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アンサンブル・ノマド結成25周年記念 第77回定期演奏会|齋藤俊夫

アンサンブル・ノマド結成25周年記念 第77回定期演奏会 ”委嘱・献呈作品集”vol.3:ノマドの時代
Ensemble NOMAD 25th Anniversary, 77th Subscription Concert

2023年2月5日 東京オペラシティリサイタルホール
2023/2/5 Tokyo Opera City Recital Hall
Reviewed by 齋藤俊夫(Toshio Saito)
Photos by 林喜代種(Kiyotane Hayashi)

<演奏>        →foreign language
アンサンブル・ノマド
 ピッコロ/フルート/アルト・フルート:木ノ脇道元
 クラリネット/バス・クラリネット/バセットホルン:菊地秀夫
 ヴァイオリン:野口千代光
 ヴァイオリン:花田和加子
 ヴィオラ:甲斐文子
 チェロ:菊地知也
 コントラバス:佐藤洋嗣
 打楽器:加藤訓子
 打楽器:宮本典子
 ピアノ:稲垣聡
 ピアノ:中川賢一
 指揮:佐藤紀雄

(ゲスト)ヴィオラ:對馬佳祐

<曲目・演奏>
ベネト・カサブランカス:『俳句の手帳~9つの俳句』(2021年版、日本初演)
  ピッコロ/フルート/アルト・フルート:木ノ脇道元、クラリネット/バス・クラリネット:菊地秀夫
  ヴァイオリン:野口千代光、チェロ:菊地知也、ピアノ:稲垣聡
 指揮:佐藤紀雄

西村朗:『ロプノール(彷徨える湖)』10奏者のための(2022年、世界初演)
  ピッコロ/フルート:木ノ脇道元、クラリネット:菊地秀夫
  ヴァイオリン:野口千代光、花田和加子、ヴィオラ:對馬佳祐、チェロ:菊地知也、コントラバス:佐藤洋嗣
  打楽器:加藤訓子、宮本典子、ピアノ:稲垣聡
  指揮:佐藤紀雄

近藤譲:『合歓』(2020)
  フルート:木ノ脇道元、クラリネット/バセットホルン:菊地秀夫
  ヴァイオリン:野口千代光・花田和加子、ヴィオラ:甲斐文子
  チェロ:菊地知也、コントラバス:佐藤洋嗣、ヴィブラフォン:宮本典子
  指揮:佐藤紀雄

根岸宏輔『うす明かりの中に』(2022、世界初演)
  フルート:木ノ脇道元、クラリネット:菊地秀夫、ヴァイオリン:野口千代光
  ヴィオラ:對馬佳祐、チェロ:菊地知也、ピアノ:稲垣聡、打楽器:加藤訓子
  指揮:佐藤紀雄

アレハンドロ・ビニャオ:『ノマドの時間』(2021、世界初演)
  フルート/アルト・フルート:木ノ脇道元、クラリネット/バス・クラリネット:菊地秀夫
  ヴァイオリン:野口千代光・花田和加子、ヴィオラ:甲斐文子、チェロ:菊地知也
  コントラバス:佐藤洋嗣、ピアノ:中川賢一、打楽器:加藤訓子、宮本典子
  指揮:佐藤紀雄

 

音楽を求めて地球の古今東西を漂泊するアンサンブル・ノマド、今回はどんな宝物を見つけてきてくれたのか、とワクワク感100パーセントで臨んだ。

たった17音で世界を切り取る俳句のように極々小さな小品9つで構成されたカサブランカス『俳句の手帳~9つの俳句』。小さいと言っても、ウェーベルン作品のような情を排除した音楽ではなく、むしろベルクのような表現主義的かつ情緒的、また描写的な音楽。僅かな音によって感情や情景が浮かんでは消えゆく様は確かに俳句。中でも第9曲の静かで幽玄で、どこか日本的な風情漂わす音楽が心に残った。

西村朗『ロプノール(彷徨える湖)』、各パートごとに微妙に異なる形での、全楽器一斉トレモロ上行のイントロからして西村ワールド全開。うねり、ひびき、華やぐ、その音楽の色気といったらないが、それを成立させ、表現しているノマドの技量も特筆に値する。ある時は音が集合し、ある時は音が拡散する、合奏協奏曲的アンサンブルと言うだけではすまない超絶技巧室内アンサンブル。地から熱水が噴き上げ、風が遠方の空気を運び、燃える太陽の熱を感じる。心の視界がぐっと啓かれるような音楽体験をした。

