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東京・春・音楽祭 リッカルド・ムーティ指揮《仮面舞踏会》|藤堂清 

東京・春・音楽祭 イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3
リッカルド・ムーティ指揮 ヴェルディ:《仮面舞踏会》(演奏会形式/字幕付)
Spring Festival in Tokyo, Italian Opera Academy in Tokyo vol.3
Riccardo Muti Conducts Verdi:‟Un ballo in maschera” (Concert Style/ With Subtitles) 

2023年3月28日(4月1日) 東京文化会館大ホール
2023/3/28 (4/1) Tokyo Bunka Kaikan, Main Hall
Reviewed by 藤堂 清(Kiyoshi Tohdoh)
Photos by 池上直哉&平舘 平/写真提供:東京・春・音楽祭実行委員会 

<出演> (かっこ内は4月1日のキャスト)     →foreign language

指揮:リッカルド・ムーティ
(澤村杏太朗、アンドレアス・オッテンザマー、レナート・ウィス、マグダレーナ・クライン)
リッカルド(テノール):アゼル・ザダ(石井基幾)
アメーリア(ソプラノ):ジョイス・エル=コーリー(吉田珠代)
レナート(バリトン):セルバン・ヴァシレ(青山貴)
ウルリカ(メゾ・ソプラノ):ユリア・マトーチュキナ(中島郁子)
オスカル(ソプラノ):ダミアナ・ミッツィ(中畑有美子)
サムエル(バス・バリトン):山下浩司
トム(バス・バリトン):畠山 茂
シルヴァーノ(バリトン):大西宇宙
判事(テノール):志田雄二
アメーリアの召使い(テノール):塚田堂琉
管弦楽:東京春祭オーケストラ
合唱:東京オペラシンガーズ

 

なんという充実した響き、緊張の途切れない演奏。リッカルド・ムーティの指揮が引き出したオーケストラの音は、聴くものをつかんで離さない。

オペラ《仮面舞踏会》は1859年に初演されたヴェルディ中期の傑作。
スウェーデンのグスターヴォ3世の仮面舞踏会での暗殺をテーマとした原作が検閲で受け入れられなかったため、場所を植民地時代のボストンに移し制作された。主人公リッカルドはボストン総督、彼がひそかに想いを寄せる女性アメーリア、彼女の夫でリッカルドの忠実な家臣レナートが主な役柄。これにリッカルドの小姓オスカルや占い師ウルリカが加わる。ウルリカの占いを試しに行ったリッカルドはレナートに殺されると予言される。彼は秘めた恋に苦しんでいるアメーリアと互いに愛していることを知るが、その場に現れたレナートにみつかり怒りをかう。仮面舞踏会でアメーリアに別れを告げているところを予言どおり殺される。

©Taira Tairadate

演奏面に入ろう。
東京春祭オーケストラは、この音楽祭のこの公演のために編成されたもの。全国のオーケストラ・メンバーを中心に、若手演奏家で構成されている。常設ではないが、アンサンブルにまったくゆるみはない。管楽器のソロの音色も魅力。低音弦の際立つ動きやパートの受け渡しの妙技にハッとさせられる。すぐれた力量の奏者をムーティが十分に指導した成果なのであろう。
前奏曲は、ヴァイオリンのピッチカートとフルートとオーボエのピアニッシモで始まり、続いて他の管楽器、ヴィオラなどが最弱音で加わってくる。終盤では管楽器の全奏での短い音符と休符の積み上げが印象に残る。ドラマの展開に期待を持たせる出だし、その精緻な響きの見事さ。第1幕第2場冒頭の全楽器でのたたきつけるような強奏。各所でオーケストラの充実を聴くことができた。
合唱も細かなところまで神経の行き届いた演奏。ことにパートごとの響きの統一が見事。第1幕第1場冒頭の合唱の弱声のコントロール、第1幕第2場のフィナーレの盛り上がりなど、聴かせどころが多い。

©Naoya Ikegami

一方、歌手に関しては今回はかなり不満が残る結果となった。
リッカルドのアゼル・ザダ、やわらかい明るい声は悪くないが、この役の二つの側面、しっかりしたリリコの声で歌い上げる曲、例えば第1幕第2場の船乗りに扮してのものと、軽く転がす歌い方が必要な〈そんな予言は〉という曲を、十全に歌い分けることはできなかった。第3幕のアリア〈たぶん彼女は家に着いて〉では安定した歌を聴かせた。
アメーリアを歌ったジョイス・エル=コーリーは、リリコ・スピントの厚めの声はよいのだが、第1幕では響きが乗らない場面がときおりあり、また声の細かな動きが不得手と感じさせられもした。第2幕のアリア〈恐ろしい野原に着いた〉では安定していたが、第3幕のアリア〈最後の願い〉では弱声のコントロールに苦労。
第2幕でのこの二人の二重唱、秘めていた思いを互いに打ち明け、愛を歌いあげる場面、歌よりもオーケストラの方がより雄弁に語っていた。
ウルリカのユリア・マトーチュキナは声の圧力、安定感ともにすぐれていて、この1場しか出番のない役でも舞台での存在感が際立っている。オスカルのダミアナ・ミッツィの軽やかな歌は、多くの場面で華やかさを加える。レナートのセルバン・ヴァシレは主役の中では安定感があり、まずまずの出来ばえ。第3幕第1場のアリア〈立ちなさい!〉はしっかりとした歌であった。

というわけで、ムーティの指揮に圧倒された公演。

さて、この公演は「リッカルド・ムーティ イタリア・オペラ・アカデミー in 東京 vol.3」というイベントの一部として行われたもの。オーケストラや歌手もムーティの指導を受けてきているのだが、本来のアカデミーの対象者は4人の若手指揮者。その彼らの成果発表とでもいうべき公演が4月1日に同じ東京文化会館で行われた。演目はもちろん《仮面舞踏会》、オーケストラと合唱は同じ、歌手5名は日本人に変わった。オペラを4つに分割し、4人が交代で指揮する。指揮順は「くじ引き」で決められたとのこと。澤村杏太朗は堅実な指揮、穏やかな演奏といえる。アンドレアス・オッテンザマーは大胆に勢いを持った演奏を行った。レナート・ウィスは少し踏み込みに欠けるという印象。マグダレーナ・クラインは柔軟性があり、曲を、表情をよく作っていた。
同じレッスンを受けても、個性の違いがあり、ムーティのコピーではないことに、このアカデミーの意味を見た。

(2023/4/15)

©Naoya Ikegami

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Cast (Cast for 4/1 is in parentheses)

Conductor:Riccardo Muti
(Kyotaro Sawamura, Andreas Ottensamer, Leonard Weiss, Magdalena Klein)
Riccardo(Tenor):Azer Zada (Motoki Ishii)
Amelia(Soprano):Joyce El-Khoury (Tamayo Yoshida)
Renato(Baritone):Serban Vasile (Takashi Aoyama)
Ulrica(Mezzo-Soprano):Yulia Matochkina (Ikuko Nakajima)
Oscar(Soprano):Damiana Mizzi (Yumiko Nakahata)
Samuel(Bass-Baritone):Koji Yamashita
Tom(Bass-Baritone):Shigeru Hatakeyama
Silvano(Baritone):Takaoki Onishi
Un Giudice(Tenor):Yuji Shida
Un Servo di Amelia(Tenor):Toru Tsukada
Orchestra:Tokyo-HARUSAI Festival Orchestra
Chorus:Tokyo Opera Singers