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彩り 2本のフルートによる トリオ・ソナタ|大河内文恵

彩り 2本のフルートによる トリオ・ソナタ
Colors Trio sonatas for two flutes
2023年2月19日 霞町音楽堂
2023/2/ 19 Kasumicho Ongakudo

Reviewed by 大河内文恵(Fumie Okouchi)
Photos by 為国健太 

<出演>          →foreign language
黒沼千比呂(フラウト・トラヴェルソ)
鈴木万里子(フラウト・トラヴェルソ)
懸田貴嗣(バロック・チェロ)
西野晟一郎(チェンバロ)

<曲目>
ゲオルック・フィリップ・テレマン:《3つのトリエットとスケルツォ》よりトリエット1番 ト長調TWV42:G2
ヨハン・アドルフ・ハッセ:《6つのトリオ・ソナタ作品2》より6番 ニ長調
ヨハン・ヨアヒム・クヴァンツ:《2本のフルートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ》イ短調QV2: 40

~休憩~

カール・ハインリヒ・グラウン:《2本のフルートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ》イ長調 GraunWV B:XV:62
J. J. クヴァンツ:《2本のフルートと通奏低音のためのトリオ・ソナタ》ホ短調QV2: 20
G. P. テレマン:《ターフェルムジーク(食卓の音楽)第3集》より ニ長調TWV42: D5

~アンコール~
G.P. テレマン:《3つのトリエットとスケルツォ》よりトリエット3番 第1楽章 ニ短調

 

フルート2本と通奏低音によるトリオ・ソナタ6曲という一見地味なプログラムが、こんなにも終始ワクワクしながら聴けるものになるとは予想していなかった。フラウト・トラヴェルソは現代のフルートの前身となった楽器で、キーはついておらず音量も小さい。その代わり、たとえばモダンのピアノとフォルテ・ピアノとの関係のように、モダンのフルートにはない繊細なニュアンスを出すことができ、それが「彩り」につながっていると実感した。

テレマン、ハッセ、クヴァンツ、C.H.グラウンと18世紀に北ドイツで活躍した作曲家の作品が集められており、そのために似たような曲が並ぶかと言えばむしろ逆で、それぞれの作曲家のフルートへのアプローチの違いが浮き彫りになる結果となった。

1曲目はテレマンのトリエット。演奏開始直後はフルートの音が小さいように感じたが、曲が終わる頃にはいつの間にか耳が慣れて全く気にならなくなっていた。2曲目はハッセのトリオ・ソナタ。1楽章はオペラの二重唱を聞いているような感じで、2本のフルートの音色が溶けあって1+1が何倍にもふくらむ。2楽章になると一転、器楽的でパキパキした音楽になり、ところどころに不意に入ってくるマイナー和音がスパイスのように効いている。長く延ばす音とその間で細かく動く旋律が交代しながら進んでいく3楽章、速い3拍子で軽快な4楽章とどの楽章も、曲間のトークで「当時の人気曲」「演奏していて楽しい曲」と評されていた通り、希代のメロディー・メーカーであったハッセらしさにあふれていた。

続くクヴァンツのトリオ・ソナタイ短調は、曲そのものの魅力で聴かせるというよりは、フルートの特性が活かされた、フルート奏者ならではの曲。フラウト・トラヴェルソの音色は、モダンのフルートの一種金属的なピンと張った音とリコーダーの木のぬくもりを内包した音の中間的なものだが、吹き方によって、どちら寄りにもなりえるのが魅力なのだとこの曲の演奏を聴きながら感じた。2本のフルートがメインの旋律を吹いているときと、ハモりのパートを担当している時とでは音色が異なるし、曲調によっても微妙に変化する。その変化を楽しむのに、トリオ・ソナタという形態こそふさわしいとわかる。

後半はベルリンの宮廷楽長だったC.H.グラウンの作品から。何でもないような曲想が続くとみせながら、さりげなく短いゼクエンツが入っていたり、イ長調の中に3楽章だけイ短調を混ぜていたりと軽く聴かせつつ飽きさせない絶妙さに唸る。

この日の白眉はクヴァンツのホ短調トリオ・ソナタ。グラウンのソナタとは対照的に、「最初からガチでいきますからお覚悟を」とでもいうように、同音の連続に細かい音符、三連符にゼクエンツ、転調と聴き手を煽る要素山盛りなところへ、すかさずメロディアスな展開が追加される。イタリア・バロック的な詰め込みをフルートの良さを活かしつつやるとこんな感じになるのかとクヴァンツの手腕に感服した。

最後はテレマンのターフェル・ムジークより。「有名曲なので知らない人は覚えて帰ってください」とトークにあったが、高級なホテルのロビーやレストランでかかっていそうな耳に心地よい音楽。アンコールは同じくテレマンのトリエット3番の1楽章。フラウト・トラヴェルソはD管なので、Dから離れた調は演奏しにくく自分たちの首を絞めたかもと前置きがあったが、なかなかどうして、曲想といい演奏といいカッコいいの一言。

フラウト・トラヴェルソ2本にチェロとチェンバロというミニマムな編成でも、小さなスノードームのように、これだけの世界がみせられるのかと認識を新たにした。

(2023/3/15)

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KURONUMA Chihiro, Flauto traverso
SUZUKI Mariko, Flauto traverso
KAKETA Takashi, Baroque Cello
NISHINO Seiichiro, Cembalo

Georg Philipp Telemann: Trietti methodichi e Scherzi: Trio No. 1 in G Major, TWV 42:G2
Johann Adolf Hasse: Trio Sonata op. 6 no. 6
Johann Joachim Quantz: Trio Sonata, QV 2:40

–intermission–

Carl Heinrich Graun: Trio Sonata GraunWV B: XV:62
J. J. Quantz: Trio Sonata QV2:20
G. P. Telemann: Musique de table, Part III: Trio in D Major, TWV 42:D5

–encore–
G.P. Telemann: Trietti methodichi e Scherzi: Trio No. 3, 1st movement