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札幌交響楽団 東京公演 2023|藤原聡

札幌交響楽団 東京公演 2023
Sapporo Symphony Orchestra Tokyo Concerts 2023

2023年2月9日(木)サントリーホール
2023/2/9 Suntory Hall
Reviewed by 藤原聡 (Satoshi Fujiwara)
Photos by 堀田力丸/写真提供:札幌交響楽団

(演奏)        →foreign language
指揮:マティアス・バーメルト
フルート:カール=ハインツ・シュッツ
ハープ:吉野直子
コンサートマスター:会田莉凡

(曲目)
武満徹:雨ぞふる(1982)
モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲
※ソリストアンコール→イベール:間奏曲
シューベルト:交響曲『ザ・グレイト』
※オーケストラアンコール→シューベルト:『ロザムンデ』バレエ音楽第1番より

 

コロナ禍に関わる入国規制で来日不能となったバーメルトに代わりちょうど別のコンサートのため日本に滞在していたユベール・スダーンが登壇したのが2022年2月の札幌交響楽団東京公演であったが、今年の同響東京公演には首席指揮者であるバーメルトが無事に登場である。2021年には札響の東京公演は行われておらず、それゆえバーメルトが東京の聴衆の前に現れるのは2020年以来3年ぶりとなり、期待は大いに高まる。

最初のプログラムが武満徹の『雨ぞふる』と聞いて意外の感を持たれる方がおられるかも知れないが、現代音楽祭で名高いダルムシュタットの地で学び、ブーレーズやシュトックハウゼンに作曲を師事した経歴、そしてChandosレーベルに様々な時代の作曲家の実に多様な録音を残していることから分かるようにこの指揮者には「〜を得意とする」というような分かり易いレッテルを貼り難い奥の深さがある。この日の武満は極めて切り詰められた小編成の室内オーケストラ作品ながらモダニストとしてのバーメルトの顔が垣間見え、明快な拍節と各楽器の音色のコントラストを生かした音像を構築していた。この辺り、日本人指揮者が同曲を振った際の音響設計とは明確に異なるのが実に興味深く―パーヴォ・ヤルヴィが指揮した『弦楽のためのレクイエム』と共通する色合いを感じた―、しかしこれもまた良い演奏であった。そして、このような曲でも自らの「色」を確実に刻印したバーメルトもやはり卓越した指揮者だと認識。

2曲目はカール=ハインツ・シュッツと吉野直子を迎えてのモーツァルト。ここでバーメルトは主張を控えてソリストの下支えに徹した感があるが、しかしこの2人の何と魅力的なことか。シュッツの音は常に美しく、ウィーン的伝統を踏まえてかビブラートは控えめで伸びやかかつ軽やかで風のように舞い、それでいて中低域は密度が濃くまろやか。フィンガリングも滑らかの極み、ムラとばらつきがない。そりゃあウィーン・フィルのトップ奏者ですからね。とは言え、歴代の人たちに比べても一頭地を抜く存在なのではないか。昔ながらの濃厚なローカル色は希薄ながら現代フルートの規範的な演奏がこれだろう。吉野のハープはシュッツの手前やや控えめだった感はあれども、音の粒立ちと美音が素晴らしい。この両者によって奏でられたフルートとハープのための協奏曲は全くもって贅沢な耳のご馳走だったと言うしかあるまい。そしてアンコールのイベールではそんな2人―特にシュッツ―の魅力がさらに炸裂。肩の力が抜けきった自然体で、しかし快速で技巧的なパッセージをすいすいと吹き切るその音楽性、脱帽。

そして休憩後の『ザ・グレイト』では再びバーメルトの辣腕ぶりが冴え渡る。第1楽章こそオケの響きには若干の隙間風とテンションの低さ、混濁が感じられたが、第2楽章の後半から透明感及び響きの密度が明らかに向上。指揮者のモダニスティックな側面は各楽章のテンポ設定の統一感や内声部への配慮によるベタ塗りにならない立体的な音像構築にはっきりと表されていて、凡庸な指揮であれば退屈に堕ちかねないこの曲の革新性が顕にされていて快哉を叫びたくなる(叫ぶ、と言えば第2楽章が終わった際に「オーボエさんお見事!」と本当に大声で「叫んだ」御仁がいて面食らったが)。しかし、例えばアーノンクールのようにその辺りを前面に押し出したイデオローグ的な主張の強さともまた味わいは異なり、モダニスト的側面と昔風情の素朴な味わいも兼備しているのがバーメルトの良さではないか。これは掛け値なしの名演奏であった。尚、リピートは実施箇所と省略箇所が混在。この辺りもバーメルトがいわゆる教条主義的な音楽家でないことを物語る。アンコールには『ロザムンデ』、札響の清冽な弦楽器が耳に心地良い。

筆者にとっては2019年の同じ札響東京公演以来2度目のバーメルト体験であったが、楽曲の良さを自然な形でレアリゼさせることの出来る卓越したアルチザン(最大の賛辞と捉えて頂きたい)と再認識した次第だ。

関連評:札幌交響楽団東京公演2023|丘山万里子

(2023/3/15)

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〈Players〉
Conductor:Matthias Bamert
Sapporo Symphony Orchestra
Flute:Karl-Heinz Schütz
Harp:Naoko Yoshino
Concertmaster:Ribon Aida

〈Program〉
Toru Takemitsu:Rain Coming(1982)
Mozart:Concerto for flute and harp in C major K.299
※Soloist Encore→Ibert:Interlude
Schubert:Symphony in C major D944“The Great”
※Orchestral Encore→Schubert:Rosamunde–Ballet Music No.1