西村の濃厚な音楽と好対照をなしたのが近藤譲『合歓』、そう、名高い「線の音楽」の方法論で書かれた作品である。「ピー」…「ドン」…「ヘポー」…「プー」…「ピー」…「パー」…「ドン」…と、発せられる音の前後の脈絡がほぼ完全に断ち切られている、ようで、人間の耳と頭の性質としてその脈絡のない音の群れに脈絡のある関係性をどうにかして頭の中でこしらえようとしてしまう。メロディやハーモニーといった衣を剥ぎ取られた裸の音の群れが、歩いているのに前に進まないまま歩き続ける。音楽的快を拒絶してもどうしても音楽となってしまうという音楽と人間の逆説が実体化した、近藤の線の音楽を堪能できた。

根岸宏輔『うす明かりの中に』、イントロの音を聴いて「タケミツサウンド」と思ったが、よく聴くと武満とは異なる、紗の膜のように透けた音色を傾聴した。だがこの優しい音がクレッシェンドして膨らみ、デクレシェンドして消えゆく、が延々と続くのには、あくまで筆者の感性では、であるが、じらされているような感覚、「言いたいことがあるなら早くはっきり言ってくれ」という感情を抱いてしまった。作曲者の耳、つまり音色を作る能力は高いと思えたが、その音を時間的にコンポジションする所にまだ伸び代があると見た。

最後のビニャオ『ノマドの時間』はメロディ、ハーモニー、リズムが確固として存在する、現代音楽としてある種の潔さを感じさせる作品。少々の憂いや気だるさを帯びることもあるが、音の運動はかくも面白かったか、と改めて思わせるリズミカルで妖精じみて華やぐ音楽こそビニャオの真骨頂。音楽に本来的に宿る楽しさを存分に味わわせてもらった。

関連評:アンサンブル・ノマド結成25周年記念vol.3|丘山万里子

(2023/3/15)

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<players>
Ensemble Nomad
piccolo/ flute/alto-flute:Dogen KINOWAKI
clarinet/bass-clarinet/basset horn:Hideo KIKUCHI
violin:Chiyoko NOGUCHI
violin:Wakako HANADA
viola:Fumiko KAI
cello:Tomoya KIKUCHI
double bass:Yoji SATO
percussion:Kuniko KATO
percussion:Noriko MIYAMOTO
piano:Satoshi INAGAKI
piano:Ken’ichi NAKAGAWA
conductor: Norio SATO

(guest) viola:Keisuke TSUSHIMA

<pieces & players>
Benet Casablancas: Book of Haiku – 9 Haikus
piccolo/ flute/alto-flute:Dogen KINOWAKI, clarinet/bass-clarinet:Hideo KIKUCHI, violin:Chiyoko NOGUCHI, cello:Tomoya KIKUCHI, piano:Satoshi INAGAKI
conductor: Norio SATO

Akira Nishimura: Lop Nur for 10 players
piccolo/ flute:Dogen KINOWAKI, clarinet:Hideo KIKUCHI, violin:Chiyoko NOGUCHI/Wakako HANADA, viola:Keisuke TSUSHIMA, cello:Tomoya KIKUCHI, double bass:Yoji SATO, percussion:Kuniko KATO/Noriko MIYAMOTO, piano:Satoshi INAGAKI
conductor: Norio SATO

Jo Kondo: Albizzia
flute:Dogen KINOWAKI, clarinet/basset horn:Hideo KIKUCHI, violin:Chiyoko NOGUCHI/Wakako HANADA, viola:Fumiko KAI, cello:Tomoya KIKUCHI, double bass:Yoji SATO, vibraphone:Noriko MIYAMOTO
conductor: Norio SATO

Kohsuke Negishi: In the Dim Light
flute:Dogen KINOWAKI, clarinet:Hideo KIKUCHI, violin:Chiyoko, viola:Keisuke TSUSHIMA, cello:Tomoya KIKUCHI, piano:Satoshi INAGAKI, percussion:Kuniko KATO,
conductor: Norio SATO

Alejandro Viñao: Tiempo Nómade
flute/alto-flute:Dogen KINOWAKI, clarinet/bass-clarinet:Hideo KIKUCHI, violin:Chiyoko NOGUCHI, Wakako HANADA, viola:Fumiko KAI, cello:Tomoya KIKUCHI, double bass:Yoji SATO, percussion:Kuniko KATO, Noriko MIYAMOTO, piano:Ken’ichi NAKAGAWA
conductor: Norio SATO