き込んでの大騒動、音の面ではきちんと整理されていて、混乱しているようには聞こえてこない。
第3幕の〈迷いだ、迷いだ。すべて迷いだ/Wahn! Wahn! Überall Wahn!〉というザックスの歌あたりから、演奏も熱を帯びてきた。ヴァルターの夢をザックスが書き留め、マイスター歌曲を産みだす場面も説得力があった。ザックスとベックメッサーの対話では、エレートの巧妙な歌い回しが二人のやり取りを引っ張っていく。最後の〈マイスターを侮ってはいけません/Verachtet mir die Meister nicht〉でのシリンスの歌は、集中力があり良い出来ばえであった。

©池上直哉

マレク・ヤノフスキ指揮のNHK交響楽団の骨太の演奏、その流れにのって歌えば音楽が出来上がる。ヤノフスキ・マジックと言ってよい。
しかしこのオペラ、歌手に自発性を求めたい。その意味で満足のいく歌唱を聴かせたのは、ベックメッサーのアドリアン・エレートとダフィトのダニエル・ベーレ。声で、歌で、演技をしていた。ザックスのエギルス・シリンスはこの負担の多い役柄をよく歌っていた。ヴァルターのデイヴィッド・バット・フィリップ、声自体に力はあるが、癖のある発声が気になった。ポークナー(夜警)のアンドレアス・バウアー・カナバスの力のあるバスの声は魅力。女声2人の役割は大きくないが、エファのヨハンニ・フォン・オオストラム、マグダレーネのカトリン・ヴンドザム、ともに明るく屈託のない歌を聴かせた。

全体としては高いレベルの演奏、多少の弱点はあったが、満足のいくものであった。

©池上直哉

(2023/5/15)

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Cast

Conductor:Marek Janowski
Hans Sachs(Bass-Baritone):Egils Silins
Veit Pogner(Bass):Andreas Bauer Kanabas
Kunz Vogelgesang(Tenor):Noriaki Kinoshita
Konrad Nachtigal(Baritone):Hiromichi Kobayashi
Sixtus Beckmesser(Baritone):Adrian Eröd
Fritz Kothner(Bass-Baritone):Josef Wagner
Balthasar Zorn(Tenor):Takashi Otsuki
Ulrich Eisslinger(Tenor):Shota Shimomura
Augustin Moser(Tenor):Eijiro Takanashi
Hermann Ortel(Bass-Baritone):Taichi Yamada
Hans Schwarz(Bass):Keiichi Kaneko
Hans Foltz(Bass-Baritone):Kazuma Goto
Walther von Stolzing(Tenor):David Butt Philip
David(Tenor):Daniel Behle
Eva(Soprano):Johanni Van Oostrum
Magdalene(Mezzo-Soprano):Katrin Wundsam
Ein Nachtwächter(Bass):Andreas Bauer Kanabas
Orchestra:NHK Symphony Orchestra, Tokyo (Guest concert master: Rainer Küchl)
Chorus:Tokyo Opera Singers
Chorus Master:Eberhard Friedrich , Akihiro Nishiguchi
Musical Preparation:Thomas Lausmann